スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

グーグル最新スマホ「Pixel 2」はなぜ日本で発売されないのか?

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年10月15日 12時00分

 グーグルは引き続き無線関係の特許を保持するほか、ウェアラブルなどの先端技術開発部門は引き続き保有します。そもそも、グーグルに買収される前のモトローラはアメリカ市場以外では存在感を失いつつありました。グーグル傘下中に製品ポートフォリオを再構築し、素に近い状態のAndroidを真っ先に搭載することで再生に成功しています。

 グーグルとしては、ブランド力もあり老舗メーカーであるモトローラを一時的に救済、独り立ちできるめどがたったところで大手メーカーへ売却、という筋書きが最初から用意していたのかもしれません。

 自らの手を離れることが確定となったことからか、2014年秋発表の「Nexus 6」は最初で最後のモトローラ製となりました。スペックはモトローラの「Moto X 2nd Edition」ではあるものの、5.96型QHD解像度と大型で高解像度なディスプレーを搭載します(Moto Xは5.2型フルHD解像度)。

 レノボの売却が完了したのはNexus 6発売の10月で、グーグルの手を離れた状態でグローバル市場へ販売されていきました。ちなみに、2015年にはその両モデルの中間的存在といえる、5.7型ディスプレー搭載の「Moto X Style」も登場しています。

モトローラブランドでようやく登場したNexus 6

 2015年のNexusシリーズは、初めて2モデル体制となりました。スマートフォンの普及がかなり進み、1モデルですべてのユーザーをカバーすることが難しくなったのかもしれません。あるいは、より多くのメーカーにNexusの製造を持ち回りさせようという考えもあったのでしょう。

 スペックだけを追い求めていくと、いずれは高価格なモデルしか存在し得なくなってしまいます。「超ハイスペック」と「ミドルハイレンジ」に製品を二分することは各メーカーの製品展開を見ても必然だったと思われます。

 「Nexus 5X」と「Nexus 6P」はそれぞれLG、ファーウェイの製造となりました。外部コネクターは初めてUSB Type-Cとなります。

 当時のLG端末は背面カメラ下にボリュームボタンと電源ボタンを備え、側面にはボタン類の無いすっきりしたデザインを売りとしていました。しかし、Nexus 5Xは従来品のようにカメラ下に指紋認証センサーを搭載。グーグルの考えるAndroidの標準仕様はこの配置というわけです。

 また、Nexus 6Pの「P」はプレミアムの意味で、フルメタルの一体型ボディーは美しい仕上げでした。フロントカメラも800万画素まで高まり、セルフィーにも対応。

 5.7型QHDの大画面高精細ディスプレーを搭載していますが、女性ユーザーをもターゲットにした製品と言えます。2モデル展開されたことでNexusのブランドの認知度はさらに広がりを見せようとしていました。

プレミアム端末という位置づけでもあったNexus 6P

NexusからPixelへ、スマートフォンからスマートデバイスへと進化する

 2015年10月に開催されたイベント「Made by Google」は、グーグルのモバイル開発の方向性を大きく変える内容で溢れていました。

 まず、1年ぶりの新製品となるスマートフォンはNexusではなく新しいブランドとなり、「Pixel」「Pixel Plus」の2モデルが登場。そして、この新製品を装着できるVRヘッドセット「Daydream View」を発表。さらには音声AIアシスタントスピーカー「Google Home」も華々しくデビューしました。

 もはやスマートフォンは「フォン」や「スモールPC」ではなく、VRや音声認識など新たな技術の統合により、いままでにはなかった新しいサービスを使うためのデバイスへと進化を進めています。

 2015年冬にグーグルは独自開発した新世代タブレット「Pixel C」を発表しましたが、スマートフォンもそれと同じブランドとしてラインナップの再構築が図られたのです。2つのモデルのデザインはほぼ同等で、大きな違いはディスプレーのサイズと解像度。iPhoneの無印とPlusの関係と同じです。

ブランドを一新したPixel / Pixel Plus

 PixelはNexusシリーズとは異なり、メーカー名は公式には非公開となりました。Nexus時代はGalaxy Nexusを始め、各モデルともメーカー名が本体の背面に表示されるなど製造元がアナウンスされていました。

 しかし、Pixelからはグーグル開発のグーグル製品という位置づけをアピールし、グーグルの他のハードウェアと同じデザインテイストを持った製品になりました。Pixel、Pixel XLの製造はHTCが担当しましたが、製品にはHTCのロゴは一切表示されていません。

 PixelシリーズはGoogle フォトの無制限利用も可能にしています。これはグーグルのサービスをより頻繁に使ってもらおうという戦略なのでしょう。Daydream ViewもPixelだけが対応とアナウンスされましたし、スマートフォンにGoogle アシスタントを初搭載した製品もPixelとなります。

 Pixelが開発者向けのリファレンスモデルとしてなら当然のことでしょう。しかし、Pixelは「OSの新機能をいち早くリリースする製品」という位置付けを大きく超え、「グーグルが提供する最新のIoTサービス」を使いたい消費者に向けた製品へと進化を始めたのです。

 Nexusが登場した初期はiOSに奪われるデベロッパーの目を惹きつけ、さらにはコンシューマー層にもグーグルの最新モデルをアピールする必要がありました。最新のアプリはまずiPhoneに発表され、その後のAndroidにも提供される、そんな状況が長く続きました。

 しかし、もはやSNSを始めとするウェブサービスはモバイルOSの区別なく、どの端末でも使うことができます。OSの使い勝手の差ですら、消費者の目を惹きつけるものにはならないのです。

 そして、アップルとグーグルが競争を繰り広げている外から、アマゾンが音声AIアシスタント「Amazon Alexa」でウェブサービス市場に殴り込みをかけてきました。

 Pixelの目指す方向は、最新の機能やスペックを持ったスマートフォンではありません。グーグルのサービスを中心とした新しいユーザー体験を消費者に提供する、そのプラットフォームデバイスという位置付けに変化したのです。Nexusブランドの廃止もそう考えると納得できます。

 ところで、2016年7月にワイモバイルはシャープ製のAndroid One端末「507SH」を発表しました。先進国でもエントリーモデルの開発コストを下げる動きは広がっており、Android Oneはそれにうってつけのプラットフォームと言うことなのでしょう。今後は先進国でもAndroid Oneを採用するメーカーが増えそうです。

 さて、2017年10月に発表された「Pixel 2」「Pixel 2 XL」はカメラにAR機能を搭載。「ARステッカー」や「Google Lenz」を利用可能です。

 製造はPixel 2が初代Pixelに引き続きHTCが担当。一方、Pixel 2 XLはLGとなりましたが、初代同様にグーグルからはメーカー名は公表されていません。

 HTCの最新モデル「U11」と同様に本体の左右を握って操作できる「Active Edge」も採用され、本体を握ってGoogleアシスタントを起動することも可能です。

AR統合などさらに進化したPixel 2

 ただし、残念ながらPixel 2シリーズの第1次販売国には日本が含まれていませんでした。これは恐らく、Pixel 2の日本投入は時期を見てからとグーグルが考えているのかもしれません。

 Pixel 2の目玉機能のひとつは音声AIアシスタントの「Google アシスタント」ですが、日本語にはようやく対応したばかり。Google Homeが日本語対応で発売されましたが、スマートフォンで日常的に使うにはまだ日本語認識が弱い、とも考えられそうです。

 また、第1次・第2次販売国に含まれているアジアの先進国はシンガポールのみ。新興国ではインドが含まれます。どちらも英語圏ですから、やはりGoogle アシスタントを英語で提供してもユーザーは難なく利用できます。

 ということで、Pixel 2シリーズが日本で販売されるタイミングは、Google アシスタントの日本語対応が強化されてからとなると思われます。

 Pixelはスマートフォン市場をけん引する存在になるだけではなく、グーグルが提案するこれからのスマートな生活をいち早く消費者に提供するデバイスとして急激な進化を続けていくでしょう。5Gの足音が聞こえてきた今、グーグルが次のPixelにどんな機能やサービスを乗せてくるのか楽しみです。

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