スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

サムスンは一度iPhoneにすべてを奪われた そして導き出した答えが「Galaxy」だった

文●山根康宏

2018年04月01日 12時00分

 D710はノキアよりも先にメガピクセルカメラを搭載して先進性をアピールしました。なによりもスライドを閉じればコンパクトサイズはノキアの製品にないものでした。高性能カメラにスタイリッシュなボディーの組み合わせは、アジアメーカーだからこそ作り上げることができたのです。

 2005年にはスタイリッシュな後継機「D720」が投入されました。このころはまだ「D」モデルはスマートフォンの意味ではなく、デザイン特化製品を表していました。つまり当時はスマートフォンか、非スマートフォンかという製品区分ではなく、本体のデザインや形状で製品が区分されていたのでした。

薄型スライドでスタイリッシュなD720

 ではSymbian S60 OSの採用はサムスンにどのような結果をもたらしたのでしょうか?翌2006年を見ると、S60採用端末の販売数はゼロ。すなわち同社のS60モデルはこれまでほとんど売れなかったのでしょう。サムスンの製品はスタイリッシュなものが多く、同社のスマートフォンには目もむけなかったのでしょう。一方スマートフォンを欲しがるユーザーは ノキアの製品を買っていたのだと思われます。サムスンのS60端末は、Symbian OS搭載モデルの中でもマイナーの域を脱出することはできなかったのです。

 その2006年の年末に登場した新製品はようやくヒット作となりました。「BlackJack(ブラックジャック)」と呼ばれる「i600」です。Windows Mobile OSを採用し、縦型QWERTYキーボードスタイル。ブラックベリーに名前もデザインも似た製品でした。メッセンジャーに特化していたブラックベリーに対し、ブラックジャックはOSの利点を生かしWEBブラウザやオフィス文書の利用など、ビジネスシーンでも使える高性能端末だったのです。翌2007年には後継機の「i617 BlackJack II」も登場しました。

ブラックジャックはサムスンのスマートフォンで初のヒットモデルに

 このブラックジャックでビジネス市場への足掛かりをつかんだサムスンは、再びSymbian S60端末を投入します。スマートフォンは製品名の頭に「i」の文字を付与。「i400」「i450」「i520」「i550」「i560」と一気に5モデルをこの年発売しました。このうちi450は音楽プレーヤースタイルの製品で、円周状のリング部分を指先でタッチすることで曲再生のコントロールが可能でした。またi520はトラックボールを採用し画面内のポインタの操作を容易にしたビジネス向けモデル。ブラックジャックと合わせ、多数のスマートフォンで端末の高性能化を一気に進めていきました。

フルタッチディスプレーとカメラではiPhoneに勝てず

 2007年はモバイル業界が大きく変わった年でした。アップルの「iPhone」が発売されたのです。それまでサムスンの端末は小型や薄型でコンパクト・スリムなデザインを売りにしていました。しかしiPhoneの登場で携帯電話は情報端末となり、大きい画面サイズが求められるようになっていったのです。

 サムスンは対抗として、Windows Mobile OSのフルタッチモデル「Omnia i900」を2008年にリリースしました。OmniaをiPhoneに対抗するスマートフォンブランドとして立ち上げたのです。またSymbian S60 OSスマートフォンは当時高画質だった800万画素カメラを搭載した「i8510 INNOV8」を発売。背面はデジカメライクなデザインとし、カメラフォンとして売り出しました。iPhoneにはない機能を持ったこの2機種で、まずはiPhoneショックを乗り切ろうと考えたのでしょう。

iPhoneの対抗を目指したOmnia

 しかしiPhoneが優れていたのは単体のハードウェア機能ではなく、指先タッチでスムースに動くユーザーインターフェースや、アプリが追加できる拡張性でした。S60はアプリの数が少なく、Windows Mobileはタッチパネルの操作性に難点があり、サムスンのiPhone対抗2モデルは成功を収めることはできなかったのです。

 2009年には「Omnia II i8000」と、QWERTYキーボード搭載の「OmniaPRO B7320」を投入。S60は切り捨て、Windows Mobileに活路を求めることにしたのです。「Jack i637」というブラックジャックを思い出させるQWERTYキーボード端末や、ファッションブランドとコラボした「B7620 Giorgio Armani」など、Windows Mobile機をこの年次々に発売していきます。

 しかし2009年は同時にAndroid OS搭載スマートフォンの投入も開始した年でした。そして翌2010年発売のGalaxy Sが大ヒットとなったことで、スマートフォンOSのAndroidシフトが一気に進められたのです。とはいえ当時はまだAndroid OSがシェアを強めるとは考えられず、Windows Phone 7搭載の「Omnia 7 i8007」「Focus」も投入されました。しかし翌年にはもはやAndroid OSしかiPhoneに対抗できないことを、サムスンは自ら知ることになります。

Windows Phoneに保険をかけたが、主力製品にはならなかった

 Symbianでは花が咲かず、ブラックジャックで成功を収めたもののiPhoneにすべてを奪われてしまったサムスン。Galaxyシリーズに注力した結果、世界シェア1位のスマートフォンメーカーの位置にたどり着くことができたのです。サムスンのスマートフォンの歴史は、まさに栄枯盛衰そのものと言えるものなのです。

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