スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

高齢化が進むヨーロッパで需要を勝ち取れた携帯電話を作るEmporia

文●山根康宏

2018年08月20日 12時00分

 ディスプレーがカラーになり、折り畳み型の小型端末も出てくるなど技術やデザインを向上させつつも、年配者がいつでもどこでも連絡を取り合えるコミュニケーションツールの開発に注力していきました。

 黎明期のスマートフォンはディスプレーサイズが3型クラスで、年配の方が画面を見るには小さすぎました。初代iPhoneですら3.5型と、今から見るとかなり小さかったのです。しかもタッチパネルの精度が悪く、指先で滑らかに操作できるのはiPhoneとごく一部のハイエンドAndroid端末くらいでした。100ユーロ台で買える低価格スマートフォンは、一般消費者でも操作にいらつくものが多かったのです。

 しかしスマートフォンのディスプレーサイズも年々大型化し、タッチパネルの感度もよくなってくると、年配者でもスマートフォンを使うユーザーが増えていきました。そこでEmporiaもようやく重い腰を上げて2015年に最初のスマートフォン「emporiaSMART」を投入します。

年配者のためのスマートフォン、emporiaSMART

 emporiaSMARTは4.5型560x940ドットディスプレーを搭載。CPUはメーカー非公開のクアッドコア1.2GHz、ストレージ4GB、800万画素カメラといった構成。スペックとしてはエントリーモデルですが、価格は300ユーロ。割高感があるものの、年配者のための工夫が随所にされています。

 まず本体は138x70x10mmとディスプレーサイズに対してやや大きめ。これは握りやすくするためのもの。UIは大型のアイコンが4つならぶ簡単メニュー。そして10キーのフリップカバーも脱着できます。素材はやわらかい合皮製で、使わないときは裏側に回しておくこともできます。

 さらにはスタイラスペンも付属し本体横に取り付けておくこともできます。画面を指先でタッチすることが苦手な人でもこれなら楽に操作できます。さらに充電台は傾斜した形状で置いたままでも画面が見やすく、内部が空洞でスピーカーからの音を簡易的に拡大して再生も可能。細かいところまで作りこまれています。

使いやすさ重視のマイペース戦略

 スマートフォンに参入を開始してからは製品ラインナップ全体を変えていくと思われましたが、このあともフィーチャーフォンが主体の同社の製品ラインナップは変わりませんでした。スマートフォンは価格が高いことや、やはり年配者はまだまだ通話やSMSを使うことに慣れていたのでしょう。emporiaSMARTに続くスマートフォンはすぐには出てこなかったのです。

 ちなみにEmporia同様にシニア向け端末を製造しているメーカーとしてDoroがあります。Doroは立て続けにスマートフォンを出しており、Emporiaとは違う道を歩んでいます。一方では中古のiPhoneが適価で購入できるようになってくると、年配者にとっては二世代くらい前のiPhoneでも十分使いやすいスマートフォンと感じられることでしょう。

 EmporiaはemporiaSMARTを2016年、2017年と売り続けますが、さすがにそろそろスペックが古くなってきたのか、2018年にはいり「emporiaSMART.2」をリリースします。基本スペックはあまり変えておらず、一方でディスプレーサイズのアップ、さらに価格も引き下げています。いまやヨーロッパでもシャオミなど中国製の低価格なスマートフォンの入手が容易になっていますし、ディスプレーサイズも5型を超え、さらに価格も100ユーロ前後など年配者向けを謡わなくともシニア層からも注目を集めています。

一見すると普通のスマートフォンのデザインになったemporiaSMART.2

 emporiaSMART.2は外観は普通のスマートフォンスタイルとし、初代モデルのフリップカバーやスタイラスペンは廃止されました。背面は滑り止め加工も兼ねた細かい模様の入った仕上げで、カメラの下には指紋認証センサーのようなものが見えますが、これは緊急発信ボタン。最近のスマートフォンのデザインらしい仕上げです。

 ディスプレーは5型と大きくなり、720x1280ドットと解像度も上げられました。カメラは800万画素(フロント200万画素)なのは変わりませんが、日常的に写真を撮影する分には十分でしょう。価格も300ユーロで登場しましたが、すぐに200ユーロまで下げられたようです。低価格スマートフォンが多数出てきている中、年配者特化という製品も価格を安くせざるを得ないのでしょう。

 通常のメーカーなら年に数機種をリリースしますが、Emporiaは今のところそこまで製品を広げる考えはなく、2~3年にスマートフォンを1機種というスローペースで製品を展開しています。スマートフォンの高性能化とは無縁の製品をリリースしているためにこれでも十分ビジネスとして成り立つのでしょう。とはいえ中国メーカーを中心とした低価格機が徐々に増える中、Emporiaの将来も明るいものとは言えません。

 EmporiaのスマートフォンはGoogleアカウントを必要としないのもポイントです。スマートフォンを買って最初にやらなくてはならない、各種登録操作もいらないのです。また独自のアプリストアも持っており、FacebookやInstagramなど主要なアプリもそろっています(Google Playも搭載しています)。そして初代のemporiaSMARTから引き続き簡単UIも搭載。この「簡単・使いやすさ」は価格勝負の中国メーカーに打ち勝つ差別化要素となるでしょう。

 では今後、Emporiaはどのような道を進むのでしょうか? 2013年にはフィーチャーフォンとSOS発信ボタンを備えたBluetooth内蔵ウォッチとのセット「emporia CAREplus」を発売。また現在はEmporia製品以外も取り扱うオンラインストアで他社製のスマートウォッチを販売しています。

Bluetoothウォッチとフィーチャーフォンのセット商品もあった

 携帯電話やスマートフォンを忘れて外出してしまったときに、単体で緊急通話やSOS発信ができるウェアラブルデバイスは年配者だから必要でしょう。まだ市場に製品のない「年配者のためのスマートウォッチ」市場への進出はぜひ期待したいもの。そしてスマートフォンも、100ユーロ程度で買える安価な製品を数多く出し、ヨーロッパのみならず世界中の年配者たちのコミュニケーションを支えるメーカーになってほしいものです。

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