スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

「ソニー・エリクソン」を目指したシーメンス ドイツの電機メーカーはなぜ台湾企業にスマホ事業を売却したのか

文●山根康宏

2018年04月15日 12時00分

 一方、自社開発のスマートフォンとして2003年に投入された「SX1」はSymbian OSを採用しました。マイクロソフトのOSはPCとの親和性が高い反面、マシンスペックがOSの要求に対して低いことやアプリケーション環境が整っておらず、コンシューマー向けスマートフォンとしてはSymbian OSのほうが使いやすいものでした。SX1はディスプレーの左右に数字キーを並べるという大胆なデザインを採用。電話をかけるときにやや使いにくい反面、ディスプレーの下部には大型の発着信キーやメニューキーを備え、アプリを使いやすくするという、スマートフォンとしてのユーザー体験を高めた製品でした。

 このSX1には限定バージョンも数多く登場しています。カーボンブラックバージョンやメルセデス・マクラーレンバージョンなども存在しました。Symbianスマートフォンはノキアが次々と新製品を投入していましたが、シーメンスは1モデルのバリエーション展開で対抗していたのです。

数字キーの配置が大胆なSX1

 シーメンスはマイクロソフトとSymbian、2系統のスマートフォンOSを持つことでビジネスユーザーと一般コンシューマー層をカバーする端末を展開し、スマートフォンシフトを進める他社へ追従できるはずでした。しかしまだまだフィーチャーフォンにも未来を感じていたのでしょう。2003年にファッション携帯電話の「XELIBRI」シリーズを8機種投入します。しかしこれが見事に失敗。シーメンスのイメージチェンジも図ったXELIBRIですが、その後の同社の携帯電話事業の足を大きく引っ張ることになってしまいました。

意欲的な十字架型の変態端末は過去のものに

 2004年には前述したSX66をリリースします。OSはWindows Mobile 2003 SEとバージョンが上がり、スライド式のQWERTYキーボードを備えるなどようやく実用性の備わったスマートフォンとなりました。しかしSymbian OSスマートフォンの後継モデルは登場せず、このSX66が実質的にシーメンス最後のスマートフォンとなってしまいます。

シーメンス最後のスマホとなったSX66。見た目からわかるようにHTC製だ

 この年には世界でも例を見ない、変態度の高い端末も登場しました。スマートフォンではないものの、ブラックベリーのBIS/BPSに対応した「SK65」です。しかし最大の特徴はそのブラックベリーへの対応ではなく、本体のデザイン。後ろ半分を90度ひねるとまるで十字架のような形になり、本体の左右にQWERTYキーボードが現れるのです。

 メールを読み書きしたいとき、ポケットからスリムなSK65を取り出し、片手でリボルバーのように本体をひねってキーボードを出す。これはかなりクールな姿だったに違いありません。スマートフォンとフィーチャーフォンの中間に位置する製品ですが、BIS/BESに対応することから簡易的なスマートフォンと呼べる製品でしょう。

 さてスマートフォンのヒット製品を出せなかったシーメンスの端末販売シェアはグローバルでどれくらいだったのでしょうか? シーメンスがスマートフォンを初めて投入した2002年の携帯端末全体の販売シェアは、ガートナーの調査によるとノキア:35.1%、モトローラ:16.9%、サムスン:9.7%そしてシーメンスは4位の8%でした。2003年のシーメンスは8.4%となり、順位は同じながらもシェアを高めます。

 ところが2004年は通年で7.4%までダウン。特に1年で最も端末が売れる10月から12月の第4四半期は6.4%で、これは6.8%だったLGに抜かれ5位に後退しています。前年の第4四半期は9.5%と通年を上回る好成績だったことを考えると、2004年のホリデーシーズンの落ち込みは深刻でした。

十字型になるブラックベリー対応のSK65でもシェア回復はならなかった

 結局2005年にシーメンスは携帯電話事業を台湾のベンキュー(BenQ)に売却することになりました。このころはヨーロッパの老舗メーカーに勢いがなくなり、アジアメーカーが存在感を高めていった時期です。2001年にソニーとエリクソンが合併。2004年にはTCLとアルカテルが同じ道を歩みます。シーメンスが台湾のベンキューを選んだのは、PCモニターなどで長年グローバル展開している実績、そして小型端末やSymbian OSスマートフォンをリリースした技術力などを評価したからでしょう。

 なお2006年に富士通ーシーメンス(Fujitsu-Siemens)ブランドでWindows Mobileスマートフォンが登場しましたが、これはシーメンスと富士通の合弁によるヨーロッパでのPC事業部から出てきたもの。シーメンスの携帯部門とは全く別から生まれた製品です。

 新会社はベンキュー・シーメンス。ヨーロッパとアジアに強いメーカーとしてノキアやサムスンを追いかける好敵手になるはずでした。しかも合併企業の成功のお手本として、ソニー・エリクソンがすでに事業を展開しています。ベンキュー・シーメンスは「第2のソニエリ」を目指し、初年度から大量の新モデルを投入。しかし事はそう甘くはありませんでした。

 シーメンスとベンキューの関係とその後の動きは、次回で振り返ることにしましょう。

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