スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

5G通信開始で何が変わる? 直近2年で起きたスマホ業界の大きな変革

文●山根康宏

2018年07月23日 17時00分

 アルカテルの親会社、TCLの2017年のスマートフォン販売台数は2016年に対して約半減しており、そのテコ入れを早急に図る必要があります。ブラックベリーブランドを入手し「KEYone」をリリースしたり、今年にはPamブランドのスマートフォンを出したりするといううわさもあります。しかしアルカテルブランドとの相乗効果がどこまで図ることができるかは未知数です。

 一方、着々と販売数を伸ばし存在感を高めつつあるのがノキアブランドの端末を展開するHMD Globalです。元ノキア関係者が設立した同社はノキアのスマートフォンを積極的に展開。「Nokia 1」から「Nokia 8」まで、機能別に数字を分けた製品展開は旧来のノキア端末と同じで、アルカテルの場合とはむしろ逆に消費者にわかりやすいラインナップになっています。

 HMD Globalは鴻海と共同でマイクロソフトからフィーチャーフォン事業も買収しており、ノキアの携帯電話も展開。2018年2月にはKaiOSを搭載したリバイバル端末「Nokia 8110 4G」を発表。グーグルサービスも使えるこの端末はスーパーフィーチャーフォンと呼ばれ、スマートフォンサービスを使えるフィーチャーフォンとして実用性も兼ねそろえています。

この2年間でノキアの存在感はかなり高まっている

 鴻海はノキアブランドの全端末を製造する、ノキア復活の立役者にもなっています。しかも2016年にはシャープも買収しており、シャープブランドのスマートフォンも手掛けています。以前のシャープのスマートフォンの海外展開は日本向けモデルの仕様変更品やOEM品程度でしたが、鴻海傘下になったことで独自モデルの開発を強化しました。海外向け専用モデルを増やし、2018年夏にはヨーロッパ向けに「B10」「C10」という全く新しいラインナップも投入しています。日本でも販売台数を伸ばしており、今後シャープが海外市場で躍進する可能性は十分にあるでしょう。

 そして活発な動きを見せているのが新興勢力です。OPPOとVivoはセルフィー需要を取り入れミッド・ハイレンジ端末であっという間に新興国で高い地位を確立しています。この2社を追いかけるようにセルフィー路線をとったジオニー(Gionee)は息切れ気味で、むしろシャオミがハイエンドと格安機にセルフィー機能をうまく取り入れて販売数を伸ばしています。

 このようにこの2年間を見ても。過去の勢いをそのまま継続することは難しく、一寸先は全く見えないのがスマートフォン市場の面白さでもあり醍醐味でもあるといえるでしょう。2画面スマートフォン「AXON M」で市場を驚かせたZTEが、アメリカ商務省の制裁で端末製造に大きな影響を受けるとはだれも予想できなかったことです。

ディスプレーはまだまだ大きくなる?5G開始でトレンドも変わる

 この2年間で大きく変わったのがスマートフォンのデザインです。16:9のアスペクト比から18:9、さらに19:9へとワイド化が進んでいます。2018年5月発表のLG「G7 ThinQ」はさらに19.5:9まで伸びました。SNSの利用が活発になり、一画面全体に多くの情報を表示するよりも、縦方向に長い表示エリアをもつディスプレーを好む消費者が増えています。

 16:9なら6型を超えるディスプレーの製品は片手で持つのが難しかったものが、アスペクト比変更で6.2型や6.4型などさらに大型化が進んでいます。いずれは21:9のいわゆるシネマサイズのディスプレーも採用されるようになるかもしれません。2011年に発売されたAcerの「Iconia Smart」が21:9を採用していましたが、その目の付け所の先進性が今になって評価されるかもしれないのです。

 このワイドディスプレーとセットになって普及が進んだのが上部に欠き取り部分のある「ノッチ」ディスプレーです。iPhone Xで採用されてから各社が右に倣えと同じフェイスデザインの採用を進めています。画面表示を消しているときはフロント面全体がディスプレーに見えるため「全画面ディスプレー」と各社は呼んでいますが、実使用時の使い勝手は向き不向きもあるためノッチの導入が全モデルに広がるとは限りません。

 サムスンはインフィニティーディスプレーと称して側面はカーブ、上下のベゼル幅を極限まで減らしたディスプレーの採用をGalaxy Sシリーズ、Galaxy Noteシリーズに進めています。一方OPPOとVivoはカメラを普段は収納させ、必要な時だけポップアップさせる新しい機構でノッチレス&全画面化を実現しています。

カメラが飛び出すギミックを搭載したOPPO FIND X

 シャープやシャオミが率先して採用した左右と上部のベゼルレスディスプレーは意外と採用が進んでいませんが、これはフロントカメラを下部に配置することから使い勝手にやや難点があるからでしょうか。ノッチレス製品は多くの消費者も気になるもので、レノボが2018年春に投入した「Z5」は事前のリーク情報でノッチの無いことが匂わされましたが、実製品は普通のノッチ画面採用で大きな落胆を与えてしまったほどです。

 側面がカーブしたサムスンのエッジディスプレーも他社への採用はあまり進んでいません。もともとは側面のベゼルを薄くし、大画面ながらも片手で持てるサイズを実現するために開発されたものでした。しかし前述したようにディスプレーの形状が縦にワイド、横にスリムになっている今、あえてエッジデザインを取り入れる必要性は薄くなっています。

 ノッチの必要性はスマートフォンのセキュリティーにも関連しています。フロントカメラを使った顔認証が進めば、フロントカメラの重要性も今まで以上に高まります。一方でVivoはディスプレー埋め込み型の指紋認証センサー搭載モデルを早々と開発し、フロントカメラレスでもセキュリティーを高めています。

 ここ数年、フロントカメラはSNSアップ用のセルフィー撮影用途として高画質化が進んでいきましたが、これからはセキュリティーも含めた新たな用途展開が広がるでしょう。女子スマートフォンのMeitu(メイトゥ)が前後全く同じカメラ(しかもデュアル+デュアル)を搭載するように、いずれはリアとフロントのカメラの性能が同一化していきそうです。その一方で、ファーウェイが背面にトリプルカメラを搭載した「P20 Pro」を投入していますが、これも他社の追従があるでしょう。

 さて従来のスマートフォンとは全く異なる概念の製品も2017年後半から誕生しました。Razerが投入を始めたゲーミングスマートフォンです。高速CPU搭載はもちろん、大容量のメモリ、高速なリフレッシュレートのディスプレー、ゲームに特化したUIなど、モバイル環境でも自在にゲームを楽しめる製品です。ASUSの「ROG Phone」のように合体アクセサリが複数用意される製品も登場しています。

 PCの世界でもいまやゲーミングスマートフォンは価格が高く、利益率も高くなっています。スマートフォンの世界にもいずれ同じ流れがやってくるに違いありません。

合体式ゲーミングスマートフォンのASUS「ROG Phone」

 この2年で大きく変わったスマートフォンのトレンドですが、2019年にはさらに大きな動きが待ち構えています。それは5Gの開始です。ギガビットという5Gの高速通信速度はスマートフォンの使い方を大きく変えるでしょう。データをクラウドに置いてもストレスを感じなくなりますし、音声サービスを使っても素早いレスポンスが期待できます。

 なお蛇足ながら、5Gで高速なデータ通信を使えばいまよりもデータ利用量が増え、料金が高くなると心配する人も多いでしょう。しかし通信世代の向上は通信単価を引き下げるものでもあるのです。同じ500Mbpsの通信速度でも、4Gと5Gでは5Gのほうがはるかにコストは安くなります。そのため5G時代には「100GBプラン」なんてものが手ごろな価格でてくるでしょう。

 高速通信は新しいサービスを生み出します。それによりスマートフォンのUIも進化しますし、新たな機能の搭載も進むはずです。もしかしたらスマートフォンの背面にもディスプレーが搭載される、2画面化が実用性を増すことになるかもしれません。1年後の今頃登場しているであろう、各社の5Gスマートフォンがどう進化しているか今から楽しみです。

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