スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

厚さ6mm以下で戦う薄型スマホ戦争で頭角をあらわしたジオニーの次なる戦略

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年08月28日 17時00分

 まず、中国国内キャリア向けの3G端末を手掛け、1000元スマートフォンと呼ばれる普及価格モデルの開発を進めていきました。

 通信方式は当初はW-CDMAとGSMのみに対応。中国最大キャリアの中国移動が採用するTD-SCDMA対応機の投入は遅れてしまいました。

 実は、ジオニーはフィーチャーフォン時代から海外キャリアやメーカー向けのOEM/ODM事業も展開していました。そのためスマートフォンも、仕様を一部変更するだけで海外向けに投入できるW-CDMA/GSM機から参入を図ったのでしょう。

 しかし、初期のころから独自機能をのせた製品を積極的に投入します。2011年発売の「GN380」はデュアルOSを採用した製品。

 といっても、Android以外のモバイルOSが利用できるわけではありません。シンプル操作が可能なベーシック機能を持ったフィーチャーフォンライクなUIに切り替えが可能なのです。

 ロック画面で左右か上に指先をスワイプするとAndroid、下にスワイプすると簡単UIへと切り替わります。簡単UIでは2×4のアイコンが並び、通話やSMSなど基本機能のみ利用可能でした。

 このころはまだ中国製スマートフォンの性能も低く、電話をする際はAndroid上の電話アプリを起動するだけでも面倒、なんてケースもあったのです。

 通話メインで使う時は簡単UIに、スマートフォンとして使う時はAndroidに変更、といった使い分けができたのです。

初期のころのTD-SCDMA対応スマートフォン「風華mini 3」

 2012年からは中国のほかのキャリア、中国移動のTD-SCDMA、中国電信のCDMA2000に対応する製品の販売も始め、これで中国3キャリア全社向けの製品を投入できる体制を整えます。

 数を一番出していたW-CDMA機は透明フリップカバーで全面をおおう「W777」を発売。本体下部は角の有る5角形の形状で、フリップカバー上に配置されたマイクは金色の樹脂素材を使うなど高級感も出した仕上げ。ビジネス向けスマートフォンとして人気となりました。

 この高級スマートフォンの評判がよかったことからか、ジオニーは2013年8月に2999元(屋約4万9300円)高価格スマートフォン「天鑒W800」を発売します。

 「天鑒」(Tian Jian)のサブブランド名は元々2013年2月に発表した、折り畳みスタイルのクラシカルデザインなスマートフォン「天鑒 GN660」に採用されたもの。

 しかし、次のモデルは中国人の好きな数字の「8」を使い、さらには「W」という製品名を入れています。このWの意味は折り畳みスタイルながらも、フリップ側は表も裏もディスプレーと言うデュアルディスプレーから来ています。

高級フリップスマートフォンの「W800」。天鑒というブランド名は「世界を見上げる」という意味か

 2014年に入ると高級素材を採用し5999元(約9万8500円)と価格を引き上げた「天鑒W808」を投入。本体はブラックカラーにゴールドのモールドを入れるなど、高級感がさらに増しています。

 W800とW808はディスプレーが3.7型480×800ドットを2枚、MT6889M(1.2GHz、クアッドコア)、メモリー1GB、ストレージ16GB、背面800万画素+正面200万画素カメラ、W-CDMA+GSM対応というスペックでした。

 とはいえ、このW800/W808はジオニーが独自に開発したモデルではありません。実はサムスンが中国向けに折り畳み型の超高級モデル「心系天下」を2008年からリリースしていたのです。

 最初のモデルは「心系天下 W699」。それ以降は毎年「心系天下W799」「心系天下W899」「心系天下W999」と続き、2013年からはモデル名を年号とした「心系天下W2013」となり、10万円を超える高価格ながら特定ユーザー層に大きな人気となっています。

 ただし、心系天下はCDMA回線の中国電信向けのため、ほかのキャリアの利用者は利用できません。

 ジオニーはW-CDMA版を出すことで中国電信以外のユーザーで高級機を求める層をターゲットにW808を開発したのです。天鑒はその後、2014年12月に「天鑒 W900」、2015年8月に「天鑒 W900s」が発売されました。

世界最薄スマホで知名度アップ、新興市場を重点に攻める

 天鑒シリーズ以外のジオニーのスマートフォンは、あまり特徴の無い価格重視のモデルばかりがそろっていました。売り上げは好調なものの、中国市場がおもなターゲットであり、新興国にはOEM品などを供給するものの海外での知名度は無いに等しいものでした。

 なお、OEMは2014年からBLUにも製品の供給を開始。BLUと言えば日本市場に2017年から参入していますが、そのBLUが2014年に発売した「Life Pure XL」は、ジオニーの「Elife E7」がベースモデルでした。

 ところが、2014年2月に開催されたMWC 2014で、ジオニーは世界をあっと驚かせる製品を発表します。それは世界最薄、5.5ミリ厚のスマートフォン「Elife S5.5」です。

 世界的には無名メーカーがいきなり「世界最薄」を売りにした製品を出したということで、MWCの同社ブースには多くの来客が詰め寄りました。

2014年2月に世界最薄スマホとして発表された「Elife S5.5」

 薄型スマートフォンの元祖と言えば、2013年6月に発表されたファーウェイの「Ascend P6」。6.18mmという、1円玉約4枚分の厚さのスリム端末はファーウェイの技術力の高さを知らしめる製品でした。

 ところが、その2か月後にビボ(Vivo)が5.75mmと言う、6mmを切った薄型モデル「Vivo X3」を発表します。6mmという厚さはスマートフォンの基盤設計を考えると限界の厚みとみられていただけに、X3の登場はショッキングな出来事でもありました。

 ジオニーのElife S5.5はそれをさらに0.25mmも薄くした、5.5mm厚。これは天鑒W808の開発で、薄さが要求されるフリップ側をデュアル画面にするノウハウが生かされたのでしょうね。折り畳み型端末の開発は結果としてジオニーの知名度を高めるものになったのです。

 しかし、ジオニーは開発の手を緩めず、2014年9月には5.1mm厚とした「Elife S5.1」を発表。ディスプレーサイズはS5.5の5型から4.8型へと小型化されましたが、両者は兄弟モデルという関係で併売されました。

 その後の薄型競争は2014年10月にオッポ(OPPO)が4.85mmの「R5」を、ビボが2014年12月に4.75mmの「VIVO X5 MAX」を出して終了します。

 ジオニーは2015年2月のMWC 2015で厚さ4.75mmとウワサされた「Elife S7」を発表しますが、ディスプレーサイズの大型化(5.2型)と機能アップにより、厚さは5.5mmへ戻ってしまいました。

 とはいえ、2013年から2014年にかけての「薄型スマートフォン競争」の中で、ジオニーは世界中に知られるメーカーになったのです。

 さて、最薄化競争の後は、中国市場でオッポとビボがセルフィーを強化したスマートフォンで急激な伸びを見せます。そして、そのセルフィーの波は東南アジアやインドへも広がっていきました。

 ジオニーは中国市場だけではなくそれらの新興市場にも積極的に進出し、とくにインドではオッポなどと並ぶセルフィースマートフォンメーカーと言う印象を与えることに成功しています。

 2016年にはCI(コーポレート・アイディンティティー)を実施し、絵文字ライクな笑顔のロゴを正式に採用。ベゼルレスで3Dタッチ対応、カメラを強化した「Elife S8」も発表しました。

 正面カメラも800万画素と比較的高画質であり、スタイリッシュでセルフィーにも強い、女性をターゲットにしたおしゃれな製品でした。

 そして、2017年にはグローバルモデルとして、正面に2000万画素カメラを搭載した「A1 Plus」を発表。背面は1300万画素のカメラを2つ搭載するトリプルカメラフォンで、オッポなどカメラに強い新興メーカーに真っ向から対抗しようとしています。

 中国向けにはなんと背面がデュアル、フロントもデュアルの「S10」を発売。シリーズモデルの「S10B」「S10C」もフロントカメラは1600万画素と、セルフィー強化製品を次々に送り出しています。

4つのカメラを搭載する「S10」

 先進国では知られぬ特徴的なスマートフォンを次々に送り出しているジオニー。途上国ではシェア上位に入る人気メーカーとしてプレゼンスを着々と高めています。いつの日か日本上陸も期待したいものです。

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