スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

参入わずか2年でスマホ事業が大赤字 中国LeEcoが抱えたゆがみ

文●山根康宏

2018年01月07日 12時00分

 2015年4月にスマートフォン市場へハイエンドモデルを引き下げて参入したのです。最初の製品は「Le 1Pro」「Le Max」「Le 1」の3モデル。外部コネクタはスマートフォンとして世界初のUSB Type-Cを搭載しました。

 上位モデルのLe 1 Proは5.5型QHDディスプレーを搭載。チップセットにSnapdragon 810を採用し、メモリ4GBにストレージ32GBで3299元、64GB版は2699元。カメラは1300万画素と当時としては大手メーカーを含めても最上位に位置できる製品です。しかもディスプレーは左右のベゼルがほとんど無いベゼルレスデザインで見た目もかっこいい仕上げでした。価格はシャオミのフラッグシップモデル(1999元)よりやや高めだったものの、性能と品質に優れていたことからこのLe 1 Proは一躍ヒット商品になります。オンラインで発売するや、用意された初期ロット20万台が1秒で完売したほどです。

20万台が瞬殺で売れたLe 1 Pro

 その上位モデルLe MaxはLe 1 Proのディスプレーを6.33型に大型化し、背面に指紋認証センサーを搭載。大画面+指紋の組み合わせは当時としてはかなり目立つ存在でした。各社の大画面モデルは価格を抑えたミッドレンジモデルが多い中、Le Maxはハイスペックな大型機として登場したのです。

 そして下位モデルのLe 1はストレージ16GBが1499元、最上位の64GBが1799元。チップセットこそメディアテックのHelio X10ですが、メモリは3GBと十分。しかもこの最下位モデルですら左右のベゼルがほとんどないベゼルレスデザインをしていたのです。低価格なのに高品質な仕上げはLeEco(当時はまだLeTV)人気を一気に高めます。

 しかしLeEcoのスマートフォンが売れたのは、本体の出来が良かっただけではありません。その販売方法にも大きな秘密があったのです。家庭でLeEcoの有料ストリーミング放送配信に加入していると、スマートフォン本体代金が加入年に応じて割引となったのです。1年契約で300元、2年で600元、3年で900元と、まるで携帯キャリアと契約して端末代金が割引になるように、LeEcoは自社のIPTVへの加入でスマートフォン代金を値引きしました。しかもLeEcoのスマートフォンを買うと毎月6GBぶんのTV放送が無料で視聴できました。すでにLeEcoのTVサービス利用者は中国全土にいたため、それらのユーザーがこぞってLeEcoのスマートフォンを購入したのです。

 また香港ではスマートフォンに年間視聴料金をセットにする販売方法も取られました。セットトップボックスの販売と同じ手法です。プレミアリーグサッカーなどは別途料金が必要でしたが、基本的なIPTVの多チャンネル放送はスマートフォンを買うだけで視聴できたのです。

 LeEcoのスマートフォンは本体にもちょっとした仕掛けがありました。ディスプレー下の丸いソフトキーは、一般的なスマートフォンであればホーム画面を表示します。しかしLeEcoのスマートフォンはそのボタンをタッチするとLeEcoのTV番組表が表示されたのです。まさにTVを見るために生まれたスマートフォンなのです。

 10月にはLe 1に指紋認証センサーを追加した「Le 1s」を発表。価格は引き下げられわずか1099元。この価格で同じ中国のシャオミの製品を比べるとミッドレンジの「RedMi」シリーズとなりますが、ボディーは樹脂製。Le 1sはメタルボディーで質感も高く、その価格からは想像できないほどの高い品質を誇ったのです。

一気に価格を下げたLe 1sも大人気となった

クアルコムの「顔」になるも、巨額の債務で製品開発は中止

 2016年1月にラスベガスで開催されたCES2016は、LeEchoにとってエポックメーキングとなる展示会でもありました。クアルコムはプレスカンファレンスで新型チップセット「Snapdragon820」に関するアナウンスしましたが、それを搭載するスマートフォンとして真っ先にLeEcoの「Le Max Pro」の名前を挙げたのです。

 当時はシャオミが絶不調でもあり、LeEcoはシャオミから中国で最も勢いのあるメーカーの座を奪いました。クアルコム幹部が発する「LeEco」の名前に、居合わせた多くのメディア関係者は「いったいどこの会社なんだ」と首を傾げたことでしょう。中国では超有名でも、グローバルではまだ無名の存在だったのです。LeEcoはその後インドなど海外進出を本格化させます。

 4月には昨年モデルを置き換える「Le 2 Pro」「Le Max 2」「Le 2」を発表します。6.33インチモデルのLe Maxの後継は1月のLe Max Proとなり、Le 2 ProはメディアテックHelio X25に5.5型フルHDディスプレーと、Le 1 Proよりスペックダウン。そしてLe Max 2はLe 2 ProとLe Max Proの間に位置するモデルとしてSnapdragon820搭載、5.7型QHDディスプレーとなっています。なおこの2モデルは2100万画素カメラを搭載しました。

2100万画素カメラ搭載のLe Max 2(左)とLe 2 Pro(右)

 2世代目のスマートフォンも期待を裏切らぬ出来上がりで、LeEcoのスマートフォンビジネスは先行きに明るい見通ししか見えないように思えました。またこのころは自動車やAR/VRなどスマートフォン以外のビジネスにも着手します。しかし急激な事業拡大はLeEcoの資金繰りを苦しくしていきました。

 2016年11月にはLeEcoがサプライヤーへの支払いを遅延していると報道され、同社の株価が急落します。また不正会計疑惑も上がりました。複雑かつ巨大化したグループ企業間での不透明な資金貸し付けや、増えすぎた従業員に対しての人件費アップなど、LeEcoの財布の中身は火の車状態だったのです。高性能なスマートフォンを低価格で販売できたのも、後からコンテンツ利用料で回収するビジネスモデルを採用したからでしたが、それは結局、資金の綱渡りをするようなものでした。

 2017年には前年に進出したアメリカで大規模なリストラを実施。スマートフォンだけならまだしも、テスラを目指して電気自動車への開発に資金を投入したことなどが裏目に出たのでしょう。LeEcoの勢いは2017年に入ると一気に止まってしまいました。

 LeEcoの現状で最後の製品は2017年4月に発売した「Le Pro 3 AI Edition」。Helix X27にメモリ4GB、ストレージ32GBまたは64GB、5.5型フルHDディスプレー、カメラは1300万画素のカラー+1300万画素モノクロというデュアル。そしてAIアシスタントを搭載していました。時代の流れに乗った製品でしたが、資金が無ければ工場への生産も依頼できません。LeTVのスマートフォンはこの3世代目のモデルで幕を閉じてしまったのです。

デュアルカメラにAIとトレンドを追いかけたLe Pro 3 AI Edition

 LeEcoにたとえ資金があったとしても、コンテンツでハードの赤字を埋めるというビジネスモデルは中国、そして海外でも難しかったでしょう。LeEcoのトップは債務を返済したうえで再出発すると話しているものの、LeEcoグループ全体の債務は1000億円以上。また2016年12月は上場以来初の赤字決算となり、成長にも陰りが見えています。「ゆがみのあるビジネスモデルでは成功できない」。LeEcoの失速はそれを如実に語っています。ユーザーにとっては夢のようなスマートフォンを送り続けたLeEcoですが、その復活は前途多難と言えそうです。

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