スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

あのグーグルでさえもスマートフォン市場では迷走していた

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年10月08日 12時00分

 Nexus Oneは当時最新となるAndroid 2.1を搭載し、そのOSパフォーマンスを十二分に味わえる高い本体スペックを搭載。グーグルはこのNexus Oneを「スーパーフォン」と呼び、従来のスマートフォンを超える存在として大きくアピールしました。

 Nexus Oneの登場直前、2009年のスマートフォン市場を振り返ってみると、Androidスマートフォンで最も多く製品を出していたのはHTCでした。

 そもそも世界初のAndroid端末を製造したのもHTCです。そのHTCは2009年からAndroid上に自社開発のUI「HTC Sense」を搭載。また、ソニー・エリクソンやサムスンもAndroidに本格参入を始め、同様に自社のカスタムUIを搭載していました。

 当時のAndroidはまだ使いにくい部分が多く、グーグルのOSバージョンアップを待たずにメーカーがいじれる部分を改良していたのです。

世界初のAndroid端末は「HTC Dream(T-Mobile G1)」だった

 グーグルとしてはアプリ開発者に標準OSに対応するアプリを開発してほしいものの、各社の製品はすでにカスタマイズされた状態になっていたわけです。また、OSのバージョンアップも各社がカスタムUIを調整するために多少の時間のズレが生じてしまいます。

 そこで、OSを一切カスタムしておらず、余計なアプリもプリインストールされていない標準モデル、つまりリファレンスとなる製品としてNexus Oneが投入されました。

 Nexus Oneを製造したのもHTCです。当時の各メーカーの開発力を考えればこれは当然のことだったでしょう。HTCは世界最初のAndroidスマートフォンの開発からグーグルと深い関係を構築していましたし、ハードウェアの生産メーカーとしても長い実績を持っています。

 Sense UIを搭載したHTCのスマートフォンとNexus Oneがバッティングしてしまうことも危惧されましたが、開発者や自分でカスタマイズを楽しみたいユーザーはNexusを、購入してすぐにスマートフォンを活用したい人はHTCの製品を、と購入層が重なることはありませんでした。

 Nexus OneのスペックはクアルコムのQSD8250(1GHz)、メモリー512MB、ストレージ512MB、3.7型WVGA解像度(480×800ドット)ディスプレー、背面カメラ500万画素(正面カメラなし)、通信方式はまだ3G(W-CDMA)とCDMA、GSMのみでした。いま見ると非力でも、当時としてはかなりのハイスペックな製品だったのです。

初のNexusモデル「Nexus One」(写真左)

 ディスプレーの下には4つのソフトキー「戻る」「タスク」「ホーム」「検索」がありました。さらに、2009年のHTC端末が搭載したLEDで光るトラックボールも備えましたが、こちらはNexus Oneだけで終了。Androidの標準的なポインティングデバイスにはなりませんでした。

 Nexus Oneの販売はオンラインで販売国も限られていましたが、名入れサービスなどのカスタム販売もされました。販売数は伸びなかったものの、Nexus Oneの投入によりAndroidアプリの開発者の数が増えたことは確かだったようです。

サムスンとLGに頼った次世代モデルは混迷の時代

 同年の12月には「Nexus S」が登場。SはNexus Sの製造メーカーであるサムスンの「Galaxy S」と合わせたのでしょうか。Nexus Oneの次がTwoではなくS、というあたり、グーグルのNexus端末の位置づけがここで大きく変わったと考えられます。それはiPhone 4登場の影響でしょう。

 2010年6月のWWDCで発表されたiPhone 4は、従来比4倍の高解像度ディスプレーを搭載、背面もガラス仕上げとなった高級感あふれるボディーでその年のスマートフォンの話題をすべて独占するほどでした。

 アプリ開発者もこぞってiPhone 4への対応を急ぎます。実は2010年はAndroid搭載スマートフォンの数が、iPhoneの数を初めて上回った年でした。しかし、優れたアプリはまずiPhoneから登場し、一部が遅れてAndroidから出てくる、と言う状況でもあったのです。

 グーグルとしては開発者の気を引くだけではなく、Android端末の「顔」となる製品を消費者にアピールする必要が出てきたのでしょう。

 そして、2009年に初代モデルが発売された「Galaxy S」はスタイリッシュなデザインでヒット商品となります。Nexusの2機種目をTwoという名前にしなかったのは、このGalaxy Sのイメージも製品に含ませたかったのかもしれません。

サムスン製になった「Nexus S」

 Nexus SはAndroid 2.3を世界で初めて搭載し、ハードウェアとして同OSがサポートするNFCも内蔵しました。スペックは、CPUがサムスンのHummingbird(1GHz)でメモリー512MB、ストレージ16GB、4型WVGA解像度(480×800ドット)ディスプレー。カメラは背面500万画素、正面30万画素でした。

 そして、3世代目の製品は2011年10月に発表された「Galaxy Nexus」となります。名前の通り製造はサムスン。Nexusブランドの位置づけがグーグル製品というよりもサムスンのGalaxyシリーズの派生モデル、という意味合いを強めます。

 もちろんリファレンスモデルらしく、Android 4.0を初めて搭載したモデルでした。日本でもドコモから発売になったように、一般ユーザー向けにも広く販売されました。

 ただし、毎年出てくるNexusスマートフォンの製品名に統一性がないことは消費者に少なからず混乱も与えました。翌2012年の6月にはASUS製の「Nexus 7」が発表になります。7の数字は画面サイズで、Nexusシリーズ初のタブレットです。同時に「Apple TV」の対抗製品ともいえる「Nexus Q」も発表されました。

 グーグルはNexusを先進性のあるハードウェアというポジションの製品にし、アップルとの対抗を打ち出そうとしたのかもしれません。ですが、メーカーが異なる製品にはデザインの統一性もありません。

 結局、Nexus Qは1モデルで終わり、スマートフォンのモデル名も次のモデルからはわかりやすいものとし、リファレンスモデルへと回帰していきます。

 ところで、グーグルは2011年にモトローラの携帯電話部門買収を発表。2012年5月に買収を完了し、傘下に収めます。そのためNexusブランドのスマートフォンはモトローラから出てくるものと考えられていました。

 しかし、ふたを開けてみると、2012年のNexus新製品はLG製となる「Nexus 4」でした。一方で、モトローラのスマートフォンにはNexus同様に素のAndroidが搭載され、リファレンスモデルの役割も果たします。

Nexus 4からはLGが製造を受け持った

 他社のNexusモデルを残したのは、大手メーカーに持ち回りで製造してもらうことで各社との協力関係を保ちつつ、モトローラの端末を強化することは他社品の販売に影響を与えてしまうという考えがあったとも思われます。

 また、そもそもモトローラ買収は無線まわりの特許の保有と、スマートフォン製造のノウハウ取得だったのでしょう。グーグルが本気でスマートフォンメーカーになろうと考えての買収劇では無かったのです。

 2013年のNexusもLG製となりました。「Nexus 5」は2013年10月31日に発表。Snapdragon800(2.26GHz、クアッドコア)、メモリー2GB、ストレージ16GBまたは32GB、4.95型フルHD解像度(1080×1920ドット)ディスプレー、背面1300万、正面800万画素カメラといったスペック。

 フルHD解像度ディスプレーやLTEの対応などはNexusシリーズ初でした。このスペックはいま見てもミドルレンジとして通用するほど。本体の仕上げもよく、Nexusブランドが一般消費者層にも広く認知された製品となりました。

mobileASCII.jp TOPページへ