スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

パナソニックのスマホは日本人の知らないところで復活を遂げていた

文●山根康宏

2018年03月25日 12時00分

 なお2013年には海外でも家庭用のコードレスフォン(DECT方式)にAndroid OSを搭載したモデル「KX-PRX120」を出しています。これはスマートフォンではないものの、Android OS搭載の電話機ということでパナソニックの歴史の1ページを飾るにふさわしい製品と言えるでしょう。

 そんな謎な製品を出す一方で、2013年5月に突如「P51」を発売します。販売先はインドで、5型1280x720ドットディスプレー、メディアテックMT6589に800万画素カメラというミッドレンジモデル。フリップカバーにスタイラスペンを付属させた大画面モデルは、Galaxy Noteシリーズが海外でヒットしている状況に乗って売り込もうとした製品でした。

大画面モデルで再参入を果たしたP51

 このP51は日本メーカーが作るにしては低スペックであり、防水もありません。実はP51のベースモデルはアルカテルを製造するTCLの「Y900」という製品なのです。パナソニックは自社によるスマートフォンの開発を断念し、今度はOEM/ODM品の供給を受け新興国にブランド力と低価格で攻める戦略に切り替えたのです。

 この2013年は結局「T11」「T21」「T31」「P11」の4機種と合わせ、合計5モデルを発売しました。日本人の知らないところでパナソニックのスマートフォンは復活を果たしていたのです。そして2014年にはElugaも復活。「Eluga A」「Eluga I」「Eluga S」「Eluga U」とわかりやすい製品名とし、PシリーズとTシリーズを置き換えていきます。自社での開発はUIのみとし、ハードウェア製造から手を引くことで次々と新製品を送り出す体制を作り上げました。

 なお9月のフォトキナでは1インチセンサー搭載のカメラフォン「LUMIX DCM-CM1」も発表。こちらはデジカメという位置づけですが、中身はれっきとしたスマートフォンです。翌年日本で登場した後継モデルの「LUMIX DCM-CM10」は残念ながら海外では発売されませんでした。

大衆のためのコスパモデルで人気を回復

 2015年には台湾にも「Eluga U2」を投入。インド以外の国へも販路を広げます。日本ブランドが人気の台湾向けモデルともいえる製品でしたが、製造はODM専業のクワンタ。そして同じベースモデルの仕様変更品が日本でいわくつきで発売されたあのVAIO Phoneでした。VAIO Phoneのおかげでパナソニックが海外でもスマートフォンを再び出していることに気が付いた日本人も多かったと思われます。

何かと話題になったEluga U2

 Elugaシリーズは型番がアルファベット1文字で、後継機はこのU2のようにアルファベット+数字、というナンバリングがされます。ところが早くも「Eluga Icon」「Eluga Mark」「Eluga Switch」と、ニックネームをモデル名にした製品が出てきました。このあたりは売れるためなら次々と製品を改良していくという、臨機応変な動きの速さでもありました。もはやパナソニックはスマートフォンの老舗メーカーではなく、再参入したニューカマー。売れるためなら何でもする、そんな姿勢が必要だったのです。

 2016年は14モデルを投入。Pシリーズは「P55」「P66」「P77」「P88」とゾロ目の製品を投入。Elugaは「Eluga Turbo」「Eluga Tapp」などこの年も新しいモデル名を出していきます。カメラはメインが1300万画素、フロントは800万画素が最高画質。チップセットもメディアテック製でとにかくコストを抑えつつ様々なバリエーションを展開しました。インドの家電量販店に行くとパナソニックのスマートフォンだらけという状況になり、シェアは数%ながらも確実に存在感を高めていきました。

 2017年にはいるとついに市場の流行を取り入れたモデルを投入します。「Eluga Ray 700」はメインカメラ1300万画素に加え、フロントカメラも1300万画素と高画質化したセルフィーに強い製品。インドは男性もセルフィーするほどフロントカメラにこだわるユーザー数が多く、パナソニックもその市場に攻め入りました。

インドを攻めるセルフィースマホのEluga Ray 700

 また「Eluga Ray 400」は背面がデュアルカメラ。ODM供給メーカーもこの年くらいからはデュアルカメラが当たり前のものになっており、ミッドレンジモデルへの2カメラ搭載も当たり前にできるようになったのです。そして「Eluga C」は左右と上部がベゼルレス設計。デザインもかなりあか抜けた製品となりました。

 パナソニックの今のスマートフォンは「コストパフォーマンス」を第一に設計されています。18:9、19:9のディスプレーもそろそろ採用されることでしょう。決して派手さはないのですが、だれもが手軽に買うことのできるスマートフォンを出し続けるパナソニック。実は今、最も元気のある日本メーカーと言えるかもしれません。

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