スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

LGのスマホ事業はどうなる? 5G対応モデルでライバルたちを追い抜けるか

文●山根康宏

2019年03月19日 13時00分

 さらにハイレゾ音源再生は標準対応。カメラは1300万画素x2のデュアル構成というぜいたくなもの。ディスプレーに前後カメラの画像を同時に表示したり、動画でも自由にピントの位置を合わせられるなどカメラ機能も強化されました。そして防水にも対応。いわばG5でアタッチメントで対応していた機能をそのまま本体に内蔵したモデルとなり、「全部入り」スマートフォンとして市場の反応を伺いしました。

 ところがここでも誤算が生じます。同じ時期にサムスンが発表した「Galaxy S8」シリーズは18.5:9という、G6よりもさらにワイドなディスプレーで登場。角をとったエッジデザインと合わせ「インフィニティー(無限の)ディスプレー」という名前を付け、フロント面すべてが表示領域であることを大きくアピールしました。

 結局2017年のスマートフォン市場は他社も18:9や18.5:9のワイドサイズディスプレーの搭載を一気に進めていくのですが、その先駆者的存在として目立ったのはGalaxy S8であり、G6はここでも注目を集めることができなかったのです。

 秋にはVシリーズ3モデル目となる「V30」を発表。「V10」「V20」が採用していたフロント部分へのサブディスプレー搭載を廃止し、Snapdragon 835の搭載、G6に続く18:9ディスプレーの搭載と、秋のフラッグシップモデルという位置づけの製品となりました。しかしVシリーズの知名度の低さからアメリカや韓国では大々的に売られたものの、それ以外の国ではまたしても目立たぬ存在にとどまってしまいました。

セカンドディスプレーを廃止、ワイドサイズディスプレー化されたV30

 その一方では前年から強化したミッドレンジの「K」シリーズやミッドハイクラスの「Q」シリーズがコストパフォーマンスの高さで人気を伸ばします。プリペイド向けにも適したクラスの製品で、アメリカなどではフラッグシップモデルよりも売れ行きは良かったと思われます。そのアメリカではスタイラスペン内蔵の「Stylo」シリーズも手ごろな価格で人気で、毎年モデルがでるほど人気となっています。

「ThinQ」ブランドでスマートライフを提案、5Gで再起を図る

 LGのスマートフォンビジネスは2015年の第3四半期以降赤字続きとなっており、これは同社のスマートフォンの販売・開発体制が時代にマッチしていないことを表しています。そこでLGは2018年から抜本的な戦略見直しを図りました。

 まずは端末の投入時期。これまでは他社に合わせるように時期を合わせており、2月に「G」、9月に「V」という2つのフラッグシップモデル投入をおこなっていました。それを2018年以降は他社の状況にとらわれず、製品投入時期は自社で決めていくとしたのです。

 そしてもう1つはスマートフォンブランドの変更です。思い起こせばLGのスマートフォンはAndroidモデルに「Optimus」という名称を付けていましたが、それを外してアルファベット1文字のわかりやすい名称に変えた過去があります。そのブランドを新たなものにするとしたのです。

 2018年2月にバルセロナで開催された「MWC2018」では、LGは予期されていたフラッグシップスマートフォン「G7」を発表しませんでした。MWCはサムスンならライバル各社が春のフラッグシップを発表する場でもありますが、LGはあえてここで最上位モデルを投入しなかったのです。代わりに発表されたのは「V30S ThinQ」でした。

 V30S ThinQの製品名は、LGの新たなブランド展開に則ったもの。ThinQはLGが展開するスマートホームプラットフォームの名称で、家電やAIスピーカーなどにもつけられています。LGはスマートフォンを「高性能電話」ではなく「スマートホームとつながるスマート製品の一員」という印象を付けるために、ThinQという名前をハイエンドスマートフォンにもつけることにしたようです。

 なおV30S ThinQは半年前に投入されたV30とハードウェアスペックはほぼ同等ながら、メモリ容量を下げて価格も若干安くしています。一方ではカメラにAI機能を搭載することでシーン判別撮影など新たな付加価値をプラス。「手ごろに買えるハイスペックなAIカメラフォン」として登場しました。

 この年の春のフラッグシップモデルは5月に登場。名前は「G7 ThinQ」で、ディスプレーを19.5:9とし他社よりもさらにワイドなものが搭載されました。また本体側面にはグーグルアシスタントキーを備え、ワンプッシュで音声操作もできるようになりました。カメラも1600万画素x2のデュアルとより性能アップ。ようやくiPhoneやGalaxyの最上位モデルと並べても負けない製品になったと感じられたものです。

他社と発表時期をずらしたG7 ThinQ

 5月末には「V35 ThinQ」も続けて投入されました。V30s ThinQのCPUをSnapdragon 835から845に変えたモデルで、G7 ThinQの小型モデルという位置づけでもあります。ハイエンドモデル2つを別ブランドで展開するという他社にはない戦略で、ここ数年で落ち込んだブランド力アップも図ろうとしたに違いありません。

 そして秋モデルにはトリプルカメラ搭載の「V40 ThinQ」が投入されました。一般的なデュアルカメラに加え、新たに「ウルトラワイド」を搭載し写真撮影の幅を広げます。さらにはワンシャッターで3つのカメラそれぞれで同時撮影を行い、出来上がりから比較して好みの写真だけを保存するという面白い機能も加わりました。カメラフォンとしての魅力をさらに引き上げたわけです。

 2018年のLGのスマートフォンビジネスは引き続き赤字でした。この年は上記2つのフラッグシップに加え、「G7 Fit」「G7 One」とフラッグシップと同じシリーズ名でミッドハイレンジモデルを出すなどして、ポートフォリオの再整理も行っています。

 2019年になると新しい動きが起きました。2月に発表されたGシリーズ、Vシリーズの最新モデルでは、ついにVシリーズが最上位モデルとなる下克上が起きたのです。「V50 ThinQ」は5Gに対応した初のモデルで、各国で始まる5Gサービスに合わせて引き合いも広がることが期待されます。

5Gに対応、2画面化ケースもあるV50 ThinQ

 またV50 ThinQはフリップカバー式の外付けディスプレーを取り付けることで、デュアルディスプレー端末になります。2画面を使うだけではなく、片側をゲームパッドにするといったエンタメ用途にも向きます。さらには5Gサービスのマルチキャストなど新しいサービスにも適応できることで、他社の5G端末には無い特徴も持っています。

 Gシリーズの最新モデルとなった「G8 ThinQ」はTOFカメラを搭載することで3D計測が可能になり、手のひらの動きでスマートフォンをコントロールするハンドジェスチャーにも対応します。使い勝手は未知数ながらも、他社にはない技術の採用でLGの先進性をアピールします。

 とはいえ同じ2月にはサムスンとファーウェイからディスプレーが折れ曲がる「フォルダブルディスプレー」搭載スマートフォンが発表されています。ディスプレーメーカーでもあるLGだけに、ブランドイメージを高めるには同じカテゴリの製品の投入が必要でしょう。2019年宙に果たして折り曲げられるスマートフォンが出てくるのか? LGの動きが楽しみなところです。

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