スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

わずか半年だけ存在したスマホメーカーNibiru 壮大な計画も志半ばで途絶える

文●山根康宏

2018年10月22日 18時00分

 Nibiruは太陽系の惑星の名前から、水星、金星、火星、木星、土星そしてXの6つのシリーズ展開がされる予定とされました。惑星に基づく特徴によりそれぞれは以下の製品となる予定でした。

水星:女性向け製品
金星:ハイエンドビジネスフォン
火星:ファッショナブルデザイン
木星:大画面端末
土星:高齢者向け
X:フラッグシップ

Nibiru最初のスマートフォンは「火星」から(火星一号)

 最初のNibiruは2014年3月に登場した「火星一号」(H1)。価格は998元と1000元を切り、5型1920x1080ドットのフルHDディスプレーを搭載、1300万画素カメラを採用するなど価格を考えるとコストパフォーマンスに優れた製品でした。SoCこそメディアテックのMT6592Hオクタコア1.8GHzですが、これはシャオミの初代Hong Miを意識したスペック・価格だったのです。なおOSはAndroid 4.2でしたが、天宇開発の独自UIを搭載したTouch OSを採用しました。

 Nibiruのシリーズ展開は天体につながる意味合いも持っており、シャオミなどの低価格機が標準サイズか大画面の2種類であったのに対し、6つのラインナップを揃えました。おそらくXシリーズはシャオミのフラッグシップ同様のハイエンドフォンを考えていたのでしょう。2014年の中国市場は1000元スマートフォン市場が大きな盛り上がりを見せており、Nibiruもその波に乗り販売数を伸ばすことが期待されました。

 7月には早くも火星一号の低価格モデル「火星一号探索版」(H1c)を投入。価格は798元とさらに安く、シャオミのHong Miの低価格機に揃えてきました(シャオミは799元なので、Nibiruのほうが1元安い)。ディスプレーを5型1280x720ドットに、SoCをMT6591Hにすることで低価格を実現、二つの火星で市場への浸透を図りました。

火星シリーズのラインナップを拡充した火星一号探索版

ブランド力の弱さとライバルたちの前に半年で撃沈

 火星シリーズに次ぐほかの製品は、9月に登場した「金星一号」と「木星一号」です。

 木星一号(M1)は7型ディスプレーのタブレットとして登場しました。とはいえデュアルSIMに対応し、通話も可能なタブレットです。解像度は1920x1200ドットと格安タブレットよりも高く、価格は1298元と設定されました。タブレットにも関わらずカメラは1300万画素と画質が高く、バッテリーも交換可能など特徴を持った製品でした。

 また金星一号(J1)はビジネス向け端末らしく、背面は革風の高級感あるデザインでまとめられています。フレームも金属製で高い質感を誇ります。データ交換やモバイルペイメントに対応できるようNFCも搭載、またシリーズで最初のLTE対応モデルとなりました。SoCもクアルコムのSnapdragon 400を搭載、ディスプレーは6型1920x1080ドットと大型です。価格は1498元です。

ビジネスユーザーを狙った高級モデルの金星一号

 火星シリーズはHong Miをターゲットにしつつ、木星でタブレット需要を、金星で高級機市場を狙おうとわずか数か月で4機種もの製品が投入されました。しかしこの木星と金星はビジネス的にうまくいかなかったと思われます。まずタブレット市場が低価格機であふれていた上に、5.5型クラスのディスプレーのスマートフォンがあれば写真や映画を見るにしても十分です。運が悪いことに、同年5月にシャオミがTegra 1搭載の7.9型タブレットを1499元で出したばかり。木星一号に勝ち目はなかったのです。

 また金星はあと少し金額を足せば、シャオミのフラッグシップモデルが1999元で買えてしまいます。2014年7月発表の「Mi 4」はデザインを一新した高級感ある仕上げで、ディスプレーサイズは5型ですがSoCはSnapdragon 801を搭載していたのです。

 Nibiruの多品種戦略は本家とは異なる全く新しいブランド・ラインを1から作り上げるという壮大な構想でしたが、市場の動きはNibiruが考える以上に早かったのです。

 12月に入り「土星一号」(T1)が発表されました。498元という低価格の簡単スマートフォンでしたが、すでに同様の製品はマイナーメーカーたちが数多く手がけていました。旧正月を前にした年末に投入する新製品としては地味であり、初回予約が即完売したとのことでしたがその数はわずか5000台。そもそもこのクラスの製品を買う消費者はブランドではなく価格を判断基準にしており、Nibiruからこの手の製品を出す意味は無かったといえるのです。

他社と変わらぬ製品に終わった土星一号

 Nibiruの販売が好調であれば天宇もスマートフォン生産数を伸ばすことができたでしょう。しかしNibiruを投入した結果は無残だったようようです。Nibiruそして本家の天宇もスマートフォンの販売数は全く伸びませんでした。そしてNibiruは2014年中に5機種を出しただけで終了し、会社も清算となってしまったのです。

 NibiruのWEBページにはキャラクターグッズの展開を予想される記述もありました。それぞれの惑星のモデルにちなんだキャラクターを出せば、スマートフォン本体外の売り上げも伸びる、そんな夢を抱いていたのでしょう。しかし水星とXシリーズは投入されることもなく、Nibiruの壮大な計画は志半ばで途絶えてしまったのです。

 太陽系惑星をシリーズ名にするという発想はいいセンスだと思います。今からでもいいので、どこかのメーカーがNibiruに変わりそんなネーミングのスマートフォンを出してほしいものです。ファーウェイが低価格モデルのHonor人気もあり世界シェア3位の常連となり、シャオミも世界市場をにぎわす存在になった今、その陰に隠れ消えていったNibiruのことをたまには思い出したいものです。

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