スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

世界展開せず身の丈に合った事業で復活 ベンキュー格安スマホ路線へ

文●山根康宏

2018年04月29日 12時00分

 またSymbian OSスマートフォンも投入します。「P30」はSymbian UIQを搭載。ノキア採用のSymbian S60とは異なり、ソニー・エリクソンが主に採用していたOS/UIで、スタイラスペンを使った手書き入力を可能としていました。このP30をアンテナレスにし、カメラを1300万画素にした「P31」も登場したようですが、実際に販売された国はわずかだったようです。

 なお当時のベンキューのODM品として有名なスマートフォンは、ノキアの「6708」です。OSはP30と同じSymbian UIQで、スタイラスペンを内蔵していました。「8」の末版は中国語圏エリア向けで、当時急増していた中国語手書き対応フィーチャーフォンへ対抗する意味合いも持った製品だったようです。ノキアは自社ではS60を開発し、UIQは他社品から調達したわけです。

ベンキュー製のノキア6708

 バッテリーにベンキューのロゴがあり、外部コネクタもノキアの充電端子のほかにミニUSBを搭載するなど、明らかにノキア製造ではない仕上がりでした。6708は2005年頭に発売されましたが、以降、後継機は発売されませんでした。2種類のOS/UIを扱うことはマイナスと考えたのかもしれません。

グローバル展開は失敗、身の丈のビジネスで再生を誓う

 OEM/ODMで勢いづくベンキューは、2005年秋にシーメンスの携帯電話部門を買収し、ベンキューモバイルを立ち上げました。グローバル展開を図り「ベンキュー・シーメンス」ブランドで製品を出すものの2年でビジネスは終了。その動きは以前の連載をお読みください。結果としてベンキューモバイルは失敗に終わります。

 そして2007年後半には再びベンキューブランドの携帯電話を投入。スマートフォンとしてWindows Mobile Standard Editionの「E72」を販売します。タッチパネルディスプレーではなく携帯電話スタイルの端末とすることで、コストを下げつつビジネス市場も狙った製品です。

 この端末もひっそりと京セラの「Solo E4000」として登場するなど、ODM品として拡販を目指した製品でした。しかし市場ではiPhone登場やサムスンの成長、そしてODMは中国メーカーが躍進するなど、ベンキューが復活しても入り込む余地はありませんでした。ベンキューブランドの携帯電話は2008年には消滅してしまいます。

復活を目指すもののスマートフォンはE72の1機種で終わった

 その後のベンキューはPC関連メーカーとして本業に復帰していました。しかしスマートフォンがいつの間にかAndroidの天下となり、複数のチップセットメーカーがSoCを開発することで製造のハードルが大幅に引き下がります。カスタムROMを手掛けていたソフトウェア企業のシャオミが2011年に自社ブランドのスマートフォンを発売。資金さえあればメーカーの参入も容易な時代を迎えたのです。

 ベンキューも2013年にAndroid OS搭載の「A3」「F3」という2つのモデルを台湾に投入。ベンキューの名前はPC関連製品で世界で知られていたものの、スマートフォン・携帯電話のブランドとしてはグローバル市場では忘れ去られていました。しかし地元台湾ではブランド力は強く、手軽に買えるミッドレンジ機としてひっそりと再々復活を遂げたのでした。

 翌2014年にはASUSがZenFoneを発売。ミッドレンジながら必要最小限の機能を搭載したコストパフォーマンスに優れたモデルが大ヒットします。BenQもそれに乗じてミッドレンジ機を次々と投入。この年は台湾で4Gサービスがようやく開始。各キャリアは低価格なLTEスマートフォンとして、ベンキューの製品を取り扱いました。その中でも「T3」は対応モデルが少ない、台湾のLTE/CDMAキャリアのAPBW(亜太電信)向けに専用機も投入。台湾キャリアのニーズに応えた低価格機を増やしていきます。

 2015年にはフロントカメラを800万画素にした「F52」を発売。ボディーカラーはピンクで、フロントカメラには美顔エフェクトを搭載。女性向けのセルフィースマートフォンとして時代の流行へもいち早く飛び乗ります。またあえて3Gのみ対応で低価格な「B502」も発売。フィーチャーフォンからの乗り換えユーザーの受け入れ用としてこちらもキャリアに重宝されます。

セルフィー強化で女性向けを狙ったF52

 2016年には「T55」、2017年には「F55」と新製品の投入ペースはやや鈍っています。とはいえT55はチップセットこそMT6750Tですがメイン1600万画素、フロント1300万画素カメラを搭載し、9990台湾ドル(約3万7000円)とコスパに優れています。誰にでも手の届く国民機、ベンキューが目指しているのはそのポジションなのでしょう。いつの日か、再びグローバル市場でベンキューの名前が見られる日が来ることを楽しみにしたいものです。

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