スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

マイクロソフトが失敗を続けているモバイル分野

文●山根康宏 編集●ゆうこば

2017年11月19日 12時00分

 2003年には「Windows Mobile 2003」が登場。4つのエディションに分かれ、スマートフォンタイプのWindows Mobile 2003 for Smartphoneと、携帯電話タイプのWindows Mobile 2003 for Pocket PC Phone Editionが登場します。

 当時はすでにノキアからSymbian OS搭載のスマートフォンが登場しており、マイクロソフトとしても携帯電話機能の搭載は必須と考えたに違いありません。

 その後、2003年にはWindows Mobileと名前を変え、2007年のWindows Mobile 6からは電話機能なしがClassic、電話機能ありがStandardとProfessionalの3つのエディションに分かれ、電話機能ありが標準となります。

 しかし、2007年には初代iPhoneが登場し、旧来のスマートフォン、すなわちSymbian、Windows Mobile、BlackBerryの地位を脅かし始めるのです。

 iPhoneはその後、iTunesとAppStoreでユーザーのみならずアプリの開発者からも注目を集めます。そして、iPhoneの普及とともに携帯端末を使ったコミュニケーションはSMS(ショートメッセージ)や音声通話から、SNSへと移行していきます。

 Windows Mobileスマートフォンは、サムスンのBlackBerry型端末「BlackJack」、横開き型QWERTYキーボード搭載でヒンジを回転させるとタッチパネル型端末にも変形したHTCの「Universal」など数々の名機が生まれました。

 コンシューマー層だけではなくB2B用途として、企業向けにも多く導入されました。しかし、スマートフォンでシェアトップに立つSymbian OS端末のシェアを抜く前に、iPhone、Androidという新興勢力にその地位を奪われていったのです。

Windows Mobileは多くの製品が登場した。HTCのUniversalはOEM供給され他メーカーからも発売となった

 ガートナーの調査を見ると、2008年のスマートフォンOS別シェアは1位Symbian(52.4%)、2位がBlackBerry(16.6%)、3位がWindows Mobile(11.8%)4位がiOS(8.2%)でした。

 ところが、2009年にはiOSが14.4%まで延び3位に浮上。Windows Mobileは8.7%とシェアを激減させ、4位へと後退します。しかも、2008年にはAndroidも3.9%と、登場からわずか1年で存在感を高めます。

 この状況に危機感を持ったマイクロソフトは、スライド式のコミュニケーションスマートフォン「Hiptop」「SideKick」を開発していたデインジャー(Danger)社を買収します。iPhoneに対抗しうる、コンシューマー層を狙った端末を開発することが目的でした。

 そうして2010年5月に発売された製品が「KIN」です。「KIN One」と「KIN Two」どちらもスライド式のQWERTYキーボードを備え、前者が縦型、後者が横型のスタイルでした。

 製造はHiptop時代から引き続きシャープ。アプリの追加はできませんでしたが、SNSアプリが標準搭載された新しいコミュニケーションツールとしてデビューしたのです。若者たちがこぞってKINを使う、そんな時代がやってくるはずでした。

ソーシャルスマートフォンになるはずだったKIN。横スライドキーボードのKIN Two

 ところが、KINは発売からわずか2ヵ月弱で開発中止となります。

 実は同年2月にマイクロソフトは新しいスマートフォンOSであるWindows Phoneを発表していました。KINはWindows Mobileベースであり、両者に互換性はありません。デインジャーの買収後KINの発売が遅れる間、マイクロソフトは次世代のスマートフォンOSを開発し、商用化のタイミングが重なってしまったのです。

 KIN Oneのスペックは、2.6型QVGA解像度ディスプレー、4GBストレージ、500万画素カメラ。KIN Twoが3.4型HVGA解像度ディスプレー、8GBストレージ、800万画素カメラ。CPUはどちらもNVIDIA製のTegraを搭載していました。

 しかし、たとえKINが優れた製品であったとしても、iPhoneやAndroidと対抗するためにはWindows Phoneへの移行はいずれは避けられなかったでしょう。

Windows Phoneの開発とノキアの買収

 2010年2月に発表されたWindows Phone 7は、シャーシモデルと言う新しい概念のプラットフォームを採用しました。マイクロソフトがOSだけではなくハードウェアの基本性能も統一して設計し、メーカーはそれに基づき自由な端末を設計できるというものです。これは新規メーカーの参入の敷居を引き下げる目的がありました。

 2010年秋にはWindows Phoneスマートフォンがサムスン、LG、HTC、デルから発表されましたが、その数は10機種以上にもなりました。全く新しいOSの製品が一度にこれだけ登場できたのも、シャーシモデルを採用したからでしょう。

 そして2011年2月、マイクロソフトはノキアとの大々的な提携を発表します。ノキアはSymbianを捨て、スマートフォンOSをWindows Phoneへ一本化。Symbian後継として期待されていたMeeGo OSは開発中止になりました。世界最大の携帯電話メーカーを見方につけたことで、Windows Phoneの未来は明るいものに見えたのです。

 ノキアはWindows Phoneに「Lumia」というブランド名を新設。2011年秋に「Lumia 800」「Lumia 710」「Lumia 720T」を投入すると、2012年は12モデル、2013年は9モデルと立て続けにWindows Phoneを出していきます。

 2013年にはカールツアイスレンズを搭載した「Lumia 1020」や、当時としては大型の6型ディスプレーを搭載したファブレット「Lumia 1520」など特徴的な製品も発売。Lumiaのバリエーションを広げていきます。

4100万画素のPureViewカメラを搭載したLumia1020。グリップカバーを用意するなどカメラとしての使い勝手も高めた

 しかし、Windows Phoneをつくるほかのメーカーとしては、マイクロソフトの「ノキア贔屓」とも言える姿勢に疑問を持っていたかもしれません。

 サムスンやHTCは同時にAndroidスマートフォンにも注力しており、Windows Phoneは「様子見」という状況で製品を投入するにとどまりました。ファーウェイやZTEも製品を投入しますが、ハイエンド製品というよりもボリュームゾーン狙いの製品でした。

 2013年末でのスマートフォンのOS別シェアは、Androidが78.4%、iOSが15.6%、それに次ぐのがWindows Phoneの3.2%でした(ガートナー調査)。Windows Phoneは前年より販売台数を倍増させたにも関わらず、シェアは2.5%からの微増にとどまりました。つまりスマートフォン市場全体の伸びに対して、Windows Phoneの伸びはライバルに比べて少なかったのです。

 マイクロソフトとしてはWindows Phoneの迅速な開発、そしてWindows PCとの相乗効果を狙うために、2013年9月にノキアの携帯電話部門を買収すると発表しました。

 これは10年以上にわたり世界シェア1位の携帯電話メーカーだったノキアが新興勢力に敗れたことを意味し、そしてマイクロソフトがPCからモバイル市場へと本格的な参入を開始する姿勢の表れだったのです。

 2014年4月にノキアはSnapdragon 800搭載のフラグシップモデル「Lumia 930」を発売。そして、12月に中国向けのミドルレンジ機「Lumia 638」を出して携帯電話事業から撤退します。

 一方、マイクロソフトは同年11月に「Lumia 535」をリリースします。Lumiaのブランドはマイクロソフトになってもそのまま引き継がれたため、しばらくはノキアとマイクロソフトの製品が混在して販売されていました。

マイクロソフトブランド初のWindows PhoneとなったLumia 535

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