スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

人気格安SIM楽天モバイルとIIJmioが取り扱い開始したEssential Phoneというスマホの秘密

文●山根康宏

2018年10月03日 12時00分

 それは背面を使ったハードウェアの拡張性です。Essential Phoneの背面を見ると、左に並んだデュアルカメラの右側に、2つの端子状の接点が見られます。ここに外付け式のモジュールを合体させ、ハードウェア機能を強化することができるのです。

 最初に登場したのは360度カメラ。内蔵カメラでは撮影できない360度の全天球な写真をワンタッチで撮影可能にするのです。360度カメラは市販品がいくつかありますが、撮影後にスマートフォンへ転送するのが面倒でした。Essential Phoneなら360度カメラの装着はマグネットで一発。しかもディスプレーでプレビューしながら360度撮影ができるのです。

 高スペックかつデザインに優れ拡張性もある、しかもAndroidの父が作り上げたスマートフォンということでEssential Phoneは2017年8月の発売直後から大きな話題となりました。しかし699ドルという価格設定は強気であり、アメリカでの販売キャリアはSprintであったこともあって、販売数は期待するほどには到達しませんでした。販売当初のファームウェアではカメラ機能がいまいちなど、実用性にも欠ける状態だったようです。2017年10月には早くも200ドル値下げされ、価格は499ドルにまで下がりました。

360度カメラが合体できるも販売数は伸びなやむ

2機種目は開発中止、日本販売の理由を探る

 Essential Phoneのターゲット層はあらゆる消費者でしたが、実際に購入したのはギーク層だったとみられます。そうであればなおさらSnapdragon 845を搭載した後継モデルの登場に期待がかかりますが、2018年5月にブルームバーグがEssentialの身売りや、後継機の開発を中止していると報道しました。前月には日本などからもEssentialのオンラインストアでPH-1の購入が可能になっていただけに、すぐさまEssentialの市場撤退を危惧する声が広がったのは言うまでもありません。

 ブルームバーグの報道を受けRubin氏はTwitterで声明を発表しましたが、それによると一部の製品の開発が中止されていることは事実とのこと。またスマートホーム製品に注力するとされましたが、これはEssential Phoneと同時に2017年に発表されたEssential Homeのことと考えられます。Essential HomeはAndroid OSではなくAmbient OSを搭載。グーグルの思惑に左右されずに人々の生活を支援できるデバイスとなるのなら、これこそRubin氏が目指している人のためのツールなのかもしれません。

 一方Rubin氏はEssential Phoneのソフトウェアアップグレード(2年間)とセキュリティーパッチ(3年間)の提供をアナウンスするなど、Essential Phoneの先行きがどうあれ、市場に出した製品に対してしっかりとケアすることを表明しました。

 2018年6月には新たなハードウェアモジュール「Audio Adapter HD」も発表されました。3.5mmヘッドフォンジャックを備え、MQA(Master Quality Authenticated)対応でハイレゾ音楽の再生が可能になります。とはいえ発売は夏とアナウンスされたものの、2018年10月になっても発売はされていません。

 そして発売から1年以上が過ぎた2018年9月、今度は日本でEssential Phoneの正式販売が決まりました。スペックは1年前のモデルですが今でも十分使える性能を有しています。また販売する楽天モバイルとIIJmioにとっては、おそらく端末の仕入れ価格が下がり販売しやすいという好条件があったと思われます。さらにAndroid Pが動く端末ということで、開発者などに一定数売れるという見込みもあるのでしょう。

オーディオモジュールの発売が望まれる

 さてEssential Phoneの今後はどうなるのでしょうか?おそらく次期モデルが出てくることは難しいと考えられます。ソフトウェアだけではなくハードウェアもアップデートできることがEssential Phoneのメリットでしたが、アナウンスされたモジュールは360度カメラとオーディオユニットのみ。過去の歴史を振り返ると、合体式で失敗したLGの「G5」も出てきたモジュールは類似していました。一方モトローラは次々とモジュール「Motomods」を出して合体式スマートフォンで一定の成功を収めています。

 ハードウェアを拡張するといっても、カメラやオーディオ程度では、多くの消費者は追加のお金を払ってまでそれを買おうとは思わないでしょう。またその機種専用品となると、スマートフォンを買い替えたときに無駄になってしまいます。モトローラは3年間の新機種にも対応する合体モジュールを作り上げました。Essentialも後継機「PH-2」が出てきてこそモジュール合体型の意義があるのですが、初代モデルの販売数からは2機種目が売れる見込みは見えてきません。

 ブルームバーグによるとPH-1の販売台数は699ドルで売り出し後の2か月で2万台、その後9か月で15万台だったとのこと。商業的な成功には程遠い結果となってしまいました。性能・機能が肥大化するスマートフォンを人々の手に取り戻すという、Essentialの挑戦はうまくはいきませんでした。しかし今後スマートスピーカーで巻き返し、いつかはまた使いやすいスマートフォンを開発し市場に驚きと感動を与えてほしいものです。

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