スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

格安スマホの裏には「超高級」も存在している 大理石を使用したMobiadoの数々の端末

文●山根康宏

2018年08月06日 12時00分

 その一方で携帯電話の本体、内部はノキアの製品のモジュールをそのまま利用しました。最初の製品は「Nokia 6230」、その後「Nokia 6230i」「Nokia 6233」と、ノキアのフィーチャーフォンの中核モデルをベースにしていったのです。これもVERTUと同じ考えで、高級ボディーの開発に注力したのです。なお起動画面やアプリアイコンなどはノキアのオリジナルの端末のものではなく、Mobiadoのものにカスタマイズされています。

 2009年には待望となるMobiado初のスマートフォン「Grand 350PRL」が登場します。QWERTYキーボードを備え、ディスプレーは2.36型、Symbian OSを搭載します。ベースモデルはノキアのヒット製品となった「E71」。キーボードはMobiadoシリーズ共通の円形のボタンスタイルで、ステンレスとサファイアグラスでできています。本体はアルミニッケル合金、さらにバックカバーは板状に配置した真珠の上をサファイアグラスが覆います。本体重量はE71の127gに対して217gとかなりの重量級ですが、高級感をたっぷり味わえます。価格は2600ドル。

ノキアE71をベースにしたスマートフォン、Grand 350PRL

 このGrand 350PRLには派生モデルも登場しました。高級自動車のアストンマーチンとのコラボレーションモデル「Grand 350 Aston Martin」は本体をブラックカラーに仕上げ自動車のイメージと合わせています。また「Grand 350 Pioneer」は1972年に打ち上げられた木星探査機「パイオニア10号」にちなんだモデルで、背面パネルには有名な太陽系と人間を表現する金属板を模したイラストが描かれ、さらに内部には本物の隕石(ギベオン隕石)が埋め込まれているとのこと。凝りに凝った製品で、生産数は37台とのことです。

 なおVERTUからはノキアの「E72」をベースにした「Constellation Quest」が翌2010年に登場しています。高級端末にはQWERTYキーボードがよく似合う、そんな時代だったのかもしれません。

透明パネルのコンセプトモデルから、Androidスマートフォンへ

 2010年になるとアストンマーチンとコラボレーションしたコンセプトモデル「CPT002」を発表します。ディスプレーはなんと透明ガラスで、未来のスマートフォンというイメージです。このモデルの発表はMobiadoがタッチパネル搭載のスマートフォンに乗り出す意向を表すとともに、ただのスマートフォンは作らない、という考えのアピールだったのでしょう。

 CPT002のディスプレーを見ると、アプリアイコンが並びAndroid OSベースのスマートフォンにも見えます。ノキアのOSを採用してきた同社が、Androidへ乗り換えるという意味もここから受け取れるかもしれません。VERTUは2011年にSymbian 3ベースのフルタッチスマートフォン「Constellation」をリリースしますが、2010年から急激にSymbianのシェアが落ち2011年にはAndroidが市場の半数を握ったことを考えると、Mobiadoは一歩先を見ていたと言えます。カナダベースでアメリカ市場がよく見えていたMobiadoだからこそ、この判断ができたのでしょう。

トランスペアレントディスプレーのコンセプトモデル、CPT002

 そしてMobiadoからのAndroidスマートフォンは2011年に登場しました。「Grand Touch」は4型480x800ドットディスプレーに500万画素カメラを搭載。さすがにCPT002のような透明画面にはなりませんでしたが、イエローゴールドまたはローズゴールドに覆われたボディーにサファイア製のホームボタンと、贅沢尽くしの製品に仕上がっています。前面側がわずかに湾曲しており、耳に当てると本体が顔にフィットするのも特徴です。

 このGrand Touchも様々なバリエーションがあり、ついには大理石をボディーに使った「Grand Touch EM」も登場しました。石の加工はもちろん1つ1つの石材から削り出すしか方法はなく、一貫してボディーをCNC加工してきたMobiadoだからこそ採用できたともいえます。とはいえ価格は3100ドルと、100万円が珍しくないVERTUよりは値ごろ感があります。そしてほかにも再び木材を使ったモデルも登場するなど、Mobiado独自の世界観を広げていきました。

大理石ボディーもあったAndroidスマートフォン、Grand Touch

 Mobiadoは、同じ高級端末を狙ったVERTUとは異なる方向で様々なアイディアを次々と製品化していきました。しかし、ラグジュアリーなコンセプトを毎年技術革新が進むスマートフォンの世界に取り入れるのは実は難しかったようです。新しい製品を開発している最中に、ベースとなるAndroid OSのバージョンが次々と上がってしまい、実製品が出てきたころには旬を逃したIT製品となってしまうからです。

 またAndroid OSがGrand Touchの登場した時代はまだ2.3で、今から比較すると使いやすいものではありませんでした。フィーチャーフォン時代のMobiado端末は軽快にサクサク動き、操作することを意識せずに使うことができましたが、当時のAndroid OSではその環境は実現できませんでした。

 服飾品であれ自動車であれ「高級品」とは材質が高級・本物であることはもちろん、製品として使いやすくなくてはなりません。Grand Touchは残念ながら後継モデルが登場することなく、Mobiadoの端末事業もここでいったん終了となってしまいました。

 現在のMobiadoは、iPhone 7シリーズ用の高級ケース「Grand 7」を販売しています。また2017年にはプロトタイプの端末として「Classic 3」が発表されましたが、スマートフォンではなくフィーチャーフォンでした。こちらも昨今の状況を考えると2Gあるいは3Gではなく、4G端末として投入すべきであり、そうなると実製品の発売にはまだ時間がかかりそうです。

 VERTUが倒産したのち、ラグジュアリー端末は中国企業も参入するなど小規模なメーカーが着々と製品を増やしています。Mobiadoの素材に対するこだわりは今の時代でも十分に受け入れられるでしょう。ぜひとも最新のAndroid OSを搭載したスマートフォンや、KaiOS搭載の4Gフィーチャーフォンを市場に投入してほしいものです。

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