スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

シャープのスマホ事業の今後 物理QWERTYキーボード付き端末がカギ

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年11月12日 12時00分

 シャープはその後、GSMの携帯電話で海外市場に本格的に参入します。ボーダフォンと提携して、日本スタイルの携帯電話を海外でも販売するなど、一定の成功を収めました。

 しかし、スマートフォンの投入は他社より若干遅れます。日本でも2005年までスマートフォンに参入しなかったように、海外でもその参入は送れたのです。

 ちなみに、2000年代初頭はノキアの推すシンビアンOSがスマートフォンのシェアを大きく握り、Windows Mobile(Pocket PC)やLinuxなどが追いかけていました。

 2000年に入ってからのシャープの海外向けスマートフォンは、完全自社開発ではなくソフトウェアは他社設計、ハードウェアを自社設計したODM品として他社ブランドで投入されました。それがアメリカのDanger社のスマートフォン「HipTop」です。

 Dangerは元アップルのエンジニアなどが設立した企業で、スライドするとQWERTYキーボードが現れるスマートフォンを開発。実情はPDA機能+ページャー+電話というレベルでしたが、アプリを追加できるなどスマートフォンとしての素質を持っていました。

 アメリカではキャリアのT-Mobileが「Sidekick」という名前で独占的に販売しました。その名の通りディスプレー部分をスライドさせるとキーボードが現れるデザインは、W-ZERO3と形状は異なるものの相通じる部分があります。

年々性能をあげてリリースされたHipTop(写真はSidekick3)

 ただし、2002年登場のHipTop/Sidekickの初代モデルはEMS企業のフレクストロニクスが手掛けた製品。シャープがHipTopの製造を担当したのは2004年にリリースされた、2世代目となる「Hiptop2/T-Mobile Sidekick 2」からです。

 本体サイズは133×64x21mm、閉じた状態では四隅にボタンと左右に十字方向ボタン、上下スクロールボタンを備え、その様はポータブルゲーム機のようでした。

 くるっと回転して開くディスプレーのギミックと相まって、ジーンズのポケットからさっと取り出してメッセージを送信する、というスタイルが若い世代に大いに受けました。

 2006年には「Hiptop3/T-Mobile Sidekick 3」が登場。十字方向キーの代わりにトラックボールを搭載し操作がしやすくなりました。カメラ画質もVGAから1000万画素へとアップ。

 そして、2007年からはT-Mobileのみの販売となり4月に「T-Mobile Sidekick iD」が、10月に「T-Mobile Sidekick LX」が登場しました。この間、日本ではW-ZERO3シリーズを次々と送り出しており、この時代のシャープは「QWERTYキーボードに強いメーカー」として一定の認知度を得ていたのです。

 なお、HipTopは日本の展示会でもシャープのブースで展示されるなど、シャープ製造であることを日本の消費者にもアピールしていました。

 HipTopはその後、モトローラに開発が移りシャープでの製造は終了しました。ところが、2010年になると今度はマイクロソフトから「KIN」が登場します。シャープとの共同開発品で、こちらもQWERTYキーボードを搭載。SNSに特化したスマートフォンとして期待されました。

 しかし、マイクロソフトは同年に突如KINの開発終了を発表。iPhone対抗という目的があったものの、Windows Phoneの開発を急ぐためにKINを早々に終了したのかもしれません。KINは欧州展開も予定されていただけあって、シャープとしてはマイクロソフトに翻弄された結果となってしまいました。

わずか数ヵ月で販売終了となったKIN。縦スライドの写真の「KIN ONE」と、横スライドの「KIN TWO」の2製品があった

Androidで自社ブランド品の展開を拡大

 アメリカでは2011年に「FX Plus」を販売します。こちらはシャープの名前をつけた自社ブランド製品で、HipTopに似たQWERTYキーボード搭載端末でした。

 前年投入の「FX」とOSを変え、Android 2.2を搭載しました。120×60×14mm、3.2型320×480ドットディスプレー、背面300万画素カメラ+正面30万画素カメラといった構成。

 このFX PlusからAndroidでもキーボード端末で攻めると思いきや、これ以降の製品は一般的なタッチパネル搭載機となってしまいます。

 ほかの市場には日本で販売されたモデルをそのまま海外仕様にして投入した例もありました。2011年にはドコモで販売した「AQUOS PHONE SH-12C」をベースにした「AQUOS PHONE SH80F」をドイツやフランスで発売します。

 しかし、価格が599ユーロと高かったことや、ブランド力に欠けていたことなどから参入は成功したとは言えず、この1機種でヨーロッパからは撤退しています。

ヨーロッパ参入モデルだったAQUOS PHONE SH80F

 2012年には「SH530U」を中国や台湾で発売します。AQUOSの名前が付かないモデルで、海外向けとして開発されたもの。中華圏で大型ディスプレーが人気であることから、5型800×480ドットディスプレーを搭載。しかも、デュアルSIMにも対応した意欲作でした。

 しかし、SoCはMediaTekのMT6577を採用。コストパフォーマンスを追求した製品ですが、中国では「日本のシャープが安物を出した」とも言われてしまいました。とはいえ、3万円台の価格であったことから一定の販売数は記録したようです。

 2014年にはソフトバンク主導で、日本とアメリカ向けに「AQUOS CRYSTAL」が発売されます。ソフトバンクと傘下のアメリカキャリア、スプリントで共同調達することでコストを下げることを可能としました。

 3辺ベゼルレス設計は両国で大きな話題になりました。しかし、アメリカでの認知度の低ささからか売れ行きは伸びず、スプリント傘下のMVNOキャリアではプリペイド品として格安で販売されてしまいました。

 結局ソフトバンクのアメリカ戦略のPRにはなったものの、製品そのものは成功したとは言えませんでした。

 なかなか苦戦が続く海外市場ですが、2016年にホンハイによるシャープの買収が完了。それと前後するように台湾市場へ積極的に新製品を投入していきます。

 日本モデルの台湾版といえる「AQUOS P1」を6月に発売。ベースはドコモの「AQUOS ZETA SH-04H」です。それに加え、海外向け開発の「M1」も発売。こちらはホンハイグループのフォックスコン傘下の開発製品です。シャープのブランド力が強い台湾で、その後も「Z2」「Z3」とラインナップを増やしていきます。

 2017年には3辺ベゼルレスの「AQUOS S2」を中国に投入します。中国には前年から再参入していましたが、このS2はミドルハイレンジの端末として、市場でのプレゼンスを高める目的をもって発売されました。

 Snapdragon 630、メモリー4GB、ストレージ64GB、1300万画素+800万画素のデュアルカメラなどなかなかのスペック。中国でも一定の人気を得ているとのこと。

中国では戦略的モデルとなるAQUOS S2

 シャープは2018年にヨーロッパ市場への再参入も決めています。ホンハイ傘下となったことで、コストパフォーマンスに優れた製品をこれから続々と投入していくことでしょう。願わくはQWERTYキーボードを搭載した製品の復活も願いたいものです。

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