スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

実は日本ブランド・パイオニアのスマホが中国で脚光を浴びていた

文●山根康宏

2019年03月20日 15時00分

 2013年には新製品を次々と投入します。1月には低価格モデルの「E60w」を投入、4.3型800x480ドットディスプレーに500万画素カメラのエントリーモデルで、1000元を切る価格でユーザー層拡大を目指します。当時中国では2012年にスマートフォン市場に参入したシャオミブームに沸いており、スマートフォンの低価格化と新規メーカーに対しての期待が広がっている中でした。パイオニアのスマートフォンもそんな新時代ブームの流れに乗ろうとしていたのです。

 続く4月には上位モデルとして5型1280x720ドットディスプレーに800万画素カメラを搭載した「S90w」を投入、Eシリーズも機能を強化し「E90w」「E70w」とそれぞれ5.3型854x480ドットディスプレー、4.5型854x480ドットディスプレーモデルを追加。さらに初のCDMA2000対応モデル「E81c」も投入します。E81cからわかるように、型番の最後のアルファベットは「w」がW-CDMA、「c」がCDMA2000対応モデルとなります。

上位モデルのSシリーズ、S90w

 ディスプレイサイズの大型化は、3Gサービスの普及で写真や動画を見るユーザーの数が増えていることを反映してのことでしょう。「小型・低価格」では多数のライバルモデルが存在しますし、日本ブランドを冠した「高性能」のイメージを維持するには低スペック機の投入は得策ではないという判断があったと思われます。こうしてパイオニアのスマートフォンはわずか半年で6機種にも増えたのです。

 この勢いが続けばパイオニアブランドは蘇寧電器の主力モデルとなり、ほかの中国メーカー品と並ぶ一大ブランドに成長するはずでした。ところがパイオニアだけではなく、すべてのメーカーのスマートフォン開発戦略に大きな影響を与える製品が市場に出てきてしまったのです。それはシャオミの新製品でした。

 2013年7月にTD-SCDMA対応の「E71t」を発表し、中国最大キャリアの中国移動にも対応。中国聯通(W-CDMA)、中国電信(CDMA2000)の3キャリアすべてに対応する製品がそろいました。

 ところが同じ7月に、シャオミが超低価格スマートフォン「紅米」(RedMi)を発表します。4.7型1280x720ドットディスプレーに800万画素カメラで799元という価格で登場し、爆発的な人気となりました。紅米の登場は他社のミッドレンジ端末より安く、エントリーモデルの価格でより高性能だったのです。

シャオミショックで勢いが止まる、4G対応も効果なし

 紅米の登場は蘇寧電器のパイオニアスマートフォンコーナーへ立ち寄る客足を減らしてしまったことでしょう。初代紅米とE71tを比較すると価格は同等ながらスペックは紅米が上回っているのです。体力のないメーカーにとって紅米の登場は脅威どころか、メーカーの存在感を失わせるほど破壊力を持っていたのです。

 10月には製品バリエーションの拡大を狙ってか、初のタブレット「G71」を投入。W-CDMA対応の7型モデルでした。

 12月には大画面モデルとして「E91w」を発売します。6型960x540ドットディスプレーに800万画素カメラを搭載。同月登場のシャオミの大画面モデル「紅米Note」を意識した製品だったのでしょうが、市場で存在感を示すことはできませんでした。画面サイズはシャオミが5.5型ながら解像度は1280x720ドットと高く。そしてシャオミのほうが値段が安かったのです。何よりも中国では「紅米がお買い得」という空気に支配されていました。

6型の大画面モデルE91wを出すも、紅米Noteに勝てなかった

 2014年に入ると新製品の投入ペースが急激に落ち込みます。おそらく前年からの在庫が倉庫にあふれていたからだと思われます。4月に4月に「E81t」を投入したのが上半期唯一の製品で、蘇寧電器の展示コーナーも縮小されて行きます。また中国では2013年12月から中国移動の4Gサービスがはじまり、2月に中国電信、3月に中国聯通と3社の4Gが出そろいまいた。パイオニアとしても4Gモデルへの入れ替えが急務と考えたに違いありません。

 7月には新たな展開を図り「K68w」が発売されました。CPUがオクタコアのMT6592となり、5.5型1280x720ドットディスプレー、メモリ1GB、1300万画素カメラ+フロント500万画素という構成。シャオミの紅米にほぼ近いスペックで1399元という価格で勝負をかけました。このモデルから新たに「K」という型番となり、コスパに強いモデルとして消費者の判断を仰ぎます。

 そして9月には待望の4G対応モデル「K88L」が登場します。高性能なKシリーズを4G化させたことで他社のミッドレンジ4Gモデルと十分勝負できる製品でした。12月には「E82L」も投入し、低価格な4G機としてラインナップをそろえていきます。

K88Lはようやく登場した4G対応スマートフォン

 しかしこのころにはシャオミへ対抗してファーウェイの「Honor」、クールパッドの「大神」、レノボのAシリーズなど、高コストパフォーマンスのスマートフォンが大手から次々と登場していました。製品開発速度と生産規模で大手メーカーに打ち勝つには難しく、パイオニアのスマートフォンはここで息絶えてしまいます。

 2015年1月に登場した「M1」はモデル名を一新して勝負に挑みましたが、これが最後のパイオニアブランドのスマートフォンとなってしまいました。K88Lをアップグレードした6型ディスプレーやデュアルSIMは魅力的でしたが、大手メーカーの売れ筋端末ほどの集客効果があるとは言えませんでした。

 実質2年間だけだったとはいえ、日本ブランドのスマートフォンが中国で脚光を浴びた時期があったことは、日本人としては誇りに思いたいところです。2019年からパイオニアは新たな資本のもとに再出発を図りますが、いつかまたスマートフォン市場へ参入してほしいもの。パイオニアのブランド力に力がある限り、同社のブランドを欲する企業は数多くいるに違いありません。

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