アプリエコシステムで立ちはだかった課題
ニッチになれなかったさまざまな理由のうち、「ユーザー体験のまずさ」「デバイスの入手が難しい」はテクニカルな課題と分類できる。Ubuntuスマートフォンは「動作が遅く、定期的にリブートが必要だった」とRaffiner氏は記すが、遅さについては当時から指摘があった。
このほか、位置情報サービスが安定していない、着信しているのに電話が鳴らない、ボタンが表示されないために電話ができないなど、スマートフォンの基本的な機能にすら問題が残ったままだったとのことだ(開発者は対応ハードウェアの拡大に忙しかったようだ)。またUbuntu Phoneの特徴だったHTMLベースのコンテンツ「Scopes」については、「デスクトップ上でScopesをどのように使うのかユーザーがほとんど理解していないのにもかかわらず、Scopesの構想に長い時間固執しすぎた」とも記している。
デバイスの入手については、BQでは売り切れ状態が続いていたこと、Ubuntu Phone Insiderでない限りMeizuのUbuntuスマホの入手は難しかったとのことを公表した。そもそも開発者もUbuntuスマートフォンを手にしたくてもなかなか手に入らなかったとしている。
Raffiner氏が失敗の最大要因と見るのは、モバイルOSの成功を左右するアプリエコシステムだ。UbuntuスマートフォンはAndroid、Windows、X11、iOSのいずれのアプリとも互換性がない上、Ubuntu Desktopとも異なるものであり、開発したアプリをUbuntuデスクトップでテストすることすら不可能だったという。
サードパーティーにしてみれば、Ubuntu for Phone向けに別バージョンのアプリを構築しなければならいが、実績がないプラットフォームに対してその価値があるのかの値踏みができないという状況だった。
そこで既存のアプリをクローンしたり、ウェブアプリを構築する開発者がいたものの、人気アプリはそれを認めていないケースが多い。WhatsAppの場合はAPIアクセスに巨額を要求、InstagramはAPIをロックダウンしたためにInstagram Scopeを削除しなければならず、Googleに至っては多くのサービスでパブリックAPIを公開していないなどとつづっている。
なお、同じような”振り返り”は、Firefox OSでも内部者が記している。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている