スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

ノキアとインテルが生み出したスマホ第3のOSを受け継ぐJolla

文●山根康宏

2018年08月12日 17時00分

 皮肉なことにノキアがWindows Phoneの採用を決定した後の2011年6月にMeeGo搭載の「Nokia N9」が発表されますが、これが最初で最後の市販されたMeeGo OS端末となりました。MeeGo OSならではの画面スワイプによるUIは端末に操作ボタンを必要とせず、本体カラーは華やかなシアンとマゼンダ(他にブラックも存在)。スマートフォンの概念を大きく変える製品になるはずでしたが、この本体デザインはパッケージングも含め、そのままノキア初のWindows Phone端末「Nokia 800」に引き継がれていきました。

 なお7月には開発者向けのMeeGoスマートフォン「Nokia N950」がリリースされましたが、一般販売はされませんでした。スライド式のQWERTYキーボードを備えており、市販されていれば一定数は売れたでしょう。しかしノキアとしてはスマートフォンをWindows Phoneに一本化していくこととしたため、N950は純粋にMeeGo開発者向けのリファレンスモデルという扱いでした。

 さて、JollaはこのノキアでMeeGoを開発していた部門がスピンアウトして設立されました。ノキアとしてもこのOSをそのまま世に埋もれさせてしまうのは惜しいと考えていたのでしょう。さらにはスマートフォン事業で苦戦する中、本体のスリム化が必要でした。そこでノキアは社員の独立・起業を促進する「Bridge」プログラムを発足させ、そこから多くの企業が生まれました。Jollaはその一つなのです。

 JollaはMeeGoを発展させSailfish OSとして開発を続けました。MeeGo同様にスワイプを基本操作とし、タスクはミニカード型でウィンドウに表示され内容も簡易的に確認できるなど、マルチタスクを強く意識したOSです。またAndroid OS向けアプリもある程度動作可能で、アプリの少なさをカバーしています。とはいえAndroidアプリは通知がうまく表示できないものもあるなど、完全に動くものではありません。

 2013年11月、Jollaは初めてのSailfish OS搭載スマートフォンとして会社名と同じ名前の「Jolla」を発表しました。Jollaスマートフォンは4.5型960x540ドットディスプレー、Snapdragon 400 デュアルコア1.4GHz、メモリ1GB、ストレージ16GB、800万画素カメラというスペック。価格はヨーロッパで339ユーロと、スペック相応で買いやすい価格帯のミッドレンジモデルでした。

 Jollaスマートフォンの本体サイズは131x68x9.9mmですが、側面から見ると裏部分がやや厚めにできているように見えます。これはThe Other Half(TOH)と呼ばれるシステムで、背面カバーには本体内部と接続するコネクタがあり、機能性を持つカバーに交換することを考えた設計になっているのです。実際に2014年にはキックスターターで「TOHKBD The Other Half Keyboard for your Jolla」というプロジェクトが立ち上がり、TOH対応の外付けキーボードが製品化されました。

 手ごろな価格、斬新なOS・UI、拡張性も備えたJollaスマートフォンは発売直後こそ大きな話題になりました。しかしアップルが初めて価格を抑えカラフルなボディー展開を図った「iPhone 5c」を出した後ということもあってか、Jollaスマートフォンの販売数は伸び悩んでしまいました。翌2014年には香港などでも発売されたのですが、Androidスマートフォンの存在を脅かすまでにはならず、残念ながら後継モデルは出ずに終了してしまいます。

タブレットやライセンス展開後、OS提供に特化

 2015年春にはSailfish OSのライセンス拡大として、インドの新興スマートフォンメーカー、Intexとの提携を発表。Intexから「Aqua Fish」として翌年発売されることがアナウンスされました。人口の多い巨大なインド市場に出ることでボリュームを稼ぎ、OSの普及を一気に狙ったのでしょう。先進国ではアップル、サムスンをはじめ強力なライバルが存在します。しかし新興国ではまだ地場メーカーが低価格機を出している時代であり、Sailfish OSスマートフォンはそれらよりもOSは使いやすく、価格も同等レベルで勝負できるという勝算があったのです。

 さらには2015年の年末に「Jolla Tablet」を発表します。スマートフォン市場での競争が厳しいことから、新たにタブレット向けOSとしての市場拡大を図ったのです。スワイプ&カード型タスクであるSailfish OSのUIは大画面のタブレットのほうが使いやすいかもしれません。ただしこの製品はWi-Fiのみで4Gの通信機能は搭載していませんでした。価格を下げるためと、販売国を広げるためにWi-Fiモデルとしたのでしょう。

クラウドファンディングを使って販売を図ったJolla Tablet

 Jolla Tabletは店舗販売ではなく、クラウドファンディングで資金調達する販売がとられました。しかし資金を集めたものの製品化は大幅に遅れ、わずかな台数のみが生産されたにとどまりました。結果として出資者への期待を裏切った格好となり、Sailfish OSそのものの将来性にも暗い影を落としてしまったのです。

 なおJolla Tabletのスペックは7.85型2048x1536ドットディスプレー、CPUはインテルのZ373F クアッドコア1.8GHz、メモリ2GB、ストレージ32GBまたは64GB、500万画素カメラという構成でした。OSはSailfish OS 2.0とし、スマートフォン搭載のものよりバージョンを上げたものを搭載しました。

 Sailfish OSの拡大がなかなか叶わない中で、Intexが唯一の頼みの綱となる状況の中、2016年7月にAqua Fishが発売されます。5型1280x720ドットディスプレー、Snapdragon 212クアッドコア1.3GHz、メモリ2GB、ストレージ16G、1300万画素カメラといった構成。価格は5499ルピー(約1万円)と地場メーカーに十分対抗できるものでした。待ち受け画面に広告や情報を表示する「Super Apps」という機能も加わり、広告収入も図られました。

Sailfish OSの拡販に成功、IntexのAqua Fish

 その後Aqua Fishの販売数について大きなニュースがなかったことから、残念ながらインドでもSailfish OS端末の販売は思わしくなかったようです。OSがいくら優れていても、アップルやグーグルのエコシステムにはかなわなかったのでしょう。

 2018年現在、JollaはOSを他社端末へ展開するのと同時に、フィーチャーフォンの高性能化に向けた取り組みを行っています。2017年にはソニーと提携し、Xperiaの一部機種向けとなる「Sailfish X」を発表、Xperia上でSailfish OSを動かすことができます。また10キーを備えたフィーチャーフォンでWEBやSNSが利用できるよう、非タッチ画面、10キー操作可能なJolla OSも投入される予定です。

 世界中の人々を通信回線でつなぐ、「Connecting People」というノキアのフィロソフィーを受け継ぐJolla。スマートフォンの低価格化が進む中、ぜひともSailfish OS搭載のスマートフォンを再び投入してほしいものです。SNSフォンとして売り出しても、今の時代なら売れそうな気がするだけに、Jollaの動きにはこれからも注目したいものです。

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