スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

Razerが作った「ゲーム特化スマホ」はPC市場に次ぐ成功を得られるのか

文●山根康宏

2018年10月24日 12時00分

 しかもSwitchbladeはWi-Fiに加え3Gも搭載していました。つまりモバイルマシンとしてゲーム以外の用途にも使えたかもしれません。残念ながら商品化はされませんでしたが、もしも販売されていればスマートフォンのように使えるWindowsマシンとして人気になったことでしょう。Razerはその後ノートPCを定期的に出していくものの、超小型マシンSwitchabladeの開発は凍結してしまいました。

 2016年には12.5型のスリムなノートPC「Razer Blade Stealth」を投入、これがRazerの考える「モバイル」な製品と言えます。合わせてグラフィックボードを外付け利用できる「Razer Core」も発売しました。モバイルPCとデスクトップゲーミングという2つの用途をうまく切り替えて使える製品というわけです。ゲーミングPC市場の活況もあり、Razerは次々と製品ラインナップを広げていきます。

 こうしてノートPCと周辺機器のラインナップを拡大していったRazerがスマートフォンを出すのは当然のことだったかもしれません。ゲーミング業界もスマートフォン向けのハイスペックなゲームが増えており、ゲームに特化したスマートフォンを求めるユーザーが増えていました。Razerが満を持して2017年11月に発表した「Razer Phone」は、ただのハイエンドスマートフォンではなくゲームに特化した機能を強化して登場しました。

Razer Phoneで「ゲーミングスマホ」という新しい市場を開拓

 Razer Phoneのディスプレーは5.7型、解像度は2560x1440ドット。アスペクト比は16:9で、当時各社が次々と採用した18:9などのワイドデザインはあえて採用しませんでした。これはモバイルゲームの表示が16:9に最適化していることや、画面のタッチ操作をする際に幅の狭いディスプレーでは操作がしにくいからでしょう。そして画面リフレッシュレートは120Hzと高く、なめらかな表示が可能です。CPUにSnapdragon 835、メモリ8GB、ストレージ64GBと高性能。699ドルの価格は性能を考えると割安感もあります。

 本体背面にはTHSのロゴがプリントで表現されました。限定モデルはRazerのコーポレートカラーでもある緑色で、そのカラーリングから一瞬で完売したとのこと。その後販売された一般モデルはTHSロゴはホワイトカラーとなりました。Razer PhoneはRazerの世界を手のひらの上で味わえる、新の「モバイルRazer」といえる製品なのです。

ノートPC型のドッキングステーションによる拡張が楽しみ

 実はRazerは2017年3月、クラウドスマートフォンを開発していたNextbit社を買収していました。Nextbitは「Robin」という名前のスマートフォンを販売したものの、1機種だけで終わっています。Robinは100GBのクラウドストレージがOSに融合されており、写真などのデータ保存ができるだけではなく、使わないアプリは自動的にクラウドにバックアップされるといった機能を持っていました。

 Razer Phoneの外観はRobinと比較すると色やデザインこそ違え、ボリュームボタンなどはかなり似通った位置にあり、Razer PhoneはRobinをベースに開発されたとも言われています。しかしRobinのコンセプトだった「クラウドスマートフォン」としてではなく、ゲームユースを考えた製品としてRazer Phoneは登場したのです。

 Razer Phoneは2018年に入ると中国の旧正月に合わせ、赤いパッケージの限定モデルを投入します。背面のTHSロゴは中華系ユーザーたちが好むゴールドとなりました。カラバリモデルを出すことでRazer Phoneのラインナップを増やしていきました。

 ところでRazer Phoneはただのスマートフォンというカテゴリに収まる製品として開発されたのではありませんでした。2018年1月にラスベガスで開催されたCES2018で、ノートPC型のドッキングステーション「Project Linda」が披露されたのです。

Razer PhoneをゲーミングノートPC化するProject Linda

 Chromaシステム搭載でキーボードは光り、パームレスト部分にRazer Phoneを装着するだけでノートPCライクに使うことができます。Project Lindaはコンセプト製品であり発売時期は未定とアナウンスされましたが、モバイルゲームをより快適にプレーしたいユーザーには夢のような製品になるに違いありません。今後の製品化が望まれます。

 さてRazer Phoneはスマートフォンとしての性能は高く一定の評価を得たものの、1200万画素のデュアルカメラの画質は今一つでした。このカメラはファームウェアのアップデートで徐々に改善され、ポートレートモードも追加されるなど、発売から半年以上経ちようやく使えるレベルになっていきました。このあたりはRazerといえども、初めてのスマートフォンを作り上げるにはノウハウが不足していたのでしょう。

 一方では2018年にはいるとシャオミが「Black Shark」、Nubiaが「Red Magic」そしてASUSが「ROG Phone」と、ゲーミングスマートフォンを次々と発表します。PC市場を見てみると、ゲーミングPCはPC全体の市場成長鈍化の影響を受けず、高価格・高性能な製品が売れています。スマートフォン市場でも同じ動きが起きるとこれらゲーミングスマートフォンを出した各社は考えているようです。今後ゲーミングスマートフォンは今よりもメジャーな製品になっていくかもしれません。そしてその市場を生み出したのはRazerなのです。

 最初のRazer Phoneが発売されてから11か月後となる2018年10月、後継機となる「Razer Phone 2」が発表されました。一番の驚きはディスプレーで、市場に投入されるほぼすべてのハイエンドスマートフォンがアスペクト比18:9以上のワイド画面を採用しているのに対し、Razer Phone 2は初代モデルと同じ16:9を採用しました。これはモバイルゲーム利用を考え、従来からのサイズを変えなかったのでしょう。

初代モデルを大きく改良したRazer Phone 2

 また本体背面のTHSのロゴはLEDライトにより光るようになりました。もちろんChromaシステムに対応し、自由な色、パターンで点滅させることができます。またSNSの通知などに合わせて点滅パターンをカスタマイズすることもできます。そしてデュアルカメラは本体中央に配置され、画質も大きく向上しました。チップセットはSnapdragon 845にパワーアップされ、メモリ8GB、ストレージは64GBに加え128GB版も追加されます。

 「PUBG」「荒野行動」「フォートナイト」など、スマートフォン向けゲームも2018年ころから急激に盛り上がりを見せています。PCの世界での成功をスマートフォン市場でも得ることができるか? Razerの動きには注目です。

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