「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」

niconicoはかつて撤退した動画サービスと同じ末路を辿っている

文●ノダタケオ(Twitter:@noda

2017年11月30日 19時00分

nicocasで「実現される新機能&サービス」

 サービス開始が2018年2月28日へ延期されたniconico(く)は大きく3つのサービスで成り立ちます。これまでの「ニコニコ動画」「ニコニコ生放送」、そして「動画+生放送+双方向+映像合成」四位一体の新しいインターフェイス「nicocas」。これまで「イチから作ったほうが早い」と言われていて、根本から作り直しをしているのが「nicocas」であると理解して良いでしょう。

 今回の発表会で紹介されたnicocasで「実現される新機能」は下記の通りです。

(1)「オープニング&エンディング」
リアルタイム合成されたオープニング・エンディング映像を簡単に流すことができる機能

(2)「ニコニコQ」
スピーディーにアンケートやクイズを実施することができる新サイト。事前に問題を作成したり、他の人が作成した設問を借りて出題もできる。他のSNSやライブサービスでも出題可能

(3)「ニコ割ゲーム」
全員強制参加でゲームをプレイする「ニコ割ゲーム」が復活。放送者や視聴者のプレイをみんなで応援したり、全員強制参加ゲームではランキングも表示される

(4)「休憩する」
生放送中に放送者が休憩できる「休憩する」機能。休憩中はユーザーが投稿した動画が放送される

(5)「引用する」
動画・生放送・nicocasで配信されている番組を引用して放送することができる機能。動画・生放送の実況配信ができる

(6)「マルチカメラ」
ワンタッチでスマートフォンをセカンドカメラとして利用できる機能

(7)「ニコニコ新市場」
ニコニコ市場のリニューアル。「ニコニコ新市場」から「オープニング&エンディング」「ニコニコQ」「ニコ割ゲーム」などの起動ボタンを貼ることで各機能を利用することができる

(8)「クルーズ」
クルーズのリニューアル。様々な種類のクルーズ番組が大量に追加される。今度のクルーズでは『次の行先』を選ぶこともできる

 これらの新機能についての発表を見て、残念ながら、nicocasが「さまざまな独自の最先端機能を搭載」した「未来のストリーミングサービス」の形かを考えると、残念ながらそれは「否」であると感じました。

 この中でも特に「休憩する」機能は、サイバーエージェントが提供するライブ配信メディアのプラットフォーム「FRESH! by CyberAgent」で9月から提供している配信者が自由なタイミングで広告を入れることができる「生放送中CM」機能に似ています。

 「引用する」機能も、以前に日本法人を撤退してしまった「Ustream」にあったCohostに似ています。UstreamのCohostはライブ配信されている別のチャンネルを、自分のチャンネルで共同主催する、今で言うところのライブ配信で人気の機能となりつつある「コラボ」に近いものですが、これが動画も取り込める形にした印象を受けます。

 唯一、「マルチカメラ」はこれまでのライブ配信メディアのプラットフォームでは存在しない(厳密に言うと、同じようなことをテクニック的に実現は可能なプラットフォームもありますが)少し便利そうな機能であるものの、それが「未来か?」と問われれば、正直、違和感を覚えてしまうのです。

「nicocas」は本当に未来インターフェイスなのか?

 今回のniconico(く)発表会における反応の大勢は「画質&重さ 完全解決」さえもできていないのに、新機能を発表して、しかも、その機能は魅力的なものでない、というものだったのではないでしょうか。

 「画質&重さ 完全解決」さえもできていないのに、の批判はさておき、今回ドワンゴが提案したnicocasの機能たちを純粋に見たとしても「コレじゃない」感、ドキドキワクワクするものではなかったように感じます。

 ただ、niconicoのユーザーは長くサービスを利用する人たち、そして、その年齢層も他のプラットフォームより高いユーザーが大半です。「ユーザーをもっと広い年齢層へ広げたい」と考えたとき、あの提案されたnicocasの機能はライトユーザーには必要なもので、私たちのようなライブ配信を長くやってきているコアなユーザーのほうが考えが古い、という考え方も、もしかしたら、できるのかもしれません。

 今回提案された「niconicoの未来(=nicocas)」が現在のniconicoユーザーへもし受け入れられないのならば、過去の資産は捨て(ニコニコ動画とは連携しないなど)、「新配信」への対応では必要最小限(ニコニコ生放送のシステムはnicocasと統合するのではなく将来停止するなど)、そして、イチから作り直している新しいインターフェイス「nicocas」で、これまでのニコニコ文化だけを最低限継承し「これまでの方向性とは異なる独立した別のサービスとして、その未来を目指す」ことをドワンゴは考えても良いのではないでしょうか。つまり、サービスをイチから作り直すだけでなく、ターゲットとするユーザーや文化もイチから作り直す、という考え方です。

 今回の発表会でユーザーには散々、非難されてしまった「nicocas」の新機能たちを、ドワンゴが「本当に未来である」と信じるならばそれを押し通すべき、とも思ったのです。

 niconico(く)発表会からしばらくの間、Twitterでは「ニコニコ」というキーワードがトレンドで1位になり続けました。それだけ、今回の発表会で残念だったと思った人が多かったことを表しているでしょう。でも、その一方で、当時画期的だった視聴者からのコメントが画面を横断する仕組みや、これまでのニコニコの文化を愛するが故の、「愛情のあるdisり」である応援の声でもある。それだけ、ニコニコに愛着をもったniconicoユーザーがまだまだ多いことも示していたのだと思います。

 この状況は、既に日本法人を撤退したUstreamのときの状況となんだかとてもよく似ています。Ustreamもユーザーからの声を反映することはできず、ライバルであったniconicoとの競争に負けました。今度は、Ustreamに勝ったniconicoが、Ustreamと同じ状況を辿っているようにも思えます。

 完全に後が無くなったこの状況を完全解決するには、なんとしても「2018年2月28日 サービス開始!全ユーザーに機能を開放」を宣言したniconico(く)を世間に出さないといけない状況です。

 これまで、ドワンゴは「斜め上」のものを数多く提案してきました。その企画力がいまでもあることを信じ、予想を(良い意味で)覆す大逆転ストーリーを私自身は期待したいのです。

ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda

 ネット番組の企画制作・配信、ライブ配信メディアとソーシャルメディア関連の執筆などその活動は多岐にわたる。イベント等のマルチカメラ収録・配信や、自治体・企業におけるソーシャルメディアを活用した情報発信サポート業務などもこなす。タイ王国とカフェ好き。

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