「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」

ネット上ではライブ配信者を巡る「引き抜き」が存在している

文●ノダタケオ(Twitter:@noda

2018年02月15日 17時00分

 ツイキャスで人気の配信者に対して、Twitterのメンションや個別のダイレクトメッセージなどでコンタクトを取り、なんらかの対価(報酬)を提示し、契約を結んだりすることは、いまでも見受けられます。

 引き抜くことによって、その配信者にこれまでついていたファン(視聴者)をも一緒に引き抜き、結果、サービスそのものの認知度を上げることを目的とした施策です。引き抜かれた配信者たちは、契約を結ぶことよって得られる対価とともに、通常のギフティングで得ることができる報酬の分配も得られる形が多いようです。

 2015年頃からこれまでの間、ツイキャスはこうした事実上の配信者の引き抜きによって、他のサービスへ配信者とそのファンたちが奪われていく様子を見ていて、ツイキャスの存続そのものの危うさを感じていました。第78回記事の「プラットフォームごとのライブ配信数」でも触れたように、引き抜かれていったサービスと比べても、ツイキャスにおける「配信をする人の賑わい」は(少しずつ奪われていっているとはいえ)まだまだ圧倒的に多いのです。

 その一方で、他のサービスへ配信者が引き抜かれている最大の要因は、ツイキャスに配信者へ還元される「マネタイズ」の手段がないことです。第71回記事で「個人のライブ配信者が求める『ライブ配信メディアのプラットフォームに求めるモノ・必要なコト』」にも挙げたように、「配信者誰もができる・わかりやすいマネタイズの仕組み」はどのサービスにおいても最も求められているもののひとつ。

 しかし、ツイキャスは(おそらく)マネタイズの仕組みを作ることに積極的ではありません。比較的若い年齢層が多くいるサービスですから、「お金」を前面に押し出した流れにはしたくないというサービスそのものの方針や運営する人たちの想いもきっとあるのでしょう。

 マネタイズの仕組みを作ることに積極的ではないことについては理解ができる一方で、ツイキャスにマネタイズの仕組みができたなら、これまでも、そして、これからも、離れる人を引き留める理由のひとつになりえると思うのです。

 もちろん、マネタイズの仕組みがツイキャスで提供されればそれで良いのか? という議論はありますが、その仕組みがないからツイキャスから事実上の「配信者引き抜き」が起きているとも言えるでしょう。マネタイズが可能となる金額の大小はさておき、なんらかの「配信者誰もができる・わかりやすいマネタイズの仕組み」が正直、欲しいのです。

 もしくは、現在、招待制となっているツイキャス公式オンラインストア「キャスマーケット」をもう少し開放する形で、いま注目を集めているライブコマースの形に似た、個人でも気軽にできる仕組みがツイキャスに実現されると面白いように感じます。

他に負けない「快適に利用(視聴および配信)できるプラットフォーム」

 ツイキャスはこれまで日本におけるスマホでのライブ配信の文化をたくさん作り出してきました。その代表は「アイテム」です。いまでは「ギフティング」という形でアイテムを配信中に投げるという文化(仕組み)が当たり前のものとなっていますが、この文化を日本に浸透させたのはツイキャスであると言えます。

 さらにいえば、自撮りのライブ配信(セルフィーライブ)が苦手な人を意識した「ラジオ配信」、セルフィーライブで一人話し続けるのが苦手な人には「コラボ配信(コラボキャス)」という視聴者を巻き込んでひとつの画面上でみんなでトークを展開できる仕組みも広めました。いまあるスマホ特化のライブ配信の機能のほとんどは、ツイキャスから派生していると言っても過言ではないのかもしれません。

 もっとニッチなところで言えば、通信速度制限下でもなめらかな配信ができる「なめらかモード」や、配信中にスマホを縦持ちから傾けて横持ちにしても視聴者にはそのまま自動で水平を保つ機能「まわし撮り」など、配信者も視聴者も快適に利用(視聴および配信)できる仕組みを提供してきました。

 ツイキャスは昔から、携帯電話の電波状況(ネットワーク状況)が良いときはもちろん、悪いとき(通信速度制限下など)であっても、安定して快適に視聴や配信ができることに最も注力してきました。だからこそ、ツイキャスは配信中に途切れることが少ない、とても安定した「快適に利用(視聴および配信)できるプラットフォーム」のひとつでもあります。

 ゆえにツイキャスを離れても、配信の安定性がツイキャスに優位であることを改めて認識してツイキャスへ戻る人もいれば、ほかのプラットフォームに移ったもののツイキャスも併用して使い続ける人もいます。完全にツイキャスから離れるという人はおそらくそんなに多くはないのです。

これまでに無かった「新しい賑わい」の仕組みを待ち望んでいる

 ツイキャスは既に8年も続いてきたサービスです。ですから、現在、サービス的に赤字であるということは(おそらく)ないでしょう。だから、ギフティングのようなマネタイズの仕組みを急いで取り入れ、その仕組みによってサービス運営の維持をする必要も(いまのところは)ないのかもしれません。

 ユーザーはなんらかのマネタイズの仕組みがあることを求める一方で、運営側はそれを選択しないのであれば、それに代わる魅力でツイキャスに人を引き留め続けなければなりません。それがなければ、今は良くても将来的に優位性を保ち続けることは難しくなってくると思うのです。

 ツイキャスはどのサービスに比べても、これまでに無かった「新しい賑わい」を作り出すことをしてきました。

 直近では、iOSやAndroidのスマホ画面をそのまま配信できる「スクリーン配信」機能がリリースされました。手軽にリスナーと会話を楽しみながらスマホゲームの実況やお絵かきなど、スマホ画面をそのまま映せる特徴を活かした配信が可能です。パソコンなどを使わずとも、スマホ一台でできるこの仕組みは「新しい賑わい」を作り出すひとつの手段でもあるでしょう。

 スマホに特化したライブ配信サービスの先駆者でもあるツイキャスは、配信者が他のサービスに奪われていると言われるいまであっても、「視聴をする人の賑わい」や「配信をする人の賑わい」はツイキャスのほうがまだまだ圧倒的な優位性があります。

 そんないまだからこそ、後発のサービスたちを引き離すぐらいの「新しい賑わい」の仕組みを待ち望んでいるのです。

ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda

 ネット番組の企画制作・配信、ライブ配信メディアとソーシャルメディア関連の執筆などその活動は多岐にわたる。イベント等のマルチカメラ収録・配信や、自治体・企業におけるソーシャルメディアを活用した情報発信サポート業務などもこなす。タイ王国とカフェ好き。

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