●安いからではなく、正しいから取り組む
今回のイベントで個人的に最も印象に残ったのは環境対策でした。新しいデバイスに用いられているアルミニウムはいずれも100%リサイクル素材が用いられていたからです。
アップルはMac、iPad、iPhoneといった主力製品で、外装についてはアルミニウムとガラスの素材で固めてきました。製造過程で削ったアルミニウムを溶かして再資源化し、採掘なしにアルミニウム材料を作り出すことで、製造過程の二酸化炭素排出量を約50%軽減できるというのです。
しかしこの方法、アルミニウムを鉱石から作り出すコストよりも割高になります。にもかかわらず、アップルがその道を選んだ点、しかもハイエンドモデルではなく、価格の安さがより重視されるエントリーモデルに適用した点に、非常に大きな衝撃を受けたのです。
アップルは、安いからリサイクルに取り組むのではなく、正しいから取り組むのだ、と今回の100%リサイクルアルミニウムの使用について説明しました。もちろん地球環境のことを考えれば、鉱石を掘り当てるために地球に穴を開けずに済むことは正しいかもしれません。
しかし、それだけではないと思います。
アップルはMacが1億台以上のインストールベースに達したとアピールしました。iPadは4億台で、これを含めたiOSデバイスは20億台に上ります。そして毎年2億台のiPhone、およそ6000万台のMacとiPadが販売され続けています。
と、ここまで書いてくると、アップルが毎年資源を使っていかに膨大なデバイスを作り続けているかが分かります。そしてこれまでは、資源を堀りながらこれらのデバイスを作り続けてきたわけです。
もちろんすべてのMacやiPadが再資源化されたリサイクルアルミになるわけではありません。しかしモデルチェンジのたび、だんだんその割合は増えていくでしょう。少なくとも、ノート型Macの半分程度を占めると言われるMacBook Airは、新たな資源に頼らずアルミニウムの外装を作ることができるようになりました。
アップルと同じような規模で、カテゴリあたり単一もしくは数種類程度のデジタルデバイスを膨大な数作るメーカーは、今後現れてこないかもしれません。
販売台数と売上高が重要だったはずのテクノロジー製造業のアップルが、デバイスの「長持ち」を売りにすること、そしてリサイクル材料を活用することは、選ばないわけにはいかない、持続可能性の道だったのでした。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
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