「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」

YouTube収益化プログラム条件引き上げは動画サービスとして不利になるのではないか

文●ノダタケオ(Twitter:@noda

2018年01月25日 17時00分

 ポリシーや規約、ガイドラインを遵守するなどの一定の要件を満たしていれば、収益化がずっと可能であったYPPですが、「チャンネル登録者数」や「過去12ヵ月の総再生時間」という「上がることもあれば下がることもある」これらの数値が参加要件の基準になることによって、これからは一定の要件を満たせず収益化の対象から外れてしまう可能性もある仕組みへと変わります。

 いまの子どもたちが将来なりたい職業のひとつとして「YouTuber」であることが話題になりました。子どもに限らず、大人でも、一般の人が創造的な動画を作り続け、YouTubeへ投稿していくためのモチベーションのひとつであった収益化。容易にできなくなったことによって、YouTuberという職業が先行した人だけの特権となり、憧れではなくなってしまうのか、それとも新しいハードルを超えてでもなりたい憧れの職業YouTuberとなるのかは「収益化できるようになるまでのモチベーションを維持させる仕組み」をYouTubeが提供できるのかにかかっているように感じるのです。

YPPへ参加ができる資格要件を満たすためのポイント

 新しい資格要件である「チャンネル登録者が1,000人」かつ「過去12ヵ月間の総再生時間が4,000時間」はこれまでと比べると、YouTubeで収益化をするための「ハードルがとても上がった」印象を受けた人、はたまた今回の変更によってYPPから外れてしまう人も多いのかもしれません。

 前者の「チャンネル登録者数1,000人」というハードルは、趣味の延長線上としてYouTubeへ動画を投稿してきた人たちにとっては数百人規模のファンを抱えることができても、さらに一桁上へ伸ばしていくことは難しいものです。長く続けていくことによって、結果的には1,000人というハードルを超えることができるのかもしれませんが、それまでには時間も要するように感じます。

 チャンネル登録者数は時間をかけ積み重ねていくことでクリアできそうに見えるハードルです。ただ、より重たい課題となるのは後者の「過去12ヵ月間の総再生時間が4,000時間」のハードルです。

 これまでは投稿した動画と如何に接触してもらうか(再生をしてもらうか)での勝負で、視聴回数が多いことによって世間からも「人気のある動画」として評価されてきました。たくさんの人に見てもらう視聴回数による評価基準から、さらに、見てもらった人が最後までその動画を見続けてもらう再生時間による評価基準へ変わることになります。

 つまり、視聴回数を伸ばすためにこれまで多くの人がしてきた「付けるタイトルの工夫」と「サムネイルによる分かりやすさ」に加え、「つい最後まで見てしまうような内容」である必要も加わっていきます。

 これら「チャンネル登録者数1,000人」「過去12ヵ月間の総再生時間が4,000時間」のハードルを超えるには
(1)季節などに左右されない
(2)たくさんの人に再生してもらう
(3)できるだけ最後まで視聴し続けてもらう
(4)毎日のように投稿し続ける
 以上のことがポイントとなりそうです。

 「過去12ヵ月」というハードルを(1)で、「総再生時間4,000時間」は(2)と(3)を、(4)で「チャンネル登録者数1,000人」をクリアできる動画をYPPによる収益化を目指す人、そして、収益化から外れてしまって改めて目指し直す人たちは創意工夫して作り出していかなければならないのだと思います。

 その動画の内容はさておき、いったいどのぐらいの長さの動画を作っていけばいいのかというのも頭を悩ませるところです。

 以前であれば、できるだけ短い90秒程度の動画が見てもらえるという流れがありました。ただ、近年ではスマートフォンの普及によって、動画を見る文化は一般の人にもさらに浸透したこともあり、3分程度の動画は最後まで見続けられる傾向にあるように感じます。さらに、5分程度の少し長め、場合によってはもっと長い動画であっても「ながら見」で見続ける人も多くなったと思います。

 もちろん、それには動画の内容にもよるのですが、「総再生時間4,000時間」というハードルを超えるには、これまでのような90秒ほどの動画を置いていくより「5分程度の動画でも良いのかも」と個人的には感じています。

 さらにいえば、YouTube Liveでのライブ配信をした後に残されるアーカイブ動画を基に、ダイジェスト版の動画を投稿することで、「総再生時間4,000時間」というハードルを超えるための手段のひとつになりえるのかもしれません。

 しかし、再生中にスキップをされてしまうと再生時間による評価基準が下がってしまう可能性もあります。よって、(3)の「できるだけ最後まで視聴し続けてもらえる動画」という条件には、“スキップをしないでも”という要素も加わるのかもしれません。

「収益化できるようになるまでのモチベーションを維持させる仕組み」が必須

 YouTubeパートナープログラムが新しい資格要件となったことによって、いままでは満たしていても今回から設けられた基準から外れてしまった人のモチベーションの低下は避けられません。「クリエイターを保護するため」とはいえ、そのクリエイターを目指している途中段階であった人にとっては非常に辛いものとなりました。

 再びYPPへ参加ができる資格要件をクリアするために、一体、どのようなコンテンツを作り出して行けばよいのかを改めて考え直す必要があります。また、他のクリエイターたちがどのようなものを作り出していくのかも注視しなければならないかもしれません。特にトップYouTuberと呼ばれる人たちが投稿する動画たちの傾向をチェックしていくのもポイントのひとつとなりそうです。

 これからのYouTubeは、トップYouTuberと呼ばれるような収益化ができる人気の人たちと、趣味で動画を投稿していく人たちとの二極化が進むのかもしれません。「それはそれで良し」と考える一方で、その中間層が空白となることは、動画共有サービスYouTubeとして将来的に不利となるようにも感じています。

 その結果「今回の資格要件を緩和させるべき」という声にもつながるのかもしれません。それ以上にYouTube側が少なくとも収益化を目指すYouTubeクリエイターたちを「収益化できるようになるまでのモチベーションを維持させる仕組み」を提供できるのかはこれからの課題です。

ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda

 ネット番組の企画制作・配信、ライブ配信メディアとソーシャルメディア関連の執筆などその活動は多岐にわたる。イベント等のマルチカメラ収録・配信や、自治体・企業におけるソーシャルメディアを活用した情報発信サポート業務などもこなす。タイ王国とカフェ好き。

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