ノキアの端末は4桁、3桁、2桁いずれも1から9までの数字を頭に付けますが、4を付けることは無かったのです。435という見慣れぬ製品名の投入は、「脱・ノキア」を印象付けようとしたのかもしれません。
また、Lumia 532は型番だけを見ると、前年秋投入のマイクロソフト初のLumia端末である「Lumia 535」の姉妹モデルと思えます。
ところが、Lumia 535は5型540×960ドットディスプレーを搭載しているのに対し、Lumia 532はLumia 435と同じ4型480×800ドットディスプレーを採用。こちらの2つが姉妹モデルという存在でした。新興市場でのWindows Phone人気を狙い「500番台でも低価格」としてLumia 532を投入したのでしょう。
いずれにせよ、これら3つのモデルは次のメジャーアップデートまでの「つなぎ」そして「隙間製品」という存在だったようです。
続く3月と4月にはモデル名の下2桁を40とした、新しいシリーズ「Lumia 640」「Lumia 640XL」「Lumia 540」が発表されました。Lumia 640はSnapdragon 400、Lumia 540はSnapdragon 200。
ディスプレーはLumia 640XLが5.7型で、ほか2モデルは5型、解像度はどれも720×1280ドット。カメラ画質の細かい差はありますが、少ないプラットフォームで多品種展開をするのはノキア時代からの得意な方法です。
なお、正式なモデル名はデュアルSIM版、LTE版を別としたため、Lumia 640でも無印、LTE、デュアルSIM、デュアルSIM+LTEと4つのモデルが存在します。すべてをデュアルSIMにし、LTEも全対応としなかったのは、Lumiaが主に売れている市場が先進国ではなく、価格に敏感な新興国だったからでしょう。
PCとのシームレスな連携が売りのLumiaも、実際はソーシャル端末として新興国での人気を高めていたのです。
この40シリーズの下位モデルとして同時期に登場したのが「Lumia 430」でした。440としなかったのは4の続きを避けたのか、あるいは40シリーズが最新であることに目を向けさせようとしたのでしょうか。
しかし、先にLumia 435を登場させた後に若い番号をつけるとは、マイクロソフトは低価格機を大事に育てようという考えはなかったようです。
そして、10月。Snapdragon 808を搭載し、スマートフォンをモニターに接続して簡易PCにできる「Continuum for Phone」機能搭載の「Lumia 950」「Lumia 950XL」が発表されます。
先進国のビジネスユーザーを一気に取り込むことも考えられたフラグシップモデルで、他プラットフォームのハイスペックモデルが気になっていたユーザーからの注目を集める製品になりました。ディスプレーはそれぞれ5.2型、5.7型で解像度はQHD。加えて、2000万画素カメラを搭載するなどWindows Phone史上最強のスペックを誇りました。
Windows Phoneはこの950シリーズ2モデルがビジネス市場をけん引し、640/540が全世界を、そして430が新興国中心の展開と、全世界を狙える製品が出そろいました。LTE、デュアルSIMのバリエーションを含めると、この年は18機種が一気に発売されたのです。
Lumiaの歴史は1年半で終了、Surface Phoneに期待
一気に増えたマイクロソフトのLumia。ところが、ラインアップを見ると、ノキア時代に存在した700番台、800番台のモデルがありません。
つまり、Lumia 950の下位のモデルは、CPU性能がぐっと落ちるLumia 640であり、ミドルハイクラスのモデルが存在しないのです。マイクロソフトとしては、Continuum機能がWindows Phoneの最大の武器であり、同機能を利用できない中途半端な立ち位置の製品を先進国に出すことは考えられなかったのでしょう。
しかし、Android各社の売れ筋モデルであるミドルハイクラスの製品がなかったことで、先進国での売れ行きは急減していきます。ノキア時代の派手なカラーのボディーも姿を消していきました。
これは自社にない製品は他社に任せる考えだったのかもしれません。しかし、毎月のようにWindows Phoneの新機種が登場しても、市場は盛り上がらないままでした。
ガートナーによると、2014年末時点でのWindows PhoneのOSシェアはAndroidの80.7%、iOSの15.4%に次ぐ、2.8%で3位でした。2位からはかなり引き離されていますが、それでもまだ希望の持てる位置だったでしょう。
しかし、マイクロソフトがノキアを買収して市場参入してからは、毎月のようにシェアが下落していきます。2016年第1四半期にはAndroidが84.1%、iOSが14.8%に対し、Windows Phoneはついに1%を切り0.7%となってしまいました。これでもう同OSの敗北は決定的なものとなってしまったのです。
2016年2月に「Lumia 650」を出して、マイクロソフトのWindows Phoneの歴史は終わります。同じ月にHPからハイスペックな「Elite x3」が出たこともあり、ビジネス市場でもしも再び盛り上がりが見られれば次のLumiaの投入もあったかもしれません。
このころはLumia 950の後継機に期待する声も多く聞かれ、2in1 PCの「Surface」シリーズ同様、スペックだけではなく質感や仕上げも最高級のいわゆる「Surface Phone」の投入も期待されました。しかし、結局はそれもなくなってしまいました。
では、今後Windows Phoneはもう出てこないのでしょうか? 2017年10月にはマイクロソフトのOS担当であるJoe BelfioreがWindows Phoneのアップデートを考えていないとTwitterで表明しています。つまり、もはや同社内ではWindows Phoneの開発は中断されているということです。
とはいえ、いまやWindows PCで売れ筋な製品は、ディスプレー部分が取り外し、タブレットとしても使える2in1タイプです。
つまり、マイクロソフトはWindows 10で、PCとタブレットの垣根をなくしました。そして、その動きはいずれスマートフォンにもやってくるでしょう。6型クラスのディスプレーを搭載し、Windows 10が走るタッチパネル型端末が出てくれば、それはPCやタブレットではなくスマートフォンなのです。
2017年6月にはクアルコムがSnapdragon 835上で動くWindows 10をデモしました。このデモは「タブレットやPCがSnapdragon 835で動く」と同時に、「Snapdragon 835のスマートフォンでもWindows 10が動く可能性がある」ことを意味します。
もはやスマートフォンのディスプレー解像度はノートPCを超え、QHDやQHD+が当たり前のものとなりました。18対9のアスペクト比のディスプレーなら6型クラスでも大画面と片手持ちを両立させてくれます。
Snapdragon 835とWindows 10の入った手のひらサイズのコンピューター、つまりスマートフォンの実現は目の前に来ているのです。
Surface Phoneが出てくるとしたら、次のSnapdragonの最上位モデルを搭載したスマートフォンサイズの製品になると考えられます。スマートフォンに真のWindows 10が搭載される日がくれば、マイクロソフトが再びスマートフォンを手がける日がやってくるでしょう。