スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

スマホ画面上にホログラム表示する夢の端末が失敗に終わった「Takee」

文●山根康宏

2018年12月09日 16時00分

 Takee 1はスマートホログラフィック機能に対応し、画像を疑似的に立体表示することができます。これはスマートフォンの画面を見ているユーザーの目の動きをカメラが常時トラッキングし、その動きに対してリアルタイムで立体的に見える画像を合成することであたかも画面の表面でオブジェクトが動いているように表示できるのです。

 このスマートホログラフィック機能は4つのカメラを使用して人間の目の動きをトラッキングする必要があります。Takee 1にはフロントカメラは1つしか内蔵されていません。そこで「大空眼」と呼ぶ、骨組みのような形のアタッチメントが用意されました。大空眼には5つの腕があり、1つは本体の位置決め用、残りの4つの先にはカメラがついており、Takee 1本体を横向きにして装着するとディスプレーの上下に2つずつのカメラが配置されます。

 専用アプリを立ち上げると、4つのカメラが利用者の目の動きをすぐに追跡しはじめます。ホログラムのような立体映像のほか、3D表示も可能でした。またディスプレーの上に手をかざし、スマートフォンやアプリをコントロールすることもできたといいます。ARやMRのような疑似体験をスマートホログラフィック機能は実現してくれるのです。

「大空眼」を装着すると、ディスプレーの上下に4つのカメラが現れる

アプリが無ければ無用の長物、アマゾンと共に失敗に終わる

 実は似たようなアイディアのスマートフォンが存在したことを覚えているでしょうか?アマゾンが同じく2014年に発売した「Fire Phone」です。Fire PhoneはTakee 1とは異なり、4つのカメラを本体の4隅に搭載しており、アタッチメントを装着することなく単体でバーチャル体験のできるスマートフォンだったのです。Dynamic Perspectiveという技術でTakee 1同様に利用者の目をトラッキングして3D表示が可能でした。

 では現実には市場の反応はどうだったのでしょう?Takee 1のホログラムや3D表示は確かに目の前に浮かんだように表示されたとはいえ、はっきりとしたオブジェクトが浮かび上がるほどではありませんでした。利用できるアプリもゲームなど一部に限られ、プラットフォームを公開したことで多くのアプリケーションが登場すると期待されましたがそれも叶いませんでした。指先を浮かせて画面にタッチせず操作する「空中操作」も使いやすいものではありませんでした。

大空眼は別売で499元(約8200円)と価格も高かった

 Fire Phoneも同様に3D表示の実用性は低く、さらにAT&T専売のうえ価格も高く、消費者には受け入れられませんでした。Fire Phoneの失敗はマーケティングに寄るところが大きかったとはいえ、「使い道がない」スマートフォンに消費者は興味を示さなかったのです。Fire Phoneと類似の技術を搭載したTakee 1が失敗したのも、当然だったといえるでしょう。

 今でもYouTubeなどでTakeeのスマートフォンのコンセプトビデオを見ることができます。 背面に3Dカメラを搭載し、手軽にホログラム画像を撮影する、最終的にはそんな製品を出したかったようです。ホログラムを使ったゲーム、通話、ショッピング、ナビ、教育など、Takeeの野望は大きいものでした。

 一方、2014年は中国でスマートフォンの低価格化が一気に進んだ年でした。2013年にシャオミが発売した「RedMi」(紅米)が大ヒット。ファーウェイが「Honor」を、クールパッドが「大神」を、そしてレノボが「黄金斗士」シリーズを出すなど、1000元を切る低価格機が次々と生まれました。この動きはTakee 1のような全く新しい技術を搭載した製品にとっては逆風でもあったのです。

 今の時代ならCPUやGPUパワー、ディスプレー表示能力も大きく高まっています。Hydrogen Oneはホログラフィックディスプレーの価格が高いことから、本体価格も10万円を超える高価なものとなっています。Ester社は現在もバーチャル技術に注力していますから、改めてソフトウェアでホログラム表示が可能なスマートフォンを開発してほしいものです。

mobileASCII.jp TOPページへ