スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

携帯電話を普及させたパナソニック 技術力あっても撤退した未来へのビジョン

文●山根康宏

2018年03月18日 13時30分

 なおこのころ日本メーカーはNECが「MEDIAS」、東芝が「REGZA」など独自のブランド名をつけてスマートフォンを販売していました。パナソニックも「LUMIX」でスマートフォン市場を攻めていこうと考えたのでしょう。ところがLUMIXブランドの製品はわずかこの1シリーズで終わりになりました。

 2012年3月登場のスマートフォンは高性能モデルの「P-04D」で、LUMIXの名はつけられませんでした。デジカメブランドを廃止した代わりに今度は同社のノートPC「レッツノート」との連携が強化されました。スマートフォンユーザーのビジネスシーンへの拡大を本格化させる目的の製品でもあったのでしょう。レッツノートとの簡単ファイル共有や、画面をP-04Dからリモート操作できるなど、同一メーカーの製品らしい便利な機能が搭載され、出張時のモバイルコンパニオンにもなるスマートフォンだったのです。このモデルもソフトバンクから「102P」として登場しましたが、同キャリア向けはこれが最後の製品となりました。

LUMIXの名前は1世代で終わってしまったP-02D

 2012年は2月にヨーロッパ市場の参入を発表し、新たに「ELUGA」ブランドを立ち上げました。そのブランドは日本でも採用されることとなり、7月に「ELUGA V P-06D」が登場します。こちらはパナソニックのブルーレイレコーダー「DIGA」の録画番組を利用できるなど、動画ファイル連携が強化されました。自社製品を組み合わせたエコシステム作りは、日本メーカーの中でパナソニックが最も進んでいたかもしれません。

個人市場撤退から、尖った製品開発へフォーカス

 ELUGAブランドのスマートフォンは2012年8月に「ELUGA power P-07D」、2013年1月に「ELUGA X P-02E」、6月に「ELUGA P P-03E」と次々発売されます。しかし同年9月、パナソニックは個人向けスマートフォン市場からの撤退を発表します。

 背景には2013年春先にドコモがとった、「GALAXY S4 SC-04E」と「Xperia A SO-04E」の2機種を「ツートップ」とした販売戦略が大きな影響を与えました。これにより他社のスマートフォン販売数が大きく落ち込んだのです。また日本では親しみのないELUGAというブランドが、パナソニックの製品だとは認知されにくかったのでしょう。

 海外では先に2012年にヨーロッパへの参入から一年を待たずに市場撤退していますが、2013年には安価なODMメーカー品を武器に新興国へ再参入を本格化させたばかり。しかしキャリアビジネスが中心の日本では、このままビジネスを続けても傷口を広げるだけだったに違いありません。

 翌年2014年にはコンシューマー市場にフィーチャーフォンを1モデル投入するにとどまりました。その一方でB2B市場にはタフなアクティブ仕様のスマートフォン「TOUGHPAD FZ-E1」「同FZ-X1」を発売しました。TOUGHPAD (タフパッド)はパナソニックが1996年から展開しているタフネス仕上げなノートPC「TOUGHBOOK(タフブック)」のタブレット製品群で、2011年から製品を展開しています。

個人ユーザーでも欲しい人が続出したTOUGHPAD FZ-E1/FZ-X1

 FZ-E1/FZ-X1は5型ディズプレーにLTEを内蔵しており、製品分類としてはタブレットではなくスマートフォンです。FZ-E1がWindows Embedded 8.1 Handheld、FZ-X1がAndroidを搭載し、業務用アプリを屋外でも自在に利用することを可能にしました。見た目は意外にもスタイリッシュで、スマートフォンマニアなどからも大きな関心を集めました。

 同年9月にはドイツで開催された写真関連展示会の「Photokina2014」で「LUMIX DMC-CM1」が発表されます。1型センサーを搭載したコンパクトデジタルカメラですが、本体部分は4.7型ディズプレーにSnapdragon801を採用し、スマートフォンとしても使える製品です。日本では翌年2015年3月に2000台限定で発売されましたが、SIMフリーで10万円を超える高価なモデルだったにもかかわらず完売するほどの人気になりました。

 日本の市場は従来のキャリア販売ビジネスの下では、特定ユーザーに絞った高性能な製品を高価格で提供売ることは不可能でした。CM1はパナソニックのスマートフォン開発力が未だに健在であり、日本のメーカーにもまだまだ競争できる分野の製品があることを堂々と証明したのです。その後は通話機能を絞ったマイナーチェンジモデル「CM10」も2016年2月に投入されました。

見た目は高級コンデジなCM10も中身はAndroidスマホそのものだ

 2016年はTOUGHPADの4.7型ディズプレー版を出したほかに、Android OSを採用した折りたたみスタイルのフィーチャーフォン、いわゆるガラホの「P-smartケータイ P-01J」も発売されました。厳密な意味ではスマートフォンではありませんが、久しぶりのパナソニックのAndroid搭載機に感動した消費者も多かったはずです。

 パナソニックの日本市場での個人向けスマートフォンの撤退は、同社の技術力に問題があったのではなく、マーケティング上の戦略による栄誉ある撤退だったと言えるでしょう。パナソニックは今、ネットにつながる家電を使ったスマートホームソリューションを本格展開しようとしています。そのコントローラー端末として、ELUGAが復活することを切に願いたいものです。

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

Access Rankingアクセスランキング