スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

伝説の「メガネケース」を生み出したシャープは日本から海外へ飛び立つ

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年11月05日 12時00分

 メールはもちろん、表計算やメモなどが利用できる簡易PDA的な使い方もできました。音声通話は付属のヘッドセットを使うなど、ちょっとした近未来感覚が味わえたものです。価格は高かったものの、ザウルスシリーズに携帯電話機能を融合した意欲的な製品でした。

シャープ初のスマートフォンはザウルスベース

 しかし、その後は3Gスマートフォンの製造からは遠ざかり、3G端末はフィーチャーフォンに特化します。シャープとしてはコストがかかり、電池の持ちにも難点があるスマートフォン型端末を開発するよりも、新たに投入したLinuxザウルス「SL」シリーズに専念する道を選んだのでしょう。

 シャープが再びスマートフォンを投入したのは2005年の「W-ZERO3」でした。通信方式は3GではなくPHSでしたが、OSはWindows Mobile 5.0 for PocketPCで、スライド式キーボードを備えた本格的な製品です。

 サイズはやや大ぶりながらも、これ1台でデータ通信も可能、そしてアプリを入れて自在にカスタマイズできる「国産スマートフォン」として絶大な人気を得ることになります。

国産スマートフォンとして大ヒットしたW-ZERO3

 翌2006年には、メモリー強化モデルを投入。また、スリムでスタイリッシュなデザインとした「W-ZERO3 [es]」も発売になりました。

 2007年の「Advanced/W-ZERO3 [es]」は女性をも意識したカラーリングを提供するなど、毎年新製品が投入されました。最後のモデルは2008年の「WILLCOM 03」。同年にはソフトバンクから「iPhone 3G」が登場したことを考えると、ちょうどいい引き際だったのかもしれません。

 なお、2007年にはイー・モバイル向けに4.1型ワイドVGA解像度ディスププレー搭載。3G対応の「EM・ONE」を投入します。ノートPC代替にもなりうるスペックに3G搭載という製品でした。

 また、ウィルコム向けにはノートPCスタイルの「WILLCOM D4」も投入されましたが、こちらはスマートフォンではなくWindows VistaをOSに採用したウルトラモバイルPC(UMPC)でした。

Androidでも果敢に実験的デバイスを投入

 Androidでのスマートフォン参入は2010年6月。au向けの「IS01」でした。横開き型のQWERTYキーボード端末で、その外見から「メガネケース」とも呼ばれました。

 翌7月にはドコモ向けに類似スタイルの「LYNX SH-10B」を投入。フルタッチ型のスマートフォンではなく、QWERTYキーボード端末から参入するあたりは、日本を代表するPDAメーカーだったシャープの意地の表れでもあったのでしょう。

Android第一弾もQWERTYキーボードを搭載

 また、ソフトバンク向けには「GALAPAGOS」ブランドのスマートフォンを投入。GALAPAGOSはシャープが展開する電子書籍配信サービスで、そのコンテンツ利用も意識したスマートフォンとして投入されました。

 フルタッチの「003SH」とスライド式QWERTYキーボード機「005SH」が出たものの、その後はAQUOSブランドへと統合されていきます。

 GALAPAGOS絡みではシャープの電子ブックリーダー「EB-W51GJ」に3Gを内蔵したドコモ向け「ブックリーダー SH-07C」が2011年に発売になりました。

 Androidベースながらも、ブラウザーや電子書籍の利用に特化し、アプリのインストールは不可。中途半端な存在でしたが、当時はさまざまなメーカーが電子ブックリーダー端末を投入し、コンテンツ販売の模索していた時代でした。

 2011年にシャープのスマートフォンはAQUOSに統一され、同一モデルの多キャリア展開も行われるようになりました。iPhoneやGalaxyなど海外メーカーの派手な新製品の陰に隠れはするものの、各キャリアの新製品発表会にはほぼ必ず製品を提供するなど、日本のスマートフォンをしっかりと支える存在であることは間違いありません。

 2011年に出した「AQUOS PHONE f SH-13C」は世界初のワイヤレス充電対応スマートフォンでした。それから6年たってiPhoneに同充電方式が採用されることを考えると早すぎた登場だったと言えるでしょう。

 しかし、こうして振り返ってみると、シャープは日本から世界初の技術を搭載した製品を数多く出しているメーカーだったことがわかります。

 そういえば、シャープのスマートフォンは一時期3Dディスプレーを搭載していました。しかし、3Dコンテンツが伸び悩んだことや、ディスプレーが見にくいことから結局は主流にはならず、いまでは中国メーカーなどが一部のモデルに採用するのみ。

 いずれ3Dディスプレーは復活すると思われますが、その時にはシャープからも製品が出てくることを期待したいもの。

2011年には早くもワイヤレス充電対応スマホを出していた

 さて、2015年にauから発売した「AQUOS K SHF31」は折り畳み型の10キー搭載スタイルで、フィーチャーフォンからの乗り換えを狙った製品で「ガラホ」という名前がつけられました。

 ガラケー+スマートフォンの造語で、スマートフォンへの移行をスムースにさせることが狙いの製品でした。いまでも10キー入力を好むユーザーは多く、その後ガラホスタイルの製品はほかのキャリア・メーカーも手掛けるようになっています。

 液晶で世界市場をけん引していたシャープも、2016年にはEMS大手のホンハイに買収されました。今後はホンハイ傘下のフォックスコンの開発した製品も日本向けに投入される予定です。

 そして、シャープ時代からの優れた液晶開発技術を引き継いだ製品もこれから登場するでしょう。日本のキャリアを第一顧客としていた時代から、グローバルで戦う時代へ。後編ではシャープの海外展開の歴史と現状を纏めます。

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