スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

VAIO Phoneは2万円台スマホだから成功した 二度の失敗が元となった産物

文●山根康宏

2018年03月11日 12時00分

 当初は発表直後に製品が出てくるはずが延期され、2015年1月にはVAIOではなく日本通信側から箱だけ、つまり製品ではなくパッケージが披露されました。これでVAIO Phoneへの期待はさらに大きく高まっていきます。

大きな期待を背負って発表されたVAIO Phone(VA-10)

 そして2015年3月12日にVAIO Phoneが正式に発表されました。しかし出てきた製品は期待していたユーザーをがっかりさせるものだったのです。VAIOといえばiPhoneに匹敵するほどのブランドを持っているはずです。しかしVAIO PhoneのスペックはiPhoneには遠く及ばない、ミッドレンジクラスのモノでした。

 ディスプレーは5型1280x720ドット、Snapdragon 410にメモリ2GB、ストレージ16GB、カメラはメインが1300万画素、フロントが500万画素。本体はプラスチック製で、VAIOを思わせる高級感は背面側が光沢仕上げであるところにわずかに見られる程度。一方このスペックで価格は5万1000円(税別)で、しかも日本通信の専用プランへ加入しなくては購入できませんでした。

 究極のスマートフォンとして登場すると期待されたVAIO Phoneが、蓋を開けてみればミッドレンジスペック、しかも本体の仕上げを考えると価格は割高で、さらに単体購入はできません。VAIO Phoneに夢見ていた消費者たちはその現実に失望してしまったのです。

 しかも本体は台湾のODMメーカー、クアンタ・コンピュータが製造したもので、同系のODM端末として台湾ではパナソニック「ELUGA U2」が販売されていました。つまりVAIO Phoneは本体のカラーリングや仕上げはVAIO、日本通信側で指示を出したのでしょうが、本体の基本設計そのものはクアンタ・コンピュータが設計した製品だったのです。

 VAIO Phoneはその話題性とは裏腹に、販売後の売れ行きは伸びませんでした。老舗のMVNO事業者である日本通信としては話題の有る端末の独占販売により顧客増を狙ったのでしょうが、ブランドと歴史のあるVAIOの名前だけを使っただけ、という製品では消費者の目を振り向かせることはできなかったのです。

VAIO Phoneと同系機のELUGA U2。現地価格は約3万円と性能相応だった

Windows Phoneで再出発、再参入を期待したい

 日本通信の決算を赤字にしてしまうほどだったVAIO Phoneは、若い会社であるVAIOの歴史の中から消し去りたいものになってしまいました。VAIO Phoneの不信からVAIOは今後PCに専業するものと誰もが思ったでしょう。

 ところが2016年4月、今度は「VAIO Phone Biz」(VPB0511S)を発表します。OSはWindows 10 Mobileを採用、名前からわかるようにビジネス市場を狙った製品としてリリースされました。VAIOとしては同社のWindows PCのコンパニオンとして、VAIO Phone Bizを使ってもらうことを考えたのでしょう。

Windows 10 Mobileとなり新しく生まれ変わったVAIO Phone Biz

 本体はアルミ削り出しボディーで、5.5型フルHDボディーにSnapdragon 617を搭載。Continuum機能も搭載し(無線接続のみ)外部モニタに接続することで簡易PCとしても使うことが可能でした。ようやく出てきたVAIOらしいスマートフォンは、1年前の悪夢を払拭させるだけの期待感を日本の消費者に与えることも出来たのです。

 このころは日本ではWindows 10 Mobile端末ラッシュとなり、他のメーカーからも多くの製品が登場しました。Windows PCとセットで使うことで生産性の向上も見込まれ、iPhoneやAndroidスマートフォンを利用しているユーザーからの乗り換えも期待されました。

 残念ながら蓋を開けてみれば、Windows 10 Mobileはブラウザの使いにくさやアプリの少なさからユーザーの関心を引き寄せることはできませんでした。華々しくデビューしたVAIO Phone Bizも、法人向けに一定数販売された以外、一般消費者へはあまり売れなかったことでしょう。VAIOがようやく本気を出したスマートフォンでしたが、ビジネス的には成功を収めることはできませんでした。

 こうして2度も苦渋を味わったVAIOでしたが、2017年3月に「VAIO Phone A」(VPA0511S)を発表します。見た目とスペックはVAIO Phone Bizそのもので、OSをAndroid 6.0に変更した製品でした。しかも価格は2万4800円(税別)。VAIO Phone Bizは当初5万4800円(同)で、その後2万9800円(同)に引き下げられましたが、VAIO Phone Aはそれを下回る普及価格で出てきたのです。

低価格なのにVAIOなVAIO Phone Aはヒット商品になった

 VAIOのブランドのスマートフォンが2万円台で手に入り、しかも高い質感とAndroid OSを搭載しているとあれば、売れないわけがありません。VAIO Phone AはSIMフリー端末の販売ランキングで上位に入るなど、ヒット製品となりました。しかしその裏にはVAIO Phone Bizの販売不振があり、基本設計など開発コストのほとんどがVAIO Phone Bizにかけられていたことから、VAIO Phone Aは低価格で販売することが可能だったのでしょう。

 こうして振り返ると、VAIOは若い会社ながらも毎年1機種ずつのスマートフォンを出してきました。しかしVAIO Phone Aの後継モデルの話は2018年に入ってから聞かれていません。VAIOのブランドはいまだに高い価値があり、VAIOのスマートフォンを求める声は確実に一定数あるでしょう。VAIOにはぜひともSnapdragon 600系を搭載したミッド・ハイレンジのスマートフォンを定期的にリリースしてほしいものです。

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