スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

シャオミに打ち勝ったメイズが失速した理由は繰り返されるスマホの歴史だ

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年08月20日 12時00分

 MX4のスペックを前年モデルのMX3と比較してみましょう。MX 3から大きく進化していることがわかります。

MX3 MX4
ディスプレー
サイズ
5.1型 5.36型
ディスプレー
解像度
1080×1800ドット 1152×1920ドット
チップセット Exynos5410
(1.6GHz、オクタコア)
MT6595
(2.2GHz、オクタコア)
背面カメラ 800万画素 2070万画素
対応通信方式 W-CDMAのみ W-CDMA/FDD-LTE/TD-LTE

 一方、メモリーは2GB、正面カメラ200万画素は変わらず。ストレージは16/32/64GBでMX3にあった128GBモデルはなしとなっています。実は、このあたりのスペックを抑えたのには、大きな理由がありました。それは本体価格です。

 メイズのスマートフォンはこれまで2000元を超える価格設定となっていましたが、MX4の16GBモデルは1799元(約2万9700円)。ハイスペック・低価格を売りにしてきたシャオミのフラグシップモデルが一貫して1999元(約3万3000円)でしたから、それよりも低い価格をつけてきたのです。

シャオミ人気を抜き去ったメイズのMX4

 そのシャオミは、2014年7月に「Mi4」を出しますが、これが戦略的には失敗作となってしまいました。前モデル「Mi3」との違いは金属フレームの高級感も持たせたボディーデザイン、正面カメラを800万画素に向上、チップセットがSnapdragon 800から801に変更になった程度。

 しかも、3Gモデルが先の発売になり、4GモデルはTD-LTEのみ対応品が9月予定と、「中国最高のスマートフォン」を求めていたユーザーをがっかりさせてしまったのです。

 MX4はMi4に失望したハイエンド嗜好な中国の消費者から熱烈な支持を受け、シャオミを超えるスマートフォンとして人気が急上昇します。

 そして、そのメイズフィーバーが巻き起こる中、11月には「MX4 Pro」が発表。ディスプレーは5.5型1536×2560ドットとさらに高精細になり、チップセットもExynos5430(2GHz、オクタコア)を搭載。

 価格は2499元(約4万1300円)と従来のメイズのスマートフォンの標準価格で登場し、ハイスペック端末メーカーとしての地位を確固たるものとします。

 これだけに留まらず、12月には一転して低価格モデル「Meilan」(魅藍)シリーズの初代モデル「m1 note」を投入します。

 価格は999元(約1万6500円)と1000元を切り、ピンク、ブルー、イエローなどカジュアルな5色のカラバリ、5.5型フルHD解像度(1080×1920ドット)ディスプレーなど、若年層をターゲットにした製品です。

 ライバルはシャオミの「RedMi Note」で、シャオミには無いファッショナブルなイメージを大きくアピールしました。

 シャオミを超えるハイスペックモデル2機種と、シャオミには無いおしゃれな低価格モデル1機種。2014年の中国スマートフォン市場は、シャオミの陰に隠れていたメイズがひさしぶりに「中国スマートフォンの顔」の地位を取り戻して幕を閉じたのです。

低価格なMeilanシリーズ。「m1 note」も大ヒットとなる

 2015年1月には「m1」を発表。価格は699元(約1万1500円)で、シャオミの「RedMi」に対抗。メイズワールドの基礎をより強固にしていきます。

 発表会ではメイズCEOの白永祥氏が2015年の目標販売台数を2000万台と発表。2014年は440万台だったので、5倍弱という強気の数字です。しかし、1月のメイズのスマートフォン販売数は150万台と過去最大を記録しており、その目標数はむしろ控えめだったかもしれません。

急拡大のツケが回り販売数が急落、初心に戻り特異モデルで再出発

 2015年6月には早くもMX4の後継モデル「MX5」を発表します。このモデルからディスプレーのアスペクト比は従来モデルの15対9から16対9と標準的なものとなり、5.5型フルHD解像度(1080×1920ドット)となりました。

 しかし、MX4よりも解像度は若干低くなり、カメラやメモリー容量も変わらず。MX4の後継というよりもマイナーチェンジモデルという印象を受けます。

 真のフラグシップモデルはMX4から約1年後の2015年9月に「PRO 5」として登場しました。これまでの型番ルールならば「MX5 Pro」となるところを、Mシリーズが登場したことで「エントリー:m(Meilan)」「標準モデル:MX」「フラッグシップ:PRO」という3つのラインナップへ整理したということでしょう。

 PRO 5は標準版と上位版の2種類が登場し、共通スペックはExynos7420(2.1GHz、オクタコア)、5.7型フルHD解像度(1080×1920ドット)ディスプレー、背面2100万画素、正面500万画素カメラ。

 標準版はメモリー3GB、ストレージ32GB。上位版はメモリー4GB、ストレージ64GBとなります。価格は上昇して標準モデルが2799元(約4万6200円)となりましたが、これはMX 5との価格差を付けるための戦略だったのでしょう。

 2015年はMeilanシリーズの後継モデル「m2」「m2 note」もリリース。また、新たに金属ボディーで低価格の「m1 Metal」も投入されました。

 OSは2014年に提携したアリババの「YunOS」を搭載し、MX5とほぼ同等スペックながら1099元(約1万8100円)という価格は、MXとMeilanの両シリーズの間を埋めるモデルと言えます。

 2015年は公約通り、年間販売台数も2000万台を突破。そのうち1000万台がMeilanシリーズの低価格モデルだったとのことです。

 しかし、2015年は絶好調といえる成績だったものの、上位モデルに前年ほどの目新しさが感じられなかった点が気になるものでした。

 2016年に入ると、年初からメイズの販売数の落ち込みが目立つようになります。2015年は2000万台を目標に次々に製品を出したものの、市場在庫も大幅に増えてしまいました。

 カンターの調査によると、2015年10月のメイズの中国国内シェアは7.9%。しかし、2016年2月には約3割減の5.6%へと落ち込みます。

メタルボディーでカラーボディーのm1 Metal

 メイズの製品品質に対して、中国国内ではクレームも増え、アップル、サムスン、シャオミ、ファーウェイなどの大手メーカーと比べてもあまり変わらない数になっていったとのこと。大手メーカーの販売数よりもメイズは数が少ないですから、それだけ故障率が高い、ということにもなります。

 また、Meilanシリーズを次々と投入したことで、メイズはシャオミと同じジレンマにも陥っていきます。

 つまり、ハイエンドなMX、PROシリーズを買わなくとも、1000元前後のMeilanシリーズでSNSやウェブ利用には十分と考える消費者が増えていきます。販売数は伸びても、低価格機ばかりが売れているのが実情なのです。

 2016年投入の上位モデルは4月発表の「PRO 6」が5.2型ディスプレーを搭載して登場。前年のPRO 5から小型化されるなど、スペックダウン感は否めません。

 7月に発表された「MX6」はMX5のマイナーチェンジモデルで、価格は1999元とMX5より上がっています。しかし、これはMeilanシリーズの上位モデル「M3X」が1699元(約2万8100円)という価格で後から登場するため、苦渋の設定だったのでしょう。

 真のフラグシップモデルは2016年11月に登場した「PRO 6 Plus」という、歯切れの悪い名称のモデル名となりました。

 5.7型WQHD解像度(1440×2560ドット)ディスプレー、Exynos8890(2GHz、オクタコア)を搭載するなど他社の上位モデルに匹敵するスペックとなりましたが、過去モデルからの大きな飛躍は感じにくい製品だったのです。

 ハイエンドモデルの販売数落ち込みをカバーしようと、Meilanシリーズは次々と派生モデルを投入していきます。

 新たな「E」シリーズや「Max」も登場、さらには「U」シリーズと、その数は2016年だけで10機種を超えました。矢継ぎ早に出される代わり映えのしない新製品に消費者は混乱と飽きを感じる。

 これはサムスンがGalaxyシリーズのミドルレンジ・エントリーモデルを次々と出すことでシェア下落を招いた2014年ころの姿とそっくり。歴史は繰り返すのです。

 メイズの2016年の販売量は2200万台で前年よりも増えました。しかし、年初の目標は2500万台でそれには到達していません。このうち海外販売量が200万台と着々と増えているのは明るいニュースです。けれど、モデルの乱発とフラグシップの存在感の弱さは今後の動きに不安を含ませます。

 このような状況の中、2017年7月に発表した「PRO 7」「PRO 7 Plus」は久しぶりに大きな注目を集める、他社にはない機能を持ったスマートフォンです。

 どちらも本体背面に1.9型240×536ドットのディスプレーを搭載。各種通知を表示したり、背面カメラでのセルフィー撮影時のファインダーとしても使えます。背面カメラは1200万画素×2のデュアル仕様、正面カメラも1600万画素とセルフィー利用も考慮されています。

背面にサブディスプレーを搭載するPRO 7/PRO 7 Plus

 ディスプレーはどちらも5.7型ですが、PRO 7はフルHD解像度(1080×1920ドット)。一方、PRO 7 PlusはWQHD解像度(1440×2560ドット)。

 おもなスペックはPRO 7がHelio X20、メモリー4GB、ストレージ64/128GB。PRO 7 PlusがHelio X30、メモリー6GB、ストレージ64/128GB。

 MX4 Pro以来の大幅なスペックアップモデルとも言えます。同社の再浮上をけん引する製品になることは間違いないでしょう。これから登場するであろう「MX7」がどんなスペックで登場するかも気になります。

 中国だけではなく世界のスマートフォン市場を活性化してくれる製品を、これからも送り続けてほしいものです。

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