スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

いち早くスマホをコスパで勝負したスペイン・BQの正しいビジネス展開

文●山根康宏

2018年05月06日 12時00分

 2013年の販売台数は150万台で、スペインのSIMフリー市場でいきなりシェア2位のメーカーとなりました。スペインはまだまだキャリアによるSIMロック販売が主流だったものの、プリペイドユーザーを中心にキャリアに縛られたくない端末を購入したい層が数多く存在していたのです。

 2014年にはいると新たにEシリーズを投入します。初年度のスマートフォンは中国のODMメーカーによる製品を自社ブランドで販売したものでした。しかしAquaris Eシリーズはスペインで本体をデザインし、製造だけを中国のOEMメーカーに依頼したもの。特徴にやや欠けた最初のモデルに対し、Eシリーズはカメラ周りの形状などにオリジナリティーを加えています。また中核となる「Aquaris E5 HD 4G」はチップセットに初めてクアルコムのものを採用、Snapdragon 410を搭載しました。

Snapdragon 410を採用したAquaris E5 HD 4G

 100ユーロから200ユーロ台で買えるSIMフリー機の数を増やしていくことで、スペインでは家電量販店でも売りやすい製品となり、消費者の目に最も止まるブランドになっていきます。2015年はMシリーズも投入され、Snapdragon 615搭載の「Aquaris M5」が登場するなどスペックレンジも少しずつ広げていきました。

Ubuntu OSも採用する柔軟性、コスパ路線は継続

 2015年はほかにも大きなトピックがありました。世界初のUbuntu OS搭載スマートフォンの登場です。すでにAndroid OSとして販売していたモデルのOSを変更した製品で「Aquaris E4.5 Ubuntu Edition」と「Aquaris E5 HD Ubuntu Edition」の2機種が販売されました。同OSを搭載するスマートフォンは中国のメイズ(Meizu)からもアナウンスされましたが、ヨーロッパの新興メーカーの採用は予想外でした。

Ubuntu OS搭載スマートフォンの投入は意外にもBQが世界初となった

 またAndroid One端末の「BQ Aquaris A4.5」が登場。Android Oneはグーグルが新興市場をターゲットにした開発プログラムで、最近ではシャープやノキア(HMDグローバル)など先進国市場もターゲットにしたメーカーの採用も増えているものの、ヨーロッパのBQが採用する例は当時としては珍しいものでした。

 2015年にはカメラ強化のXシリーズも登場しますが、「Aquaris X5」はAndroid OS以外にCyanogen OS版も登場しています。そもそもBQのスマートフォンは初期状態からブートローダーがアンロックされており、当時はroot化しても端末の保証が切れないとのこと。自在にカスタマイズできることを当初から考えられて製品が設計されていたというわけです。

 ちなみにこの自由度からAquaris X5はWindows 10 Mobileバージョンも出るのでは?という噂話も出てきたとか。当時の状況からするといわゆる「第3のOS」陣営のFirefox、Ubuntu、Tizenよりも、前年にノキアを買収したマイクロソフトに大きな期待がかかっていました。しかしその後の状況を見ると、同OSの見送りは正解だったと思えます。

 2016年にはシリーズ名+数字の型番を廃止。これは製品のサイズが2-3種類に絞られたからで、ディスプレーサイズで製品名を分ける必要がなくなったからでしょう。新たにSnapdragon 425/430搭載で5型1280x720ドットディスプレー搭載のUシリーズが投入されます。このモデルは他社がディスプレーサイズで製品を分けているのに対し、カメラスペックで3製品を作り分けています。「Aquaris U lite」は800万画素、「Aquaris U」は1300万画素、「Aquaris U Plus」は1600万画素カメラを搭載。さらにはメモリ容量も変えることで価格に差をつけています。

 2018年のBQは「Aquaris V/VS」「Aquaris U」「Aquaris X」の3つのラインを柱として製品を展開しています。最上位モデルの「Aquaris X Pro」はSnapdragon 625、5.2型フルHDディスプレー、F1.8、1.4μmピッチセンサーの1200万画素カメラ、背面は3Dクリスタルガラス仕上げで339.9ユーロ。ディスプレーサイズをあえて抑えて価格も300ユーロ前半を実現しています。

スペックレンジも広め、堅実な展開をしている

 BQはスペイン、ポルトガル、ドイツ、イタリア、ロシアなどで製品を展開しています。1年間に4~5機種の製品展開とミッドレンジを中心としたラインナップを考えると、無理に市場を広げず堅実なビジネス展開だと言えます。ヨーロッパにも中国の低価格モデルの参入が始まっていますが、地元重視でユーザーニーズにこたえる製品を開発していけば、これからも消費者からの熱い支持を受け続けていくでしょう。

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