市場では9月発表の新型iPhoneを前にした買い控えと判断する意見が多く見られました。しかし別の視点からみると、9月の発表直後、すなわち新製品として大々的にアナウンスされた直後は売れるものの、半年もすると目新しさがなくなり、販売が急減してしまうともいえます。
サムスンの販売台数は7000万台から8000万台で1年を通して安定しています。しかしアップルは第4四半期、第1四半期は売れまくるものの、第2四半期、第3四半期は急落するといういびつな売れ行きを示しているのです。
アップルにはもう一つの誤算がありました。2016年3月に発売したiPhone SEの販売不振です。iPhone SEは小型サイズ、廉価版のiPhoneを求めるユーザーの声に応える製品として登場しました。しかし見た目は3年前のiPhone 5sとほぼ変わらず、ターゲットの一つであった新興国では「人に自慢できる最新モデル」にはならず「見た目が古い」と相手にされなかったのです。結局ユーザー不在の製品になってしまいました。
2017年の新製品はスマートフォン業界に再び激震を与えるものになりました。従来モデルの後継機となるiPhone 8、iPhone 8 Plusは背面をガラス仕上げとしボディーの美しさを大きく高めました。ただしガラスは重量があるため重量が10g以上増してしまい、iPhone 8 Plusは200gを超える202gとなり、手に持ってみるとやや重さが目立ちます。
そして全く新しい設計で登場したiPhone Xは、それまでのスマートフォンにはないデザインを採用して大きな注目を集めました。従来のiPhoneの本体下部にあった指紋認証センサー兼ホームボタンを廃止し、セキュリティーは顔認証の「Face ID」に一本化。そして顔認証のセンサーをディスプレーの上部中央に配置するとともに、その部分に切り欠きのあるディスプレー、いわゆる「ノッチ」を採用したのです。
ノッチは登場時賛否両論を巻き起こしました。ところがスマートフォンのディスプレー表示の上部は通常はメニューバーとなっています。つまりもともとコンテンツを表示するエリアではないわけです。そのためノッチの存在は使っているうちに気にならないものになっていったのです。ディスプレー表示を消せばフロント面が全画面になるのもノッチ付きディスプレーの利点でした。
結局、気が付けばAndroid陣営も次々とノッチ採用が当たり前のものになっていきます。いまや新製品の大半がノッチ付きディスプレーとなっており、アップルはまた一つスマートフォンの新たなトレンドを生み出したのでした。
「ノッチ」を生むもシェア2位から陥落、新製品で巻き返しを図る
さて新しいスマートフォンを生み出したアップル。再び調査会社ガートナーの調査結果を見ると、2017年第4四半期の販売台数は7318万台でした。これは前年の7704万台には及ばず、フルモデルチェンジしたiPhone Xだけでは販売数をさらに伸ばすことはできませんでした。一方サムスンは7403万台と僅差でアップルの追い上げを振り切ったのです。
2018年に入ると、第1四半期は再び販売数が落ち込み、5406万台でした。しかしこれは近年のアップルの動きを見れば当然のことで、販売不振ではなく想定内の結果です。ところが次の四半期、2018年第2四半期にスマートフォン業界に大きな激震が生じました。
2018年第2四半期の販売台数は、サムスンが7234万台でシェア19.3%とトップを守りました。そしてアップルは4472万台と、前年とほぼ同数を売り上げシェア11.9%を記録。ところがファーウェイが4985万台を販売し、シェア13.3%とアップルを抜き始めて2位に躍り出たのです。両社の差は過去にアップルとサムスンが1位を争った時の「僅差」ではなく、販売台数に500万台もの差を付けました。
アップルの販売台数が前年とほぼ変わらなかったことを考えると、アップルがシェアを落としたと考えるよりも、ファーウェイの勢いが他社を大きく上回った、ということなのでしょう。しかし新しいiPhoneは既存のiPhoneユーザーの買い替え需要が主となり、新規にiPhoneを買って使い始める消費者の数が増えていないと見ることもできます。アップルにとって、久しぶりに正念場が訪れたといえるかもしれません。
そして迎えた2018年9月12日、アップルはスマートフォンラインナップを大幅に一新させました。iPhone Xの後継モデルは過去同様に「s」の型番を付けたiPhone XSとなりました。カメラがより高性能になり、iPhone Xのサイズに満足しているユーザーには気になる製品です。また大型モデルとしてiPhone XS Maxが登場。Plusという名前にしなかったのは、バッテリー容量を大型化し、さらにディスプレーサイズもiPhone史上最大の6.4型としたからです。さらに新モデルはeSIM内蔵モデルも投入し、物理的なSIMカード無しでの契約も可能にしました(ただしeSIMに対応する一部の国・キャリアのみ)。
またカラバリを増やしたiPhone XRはiPhone 5c以来のカジュアル感あるモデルになっています。しかし価格は高く、廉価版という位置づけではありません。アップルというブランド品の中の、一つのバリエーションとしてカラフルなボディーを求める消費者をターゲットとした製品になっています。
3モデルはすべてノッチディスプレーとなり、指紋認証はiPhoneでは採用されなくなりました。iPhone XのFaceIDを使ったことのある人なら、この判断は正しいものと納得できるものでしょう。革新的な技術はないかもしれませんが、正統な機能進化を遂げたことでこの3モデルはいずれもヒット製品になることは明白です。果たして再びサムスンを抜き1位に返り咲くのか、業界が注目しています。