松村太郎の「アップル時評」ニュース解説・戦略分析

アップルにとってiPhone XRが大事な理由 (2/4)

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年10月23日 09時00分

●ウォッチからの学び

 それはApple Watchです。

 Apple Watchもまた、Series 4の登場で画面サイズを拡大する刷新がありました。しかし注目したいのは、2014年9月に発表したときのラインアップです。

 2014年9月に発表、翌年4月に発売されたApple Watchには、現在も残っているアルミニウムとステンレススチールのケースに加え、ゴールドケースのEditionが存在していました。その後Editionはセラミックとなり、Series 3まで継続されました。Series 4には、ラインアップを通じて「今回Editionは必要ない」との判断があったそうです。

 あのとき、なぜ数が出ないことも承知の上で、100万円を超えるゴールドモデルを作ったのか。しかもアップルは、通称「Appleゴールド」とも言われる新しい金の加工まで取り組んでいたのです。このあたりを紐解くと、現在のiPhoneのラインアップのねらいが見えてくると思います。

 Apple Watchは各世代ごとに、心臓部が共通化されています。同じサイズの有機ELディスプレイ、同じプロセッサ、同じwatchOSが動作しながら、アルミニウム、ステンレススチール、そしてゴールドもしくはセラミックのケースを用意し、価格は数倍から30倍ものレンジで変化していました。

 これはテクノロジー製品にテクノロジー以外の付加価値をつける実験のような取り組みだったと振り返ることができます。

 携帯電話の世界には、ノキアが取り組んでいた富裕層向けの携帯電話VERTUが2002年から存在しており、必ずしも新しい話というわけではありません。ノキアの携帯事業部門はマイクロソフトに買収され、携帯電話端末の表舞台から姿を消す事態になってしまいましたが、VERTU自体は存続しており、2013年からはしびれるようなクールさを放つAndroidスマートフォンを発売しています。

 ステンレススチールケースのApple Watchモデルも、アルミニウムケースに比べて倍近い価格です。それでもエルメスとのコラボレーションモデルは世界的に非常に好評だそうです。ただ、大多数の販売はアルミニウムに集中しています。

 ゴールドやセラミック、アルミニウム、エルメスといった高い付加価値を持つモデルが、Apple Watch自体のブランドを牽引し、より手に取りやすい価格の製品の価値を高めてきました。同じことがiPhoneに起きているとみれば、価格に納得はできないながら、やろうとしていることは理解できるのではないでしょうか。

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