スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

MS-DOSやGEOSを搭載したPDA時代からHPの歴史を紐解く

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年07月02日 18時30分

 1991年に発売された小型の横型QWERTYキーボード端末「HP95LX」は、DOSアプリを入れてカスタマイズできるPDAとして人気となり、後継モデルの「HP100LX」でLXブームが到来、1994年登場の「HP200LX」は不動の人気モデルとなります。

 PCカードスロットを備えていたため、携帯電話を接続するPCカードを使ったりして外出先でもいつでもネットアクセスが可能でした。とはいえ、当時はパソコン通信につなぐ用途が主でした。

 HP200LXをモバイル端末として外出先での利用ニーズは海外でも高かったようで、この200LXの派生モデルとして「OmniGo 700LX」が1996年に登場します。

 これはHP200LXのボディーの上に、当時世界的にヒットしていたノキアの携帯電話「2110」シリーズをスライドして合体できてしまうという端末でした。

 片手で持つにはかなり大きく、ディスプレーを開くとそのまま後ろに倒れてしまうため、本体下部には転倒防止の足が収納されていました。手にもってみるとやや大き目ながらも、この合体セットを持ち運べばいつでもどこでも仕事の環境を構築できました。

HPのいにしえの名機LXが合体スマホになる「OmniGo 700LX」

 HPのLXシリーズはMS-DOSが動くことから超小型のノートPCのように使え、人気はどんどん広がっていきます。しかし、時代の流れには逆らえず1999年には製造中止となってしまいました。

 当時はそれに反対する著名が集まったり、200LXを買いだめするユーザーも出てきたほど。それほどまでに完成された製品ではあったものの、すでにPCはMS-DOSからWindowsへと移行が進んでおり、HPとしてもモバイル端末のOSはMS-DOSを廃止し、Windows CE(PocketPC)系のOSと、手書き入力にも対応したGEOSの2つを選択したのです。

 ちなみに、GEOSを搭載した「OmniGo 100」は1995年に登場。HP200LXの発売直後から、HPはすでにDOS以外のOSの選択を考えていたわけです。

 その後、後継モデルの「OmniGo 120」が出ただけでHPの同OSの採用は終了してしまいました。しかし、1996年に登場したノキアの横開き型QWERTYキーボード端末「Nokia 9000 Communicator」がGEOSを採用。OmniGo 700LXの時のコラボレーションの関係がノキアへのGEOSの採用を促したのかもしれません。

 200LXの後継となるモデル「HP 300LX」はWindows CEをOSに採用し、1996年に発売されました。その後はLXから「Jornada」と名前を変え、横開きのハンドヘルド型だけではなく、縦型タッチパネル形状の端末もシリーズに加えていきます。

 なお、2002年頭に登場した「HP Jornada 928 WDA」はGSMを内蔵したJornadaシリーズ唯一の機種。このWDAとはWireless Digital Assistantの略。PDAをわざわざWDAと呼ぶほど、当時は携帯電話機能を内蔵したPDAは珍しい存在だったわけです。

HPが販売していたWindows CE系OS搭載のJordanaシリーズ

コンパックの買収でiPAQブランドへ統一

 2002年にHPはコンパック(Compaq)を買収します。これによりモバイル端末はコンパックの製品ブランドであった「iPAQ」に統一されることになりました。iPAQは当時は人気が高い製品であり、ブランド統一によりPDA市場で一気にシェアを取ろうという考えだったのでしょう。

 iPAQの初代モデルは2000年に登場した「iPAQ 3150」でした。縦型のタッチパネル端末でしたが、他社品には無い大きな特徴があったのです。それはジャケットと呼ばれる拡張カバーの存在で、本体にスリーブのように被せることでハードウェア機能を拡張できたのです。

 ジャケットの種類は豊富で、PCカードやCF(コンパクトフラッシュ)スロットを増やすジャケット、携帯電話を接続するためのアダプタージャケットなども登場。日本ではここにPCカードまたはCFカードのPHS端末「P-in Comp@ct」などを装着していつでもどこでもネットアクセスを楽しむことができたのです。

ジャケットで拡張できたiPAQ

 また、海外ではGSMジャケットも販売され、これを装着すると音声通話やGPRS(2.75G)によるデータ通信・SMSの送受信も可能でした。このようにジャケットを使う必要があったものの、iPAQはいまのスマートフォンライクな使い方もできたのです。

 2004年にはGSMを内蔵した「iPAQ h6310」シリーズを発売。ようやく携帯電話機能が内蔵され、スマートフォンに近い製品が出てきました。h6310は3.5型240×320ドットディスプレー、CPUはOMAP1510、OSはWindows Mobile 2003 Pocket PC Phone Edition、メモリーは64MB、ストレージは64MB、本体下部にQWERTYキーボード搭載、カメラ無しというスペックでした。

 カメラを搭載した「iPAQ h6315」も派生モデルとして登場。それぞれからキーボードを無くした「iPAQ h6320」「iPAQ h6325」も発売になりました。

 なお、QWERTYキーボード需要はビジネス端末には高く、h6320とh6325用には本体下部に被せるキーボードカバーも登場。本体に合体させて機能を拡張するギミックのハードウェアをHPはいつも提供していたのです。

GSM内蔵のh6320。タッチパネル端末だがキーボードカバーが装着可能

 その後はアンテナレスにした「iPAQ hw6510」「iPAQ hw6910」などを投入。一方では携帯電話を搭載しない、純粋なPDAとして使う製品も展開していきました。この頃はGSMを搭載していても音声通話利用が主であり、高速なネットアクセスはWi-Fiを使う方が快適だったのです。

 しかし、各国で3Gの普及が進むと、iPAQにも3G内蔵を求める声が高まっていきました。そこでHPは2007年に3G搭載製品を発売、製品ラインアップの大幅な変更も行なったのでした。

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