スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

スペックに「宝石のカラット数」 女性向けスマホからシフトした先 ―Sugar

文●山根康宏

2018年01月21日 17時00分

 まず本体の側面には129個のスワロフスキーの人口宝石をちりばめ、その総重量は5.16カラットもあったのです。スマートフォンのスペックにカラットの文字が入った製品はこのSugarが初めてかもしれません。ホームボタンはソフトキーですが、ディスプレー下のその位置にはダイヤモンドのアイコンが描かれていました。さらにパッケージはスマートフォンとしては大きい箱で、中を開けるとダイヤモンドの形を模した大きな透明樹脂製のケースが入っていました。そのケースを開けると中央にSugarの本体が鎮座するという、パッケージから凝ったユーザー体験を演出する製品だったのです。

スワロフスキーを周囲に散りばめた「Sugar」

 宝石を散りばめているので高級スマートフォンと思いきや、価格は3299元(約5万7000円)からとそれほど高くはありませんでした。ターゲット層は20代から30代の女性で、スマートフォンをアクセサリとして持ち運びたい層が手を出せる価格に設定されたのです。高級端末と言えばヴァーチュ(VERTU)がありましたが、あちらは本物の貴金属にダイヤを使うなど価格は100万円台。Sugarはそこまで高級品ではなく、ファッション端末というジャンルの製品でした。女性たちが洋服やアクセサリを買うようにシュガーのスマートフォンを買う、そんな製品を目指したのです。

 翌年2014年には後継モデルの「Macaron」(マカロン)が投入されます。こちらもフランスの老舗のスイーツ店、ラデュレで発表会を開催するなど、フランス生まれを大きくアピールしました。初代のSugarがホワイトやブラックのモノカラーだったのに対し、Macaronはその名の通りパステルピンクやミントグリーンなど、かわいらしい色合いを採用しました。MacaronはSugar同様にスワロフスキークリスタルを119個、4.76カラット本体の回りに配置しています。シュガーは「宝石スマートフォンメーカー」として中国では大きな話題にもなりました。

パステルカラーの「Macaron」

 2015年5月には初代モデルの後継となる「Sugar 2」が発売になります。ディスプレーは5.2型となり、本体サイズが大型化したことによりスワロフスキークリスタルの数も136個に増えました。このように1年1機種で独自の世界観を消費者に訴える戦略でシュガーは製品を増やしていったのです。そしておそらくメインのSugarシリーズとサブのマカロンシリーズを交互に1年おきにリリースし、ユーザーを飽きさせない戦略を撮ろうとしていたのかもしれません。

 しかしスマートフォンの世界は技術革新も速いものです。またシュガーのブランドそのものが認知されなければ、消費者は製品そのものに魅力を感じられなくなります。そのためか、このSugar 2からはソフトキーのホームボタン部分をダイヤモンドアイコンから「SUGAR」の表記に変え、ブランド浸透力を高めようとしました。しかし売れ行きは思わしくなかったのでしょう。2015年下半期からは、製品ラインナップを大幅に見直しすることに。

カメラに特化、OPPOが作ったセルフィーブームを追いかける

 2015年11月に発売された製品「Sugar C6」は、新たに「C」と「6」の型番を付与するこれまでのラインと別のモデルでした。最大の特徴は価格の引き下げとカジュアル路線への変更です。本体外周のスワロフスキーの装飾は左右の側面だけとなりました。そして82個と数も減らしています。

 また1499元(約2万5900円)と、1000元台の買いやすい価格で売り出されました。カメラは前後800万画素、5型HDディスプレーなどスペックも落としています。Sugar C6はシュガーの製品をより多くのユーザーに入手してもらうための製品だったのです。

 2016年にはこのカジュアルなラインナップを次々と増やしていきます。オリジナルのSugarシリーズの後継といえる「Sugar S」は、側面のボリュームボタンと電源ボタンのみにスワロフスキーを埋め込みました。1000元を切るエントリー機「Sugar Y7」もSugar Sと同様のクリスタル配置。一方「Sugar C7」は背面のカメラ周りのみがスワロフスキー。高解像度ディスプレーの「Sugar F7」はSugar C7と同様にカメラ周りのみを装飾しました。

 このように2016年モデルからは、スワロフスキーはSugarの顔そのものではなく、Sugarらしさをアピールするアクセントとして使われるようになったのです。また製品価格はすべて2000元以下となり、どの製品も手軽に買えるようになりました。しかしその結果、外観上他社品との差別化に悩むことになります。モデルのシリーズも「C」「F」「S」「Y」と一気に増え、製品の区別も消費者にとってはややわかりにくいものになりました。

スワロフスキーはカメラ周りの身となった「Sugar C7」

 2016年のシュガーは「数を出す」戦略を取ったのでしょう。しかし、それも結果としてはうまくいかなかったと思われます。そもそもスワロフスキーの宝石を見て、消費者がそこに本物の価値観を持ったかどうかも疑問でした。

 そこで2017年には再び大きな戦略変更に乗り出します。それはカメラスマートフォンへの移行でした。折しも世の中はOPPOとVivoが躍進し、スマートフォンと言えばカメラの時代を迎えていました。前年モデルの各後継機は「Sugar C9」「Sugar F9」「Sugar S9」「Sugar Y9」で、これはOPPOとVivoが2016年に付けた型番の「9」に合わせてきたのでしょう。

 4モデルともスワロフスキーの装飾はついになくなります。一方カメラは全モデルが1300万画素以上を搭載。Sugar F9は最上位モデルで6.6ミリ厚ながらも前後1600万画素カメラを搭載。フィランドVisidon社の画像処理エンジンにより画質を4倍、疑似的に6400万画素に高めることができるといいます。シュガーは大々的に「6400万画素」をうたいますが、さすがに消費者はそれを真に受けることは無かったようです。

 とはいえSugar Y9がフロント800万画素に留まるものの、Sugar C9とSugar S9はリアカメラよりも高画質なフロント1600万画素カメラを搭載。OPPO、Vivoに真っ向から立ち向かうセルフィーに強いスマートフォンとして再起を図りました。ここからは怒涛の動きで、市場の流行に乗り遅れまいと次々に製品を投入していきます。

 まずSugar F9の後継として、デュアルカメラ搭載の「Sugar F11」を投入。また低価格モデルSugar Y9は、カメラ画質を下げて低価格化したマイナーチェンジモデルの「Sugar Y11」を発売します。この「11」の数字もOPPOを意識したものでしょうか。

 一方Sugar C9の後継機はディスプレーアスペクト比を18:9にした「Sugar SOAP R11」を発売します。このモデルはSugar独自UIを搭載した「Sugar OS」を歴代モデルが採用しているのに対し、素のAndroid OSを搭載し台湾などで発売されました。さらにはSugar SOAP R11をデュアルカメラ化した「Sugar C11」も投入します。

素のAndroid OSを搭載、18:9ディスプレーの「Sugar SOAP R11」

 18:9の急速な流れに慌ててか、Yシリーズにも同アスペクト比の端末を追加しますが「Sugar Y12」と、偶数型番のモデルとなりました。OPPOやVivoならば型番に「S」を付けるところですが、OPPO、Vivoよりも先に「既存モデルの仕様変更」を出したために、12という数字を付けたのでしょう。このように2017年は次々と新製品を投入し、OPPOとVivoを追いかける動きを見せました。

 2018年に入ると時代の真っただ中の流行からイーサリアムフォグとコラボしたモデルを投入。ブロックチェーンに対応し、5.99型1080x2160ドットディスプレー、リア2000万+800万、フロント1600万+800万画素カメラというハイスペック機です。このような製品はもはやシュガーのターゲットユーザーを向いていませんが、何かしら新しいトレンドに乗らなければ生き残れないということなのでしょう。このモデルのカメラの前後を入れ替えた成否として「Sugar C11」も登場予定です。

 女性のアクセサリを目指したスマートフォンから、セルフィー端末への路線変更、そして新しいトレンドの模索と、マイナーな存在ながらもシュガーはまだまだ業界で生き残ることが出来そうです。次はどんな製品を生み出すのか、注目です。

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

Access Rankingアクセスランキング