スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

出せば確実に売れるスマホを作るチャイナモバイル 世界最大の携帯電話事業者たる所以

文●山根康宏

2018年07月01日 12時00分

 それから4年後の2013年12月には、早くも4Gのサービスが開始されました。4Gでは3キャリアともにTD-LTE方式を採用し、日本やアメリカ、韓国など世界で普及しているFDD-LTE方式とは異なる方式となりました。しかし3キャリアすべてに同じ方式を採用させ、サービス開始前にカバレッジも十分にし、さらにはサムスンやアップルなど大手メーカーもTD-LTE対応端末を当初から用意してくれたことなどから、4Gの開始は準備万端という状況でした。

 チャイナモバイルとしては2Gや3Gユーザーの4Gへの移行を早急に促したいものの、4Gの端末価格は割高です。そこでスマートフォンメーカーに頼らず、自ら4Gの低価格モデルを投入することで加入者数増加を狙いました。おりしも中国では2011年にシャオミが低価格・ハイスペックな「Mi 1」を投入し、スマートフォン価格の下落もはじまっていました。シャオミの登場はスマートフォン製造への参入が低コストで可能だったことを証明したのです。

チャイナモバイルブランド初のスマートフォン、M601

 そこで2013年8月、まずはチャイナモバイルブランドのスマートフォンの認知も兼ねた3G対応の低価格モデル2種類「M601」「M701」を投入しました。M601はCPUがマーベルのPXA988デュアルコア、メモリ512MB、ストレージ1GB、4型800x480ドットディスプレー、300万画素カメラというエントリーモデル。ハイセンスが製造しました。価格はわずかに499元と、当時はまだ1000元を切るスマートフォンが少ない中で思い切った格安機として登場したのです。

 M701はメディアテックM56589クアッドコア、メモリ1GB、ストレージ4GB、5型1280x720ドットディスプレー、800万画素カメラ(フロント120万画素)という構成で1299元。こちらの製造は電池メーカーでもあるBYDでした。この2つのモデルはチャイナモバイルの営業所で2G客の3Gへの移行を確実に促すことに成功しました。

 なお2013年7月31日にシャオミが1000元を切る低価格モデル・ブランドの「RedMi」を発表し、中国でスマートフォンの価格破壊が本格的に始まります。RedMiは中国全土で熱狂的な支持を受けたため、ほぼ同時期に出てきたチャイナモバイルのこの2つのモデルはあまり大きな話題になることはありませんでした。このRedMiに対してファーウェイがすぐさま「honor」ブランドのスマートフォンで対抗し、1000元を切る格安スマホが中国で大ブレイクを始めます。

4Gに対応した自社ブランド端末、M811

 チャイナモバイルも大手メーカーの動きを黙ってみているわけではなく、2014年5月にTD-LTEに対応した待望の自社ブランド4Gモデル「M811」を投入します。チップセットはSnapdragon 400。カーブを描いた端末デザインは上品さも感じられます。価格は1000元を切る999元となり、RedMi、honorへ対抗できる製品となりました。当然のことながらこのM811は4G入門機として売れまくります。3G開始時は全くユーザーに見向きもされなかったチャイナモバイルが、4G開始時は低価格かつ十分実用的な製品を自ら投入することで多くの加入者を獲得することに成功しました。

フランスへも進出、ボリュームゾーンを狙う2つのモデル展開に

 2014年9月にはディスプレーサイズを5.5型と大型化した「M812」が発売されました。このころはシャオミのRedMi、ファーウェイのhonorにも4Gモデルが登場し、TD-LTE対応スマートフォンの低価格機は種類がどんどん増えていました。サービス開始当初はFDD-LTEに対しTD-LTE対応端末は数が少なくなることが危惧されましたが、大手メーカーはFDD/TD両対応品を投入していきます。チャイナモバイルのTD-LTEはTD-SCDMAの時のようなマイナー規格になることはなかったのです。

 このM812はフランスの大手キャリア、Orangeとの共同開発品でもありました。Orangeも4G利用者を増やすために低価格なスマートフォンの展開強化を必要としていました。チャイナモバイルとはNFCの国際展開などですでに協業していたことから、中国向けのエントリーモデルをフランスにも投入することになったわけです。チャイナモバイルとしても端末のグローバル展開は販売数の増加が見込めるため、M812の開発は両者にメリットのある協業でした。

フランスのOrangeからも発売されたM812

 2015年にはいると端末型番を一新し、あらたに2つのライン「Aシリーズ」「Nシリーズ」を投入します。Aシリーズは従来通りの低価格モデル、Nシリーズはカメラ機能を強化したモデルとなり、より高性能な端末を求めるユーザーニーズにも応えることとなりました。RedMiなど端末メーカーのスマートフォンも、価格の低さはそのままに次々と機能を高めており、チャイナモバイルとしてもそれらの製品と比べて遜色のないスペックのモデルを投入する必要があったのでしょう。

 2015年には5型1280x720ドットディスプレー、Snapdragon410は共通スペックで800万画素カメラの「A1」、1300万画素カメラの「N1」が投入されました。追って5.5型1920x1080ドットディスプレー、Snapdragon 615採用の大画面・上位モデル「N1 max」も発表。カメラは1300万画素F2.0と明るくなり、VoLTEにも対応するミッド・ハイレンジモデルです。価格は1499元とコスパにも優れています。N1 maxはM812に続きOrangeに投入されました。

スペックを高めたN1 max

 2016年には「A1s」「A2」「N2」、2017年に「A3」「A3s」「A4」と、チャイナモバイルは毎年ほぼ3機種ペースで新製品を発売していきます。わずか数年でチャイナモバイルブランドの端末は中国の消費者にしっかりと認知され、出せば確実に一定数が売れるブランドに育っていったのです。また2016年にはマレーシアのキャリアYTLにも端末を投入。着々と海外展開も広げていきました。

 2018年の最新モデルは「A4s」「A5」「N3」は18:9のアスペクト比のディスプレーを採用し、最新のトレンドも取り入れています。チャイナモバイルのスマートフォン展開は派手ではありませんが、ミッドレンジ以下のモデル展開を一貫して変えておらず、一度同社の端末を買ったユーザーは安心して次の機種もチャイナモバイル品を選ぶことができるわけです。今後はアフリカなどの新興国のみならず、日本を含む先進国へも積極的な製品展開を願いたいものです。

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