スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

スマホがコンビニで売られる時代が来るかもしれない

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年08月06日 12時00分

 「ノキア帝国」とも言える時代は5年以上続きましたが、iPhoneの登場で市場のパワーバランスは激変。そのiPhoneを中心とした時代もAndroidの勢力が拡大し、いまや4台に3台の割合で世界のスマートフォンはAndroid搭載になっています。

 第3のOSと言われる前に登場したWebOSはLGがスマートTVに採用。MeeGoはインテルが描いた未来を現実のものにすることはできませんでした。Tizenもサムスンが新興国向けスマートフォンを数モデル出すのみでスマート家電向けOSとなっています。

 資金力に優れ、PCのOSでは圧倒的な強さを誇るマイクロソフトのWindows 10 Mobileが、いまでもわずか数パーセントのシェアしか取れていないことを考えると、FirefoxやUbuntuが3番目のOSになることは到底無理だったのでしょう。

第3のOSの時代はやってこなかった(写真はZTEのFirefox OS端末)

 そのAndroidの躍進を支えているのが、中国メーカーです。中国で3Gが開始された2008年以降、中国メーカーは徐々に頭角をあらわしていきます。

 中国各キャリアが3G普及を目指して、「1000元スマホ」と呼ぶ2万円前後のスマートフォンの開発を各メーカーに要請したことから、力をつけ出し、シャオミが2011年に「Mi 1」を出すと「高性能」「低価格」「高品質」と3拍子そろった製品が各社から次々と生まれるようになりました。

 シャオミはあっという間に世界中で注目のメーカーとなりましたが、いまやその勢いは落ち着きオッポ(OPPO)とビボ(Vivo)に抜かれてしまっています。

 そして、気が付けばファーウェイが中国のみならず世界でも存在感を高め、サムスン、アップルに次ぐ3位に到達。上位2社が年々シェアを下げていることから、数年後にはこれらの順位が逆転する可能性も十分ありうるでしょう。何せノキアが世界シェア1位から落ちることを予想した人は、10年前にはいなかったのですから。

ディスプレーの進化がいまのスマホを生み出した

 現在のスマートフォンが登場する以前の、「プレ・スマホ世代」とも言える時代の端末はタッチパネルを搭載しながらも、その操作はスタイラスペンを利用する必要がありました。画面サイズは大きくても3型以下。指先でタッチするには小さすぎるだけではなく、ディスプレーのタッチパネルも感圧式だったために、細かい操作にはペンが必要だったのです。

 しかし、十字キー操作とペン操作を切り替え、加えてペンを抜き差しするのは面倒なもの。そのため市場シェアを寡占していたノキアのスマートフォンはタッチパネルを搭載していませんでした。いまのスマートフォンよりもディスプレーが小さかったこともあり、当時はこれでも十分満足できるものだったのです。

ノキアのSymbian搭載スマートフォンは、タッチパネルではなかった

 2007年に登場したiPhoneは、3.5型で指先操作のできるディスプレーを搭載したことで、スマートフォンの使い方を180度変えました。そして、年々ディスプレーサイズの大型化とCPUの高速化が進むと、ソフトキーボードによる文字入力も快適になっていきました。

 コストのかかるQWERTYキーボードを搭載する必要性も薄まり、BlackBerryですらハードウェアキーボードの搭載機を減らしています。日本では世界に例を見ない特殊な文字入力・変換を必要とすることからフリック入力が普及しました。

 いまやスマートフォンのCPU性能はひと昔前のPCに追いついていますし、ディスプレーサイズも5.5型以上のモデルが多数登場し、解像度もQHDや4Kなど高精細になっています。サムスンが2011年にGALAXY Noteの初代モデルを出した時は「絶対に売れない」とまで言われたことがウソのようです。しかし、スマートフォンの本体サイズも毎年のように大型化しており、ベゼルを極限まで薄める端末の数も増えていきます。

 とはいえ、シャオミが6.4型でも片手で持てるベゼルレスなMi Mixを発表しましたが、コストの関係からかベゼルレス化は進んでいません。むしろ、ディスプレーや本体背面の角を丸めたエッジ・デザインの製品がここ1年の間に急増しています。ディスプレーのエッジ化はコストがかかるためか、一部のメーカーのみの採用に留まっていますが、背面側のエッジ化は各社が積極的に取り入れているところです。

 そして、2017年にはLGが18対9、サムスンが18.5対9という、シネマサイズに近い細長サイズのディスプレーを搭載した製品を相次いで発表。たとえば、「Galaxy S8+」は6.2型ながらも、5.5型の「iPhone 7 Plus」と横幅はほとんど変わっていません。今後は他社にも同じディスプレーの採用が進むことでしょう。

合体式や回転ギミック、数々の失敗はチャンレンジの歴史

 スマートフォンのカメラ性能は、ファーウェイのP9やP10のように「ライカ品質」をうたう製品が出てくるほど年々向上しています。コンデジの市場が急激に縮小したのもスマートフォンのカメラ画質アップ、そして、SNSの普及によるものです。

 気が付けば背面カメラはデュアルカメラ化が進んでいて、遠近の撮影もラクにこなせるようになっています。

 また、正面カメラ性能はアジアから始まったセルフィー人気に乗り、いまでは1000万画素を超えるものを搭載した製品も数多く出ています。正面と背面が同画質、あるいは正面の方が高画質、という製品も中国を中心に増えているのです。正面でもボケの効いた写真が撮れるモデルもあり、スマートフォンのカメラは前後とも同じ性能であることが当たり前になりつつあります。このカメラもひとつのカメラを前後に回転させることで、リア/フロントどちら側でも高画質な写真が撮影できるオッポの「N1」という製品もありました。しかし、カメラモジュールの高性能化と価格低下により、ひとつのカメラを動かすギミックよりも、2つのカメラを搭載したほうがコストもかからなくなっていったのです。

 また、スマートフォンにモジュールを合体させる製品は、なかなかいいアイデアが生まれず失敗作続きでした。最大の失敗とも言える、LGのG5はモジュール交換時にスマートフォンを一度シャットダウンしなくてはならないという設計が敗因となりました。実はこれ、ノキアが2003年に発売したゲーミングスマートフォンの「N-Gage」で似た失敗をやらかしています。N-GageはMMCカードでゲームを配信し、ゲームカートリッジも販売するという新しいビジネスモデルを模索しましたが、MMC交換のたびに本体の電源を切らなくてはならなかったのです。

 ほかのゲーム機がカセットをそのまま交換できたことに対し、これは非常に不便でした。LGの「G5」も、スマートフォン利用中に急にカメラグリップを使いたくなったら、スマートフォンをOFFにしなくてはならなかったのです。加えて、モジュールに交換式のバッテリーを取り付けてから本体に装着するという構造もやや面倒なものでした。

自分でパーツを選んで組み立てられるスマートフォンもあった(写真はXPX)

 スマートフォンの各パーツをモジュール化して、それらを自由に組み合わせて自分好みの端末をカスタマイズできる製品としては、グーグルの「Project Ara」がありましたが、開発は中止に。合体式は特に男性にとってはロマンとも言える構造でしょうが、製品化はなかなか難しいものなのです。現時点ではモトローラの「Moto Z」シリーズが唯一、合体式スマートフォンとして成功している例でしょう。

 スマートフォン本体の背面にマグネットと接点で専用モジュールのMoto Modsを接続することで、本体との一体感を損ねず、プラグ&プレイも実現しています。

まだまだ進化するスマホの未来にワクワクしよう

 タッチパネルで操作するスマートフォンのUIも、今後は変わっていくでしょう。Siriに代表される音声アシスタントも、アマゾンのAlexaの登場以降、スマートフォンへの搭載が一部メーカーで始まっています。もはやスマートフォンで情報を収集するだけではなく、本体や家電のコントロールなど、音声アシスタントは日常生活を送るうえで無くてはならないものになっていくでしょう。

 アマゾンは、過去に「Fire Phone」で大きなミスを犯してしまいましたが、Alexa Phoneを出してくるかどうか気になるところです。

 また、ディスプレーは前面すべてをおおい、ホームボタンや指紋センサーは廃止されていくでしょう。Galaxy S8/S8+がディスプレーの内部にホームボタンのセンサーを設置し、フロント面すべてがディスプレーに見える「Infinity Display」を搭載していますが、クアルコムはディスプレー内部に指紋認証センサーを組み込む技術を発表しています。ビボが試作モデルをすでに開発しており、各社への搭載も今後広がるでしょう。

 一方、まだまだ大きいディスプレーが必要なユーザーのためにも、ワイヤレスディスプレーの接続機能がより簡便になることが期待されます。現状では、TV側で接続を切り替えたり、スマートフォン側の設定メニューから操作をする必要があります。TVのリモコンに「スマホ接続」ボタンが搭載され、それを押すだけで繋がる、そんな簡単なソリューションがぜひ欲しいものです。

 画面に接続後はマルチウィンドウなど、疑似PCライクな使い方もしたいもの。サムスンの「DeXステーション」がすでに実現していますから、今後のAndroidのバージョンアップで、類似機能が使えるようになってほしいところです。

 ディスプレーの進化の面では、背面に電子ペーパーを搭載するモデルが毎年のように出てきていますが、大手メーカーには採用の動きが見られません。裏面を使うメリットのあるアプリがなかなか出てきていないからでしょう。iPhoneに装着できる、電子ペーパー搭載ケースも日本で出てきましたが、どこまで普及するでしょうか。

 同じ2画面なら、京セラの「Echo」のように、折り畳み式の2画面スマートフォンのほうが使いやすいのかもしれませんね。Echoは3.5型ディスプレー2枚で開くと4.7型に、また、NECカシオの「MEDIAS W N-05E」は4.3型が5.6型となります。Xperia Z Ultraクラスの大画面スマートフォンが開くようになればタブレットサイズとなり、これにキーボードを接続して簡易PCとして使う、なんてこともできるようになるかも。中国のどこかのメーカーに製品化を望みたいものです。

これからどんなスマホが出てくるか、楽しみだ

 カメラの進化も、VR時代を迎えて外付け式の360度カメラが増えてきています。いずれは小型化あるいは折り畳み式やポップアップによる本体収納式の360度カメラは増えるでしょう。モトローラのMoto Modsにも360度カメラが登場します。外付け式よりも本体収納・脱着式のほうが簡単であることから、Moto Modsモジュールはさらに進化していくかもしれません。

 スタートアップからはQWERTYキーボードも開発されましたし、前述した裏面の電子ペーパーディスプレーなども、Moto Modsならばすぐに実現できそうです。

 3Gから4G(と、VoLTE)、そしてこれから5Gへと、ネットワークの進化はまだまだ続きます。スマートフォンもそのネットワークへ対応すべく、各社は高性能な製品の開発に余念がありません。

 その一方で、基本的なサービスやアプリを使うユーザー向けには、コンビニでも買えるような低価格製品も増えていくでしょう。自動車や家電製品のように、ハイエンドから普及モデルまで、スマートフォンの製品バリエーションは、これからより広がっていくと思われます。また、アプリからサービスの時代になったことで、新しいOSが登場する可能性もあります。新・第3のOSが登場するのか、そちらにも期待したいものです。

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