スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

約7500円の格安スマホで逆転を狙う台湾メーカー「Inhon」

文●山根康宏

2018年05月27日 17時00分

 それは中国のシャオミの低価格モデル、「RedMi」(紅米)の台湾上陸です。「中国大陸製だから」と当初はシャオミの製品を敬遠していた台湾の消費者も、実際に手にしてみるとそのコストパフォーマンスの高さに納得。通信キャリアでも販売され、瞬く間に台湾でブームとなります。Papilio G3の価格はRedMiとほぼ同じでした。

 また1月にはASUSがZenFone 5(初代)を発表しており、2014年の台湾市場は低価格・十分な性能を持つコスパモデルブームが到来します。ASUSはZenFone 5の下に4型ディスプレーでスペックも抑えたZenFone 4も投入。Inhonとしては価格を引き下げなければこれら大手メーカーに対抗できなかったのです。

Papilio G3はシャオミ対抗として登場した

 Papilio G3は引き続き99枚の連写機能を備えたカメラを搭載しました。しかし当時の800万画素カメラでの画質はあまり期待できるものではなく、また本体ストレージ容量が少ないことを考えると、残念ながらあまり使われる機能ではなかったでしょう。一方本体の背面仕上げは、樹脂素材ながら金属の質感を思わせる表面処理としました。このあたりは長年ODM事業を展開し、材料開発も進めてきた同社だからこそできる技だったと言えます。

 とはいえ製品ブランド名の「Papilio」は浸透せず、台湾のメディアや販売店店頭では「Inhon G3」のように、モデル名だけが表示されていたようです。台湾発の新勢力としてPapilioブランドでのアピールを図ったInhonですが、出だしから苦しいスタートになってしまったのです。

大画面モデルに転換するも、ライバルの壁は厚かった

 2015年には5.5型1280x702ドットディスプレー搭載の「L55」を投入します。同社製品として初のLTEに対応。Papilioブランドは廃止され、シンプルなモデル名のみとなりました。ライバルはシャオミの「RedMi Note」で、独自の低価格機を開発しながらもInhonの製品の方向性はシャオミに左右されることになります。Snapdragon 400クアッドコア1.2GHz、メモリ1GB、ストレージ8GB、800万画素カメラで価格は5990台湾ドル(約2万円)でした。

 前年までの小型モデルに対し、大型ディスプレーを搭載したL55は販売店店頭でも目立つ存在でしたが、売れ行きは思わしくないなかったようです。やはりブランド力に欠けていたことと、ASUS、シャオミとのコスパ競争に打ち勝つには大々的なプロモーションも必要だったはずです。Inhonの製品は量販店などでも販売されたものの、扱いは小さいものでした。

ブランド名廃止と大画面化で拡販を図ったL55

 その結果割引販売も広がり、大型画面で割安であることからその後一定の販売数は確保できたようです。2016年は在庫処分とばかりにスマートフォンの新製品は投入されず、L55が細々と販売されるにとどまりました。一方では翌年に控えた2G停波に備え、3Gのフィーチャーフォンを数機種投入しています。

 2017年にはLシリーズを拡充。5.5型ディスプレーの「L50」「L63」を投入。L50はメモリ1GB、ストレージ8GB、500万画素カメラのエントリー機。L63はメモリ3GB、ストレージ16GB、800万画素カメラのミッドレンジモデル。Inhon=大画面でアピールを図ることで市場での生き残りを模索したのです。しかし販売はオンラインのEコマース経由が主で、キャリアで大々的に販売されることはありませんでした。

 台湾ではなかなか脚光を浴びることのなかったInhonですが、この年は国際展開に成功しています。タイのキャリアのAISから「V6」が発売となりました。MT6737クアッドコア1.3GHz、メモリ1GB、ストレージ8GB、5型1280x720ドットディスプレー、500万画素カメラ。VoLTE対応。4G/VoLTEユーザーを増やしたいAISは、低価格モデルがとにかく必要だったのでしょう。

タイで発売になったV6。しかし国際展開はこの1機種に留まる

 Inhonとしてはこれをあしがかりに海外キャリアへの拡販も目指したいところでした。しかしAIS以外での採用は無く、台湾でもこのV6の発売はありませんでした。他社を見ると低価格機でも画面サイズが大きいモデルも多く、Inhonも注力すべきは5.5型のLシリーズの拡充だったかもしれません。

 2018年には1990台湾ドル(約7500円)という超入門モデル「E30」を新たに販売開始。MT6737クアッドコア、5型854x480ドットディスプレー、500万画素カメラというスペックは、スマートフォンというよりも現在3Gのフィーチャーフォンを使っているライトユースユーザー向けの製品でしょう。台湾では今度は2018年末に3Gが停波するため、4Gの低価格モデルが求められているのです。

 「台湾発の国民機」を目指したInhonですが、スマートフォン市場の動きの早さの中で、その特徴を出せぬまま現在に至っています。初期モデルの「99枚連写」のような、Inhonならではの機能を搭載した製品を開発し、台湾の星として光り輝く日がくることを願いたいものです。

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