スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

日本初の携帯電話を作ったNECがスマートフォン開発に乗り出すまで

文●山根康宏

2018年07月08日 17時00分

 1997年にはOSがWindows CEとなり、PHSカードを差し込んでどこでも通信できるようになった「MC-CS11」「MC-CS12」「MC-MK22」シリーズを投入します。またドコモからも同年に「MobileGear for DoCoMo」が登場。ドコモの携帯電話を接続できるコネクタが搭載されました。

 このドコモ向けモバイルギアの進化系として大ヒットしたのが2000年発売の「sigmarion(シグマリオン)」です。ゼロハリバートンデザインのボディーはPDAとは思えぬスタイリッシュな出来栄えで、世界中で販売されているPDAの中でもその外観は最上級のものだったと言われています。2001年には「sigmarion II」、2003年には「sigmarion III」とシリーズ展開されますが、データ通信モデムが内蔵されることはなく、常にドコモの携帯電話かデータ通信カードを使う前提の製品でした。

 モバイルギアが2000年の「MC-R450」「MC-R550」で終了したことから、それ以降のQWERTYキーボード搭載PDAはsigmarionシリーズが唯一の製品となりました。また2002年にはタッチパネル型PDAのポケットギアが登場しましたが、2製品で終わっています。

3世代目まで発売されたsigmarion

 スマートフォンとは呼べませんが、データ通信モデムを内蔵した製品がドコモ向けに投入されたことがあります。1999年投入の「メッセージウェア エクシーレ」は開くとQWERTYキーボードが現れるメール端末。2Gながらもパケット通信対応で安価にメールを送受信できました。iモード登場以前、携帯端末で手軽にメールをやり取りできる製品として人気となり、2001年には後継機も登場しています。sigmarionが登場したとき、エクシーレのようにデータ通信モデム内蔵製品を出してほしかったと思ったモバイラーは多かったことでしょう。

iモードからiPhone時代へ、Androidスマートフォンを投入

 日本のiモードは世界中で最も優れたエコシステムを持ったモバイルインターネット環境でした。iモードがあればできないことはない、と言われていたほどです。しかし時代は流れ、2007年にiPhoneが登場すると、インターネットの環境を手のひらの上の小型端末で自由に扱えるようになります。そのiPhoneに対抗してグーグルがAndroidを開発すると、もはや閉じた世界のiモードは太刀打ちできなくなっていきます。

 2008年7月にソフトバンクが「iPhone 3G」を発売すると、日本のモバイル業界の話題はiPhone一色に染まっていきます。ドコモも同年秋から「docomo PRO series」として対抗製品を出しますが、スマートフォンはHTC、ブラックベリー(当時はRIM)、追って東芝とサムスン。PRO seriesのNECの製品は2010年に登場したQWERTYキーボード搭載のフィーチャーフォン「N-08B」が最初で、スマートフォンの開発は他社に対して大きく遅れていました。

 N-08BはNECカシオ モバイルコミュニケーションズの製品。NECの携帯電話事業部とカシオ日立モバイルコミュニケーションズが2010年6月に発足した直後に発売となりましたが、各社が事業を合併したということは、携帯電話の事業不振が大きな背景にあったわけです。スマートフォンの開発とiモードからの脱却は一刻の余地も許されない状況にあったのです。

 2011年3月にようやく登場したスマートフォンは新たに「MEDIAS」のブランド名を冠した「N-04C」でした。当時世界最薄の厚さ7.7ミリ、そして4型の大型ディスプレーを搭載しながらも105グラムという軽量化を果たしています。しかもこのサイズでおサイフケータイ、ワンセグ、赤外線という「全部入り」端末だったのです。N-04Cはスマートフォンでの出遅れを十分取り戻せるだけの製品で、他社のスマートフォンと十分対抗できるものでした。

NEC(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ)初のスマートフォン「N-04C」

 6月にはN-04Cを防水対応したMEDIAS「WP N-06C」も登場。amadanaとコラボレーションしたモデルは独自カラー「amadana Brown」に専用ケースが付属します。amadanaは過去にもNECの携帯電話とのコラボモデルを出しており、N-04Cでのコラボはスマートフォンでの出遅れ挽回を目指したNECの戦略でもあったのです。

 11月にはMEDIAS BR「IS11N」がKDDIから登場。NECブランドのKDDI向け端末は実に1998年以来とのこと。さらに12月にはMEDIAS PP「N-01D」が発売、こちらはQi方式に対応したワイヤレス充電に対応させます。スマートフォン参入となったこの年は一気に4機種も投入しています。

機能を次々と充実、N-01Dはワイヤレス充電もサポート

 なおN-04Cはタイ市場向けにMEDIAS「101S」、メキシコ向けにMEDIAS「101T」としても販売されました。おサイフなど日本向けの機能を外した海外向けモデルとなります。このようにスマートフォン市場へ参入するや、すぐさまドコモへの完全依存を脱却し、日本の他キャリアや海外展開を積極的に図ったのです。

「NEC」後編は来週7月15日(日)に公開予定です

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