スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典

韓国スマホ市場でたった2年だけ圧倒的な人気を博した「LUNA」

文●山根康宏

2019年04月08日 17時00分

 LUNAは韓国のTG&Coによるスマートフォンで、同社の親会社はPCを手掛けるTG Sambo。PC市場縮小は韓国でも同様であり、スマートフォン市場に進出したい同社と、全く新しいプレミアムなミッドレンジスマートフォンを欲していたSKテレコムとの思惑が一致してLUNAが生まれました。

 LUNAの主なスペックはCPUがSnapdragon 801クアッドコア2.5GHz、メモリ3GB、ストレージ16GB、5.5型1920x1080ドットディスプレー、1300万画素+フロント800万画素カメラ。背面は金属ボディーで「LUNA」のロゴが美しく彫り込まれています。このLUNA、実はシャープを買収した鴻海のスマートフォン製造会社、フォックスコンの製造。フォックスコンからは「InFocus 812」として販売されたモデルと中身は同一です。しかしSKテレコムとTG&CoはこのLUNAの特徴を「コストパフォーマンス」だけにはしなかったのです。

 2015年9月4日のLUNAの発売に先駆け、ネットやTVではK-POPアイドルグループ「AOA」のソリョンを使った神秘的なティザー広告が流されました。「今までにはない、新しい感覚のスマートフォン」というメッセージを多くの若者に植えつけることに成功したのです。そして販売されるや否や本体価格が44万9900ウォン(5万円弱)、SKテレコムの割引を受けると1万円台という低価格が受けあっという間に最初のロット3万台が完売してしまいました。

 このLUNAのヒットはそれまでのハイエンド志向だった韓国の消費者の考え方を大きく変えさせました。誰もがハイエンド端末をキャリアの固定契約割引を受けやすく買うのではなく、自分の使い方にあったスマートフォンを買うようになっていったのです。

 そしてLUNA人気は韓国でのサムスンやLGの販売戦略にも大きな影響を与えました。ちょうどサムスンは2015年に製品ポートフォリオを大整理して、Galaxy「S」「Note」「A」「E」「J」と整理したところでした。韓国市場にはそれまでGalaxy SやGalaxy Noteを重点展開していましたが、法施工後はGalaxy Aシリーズも若者向けのプロモーションが実施されるようになっていったのです。

 一方、LUNA人気に気をよくしたSKテレコムは2016年1月に「Sol」を発売。こちらはTCL製でベースモデルはアルカテルのOneTouch IDOL 3 (5.5)。同じくソリョンをCMに採用したところ、韓国中の等身大ポスターが盗まれる騒ぎも起きるほどの人気となりました。価格はLUNAよりさらに1万円安くなり、正規割引でほぼ無料ということもあり1週間で1万台が売れました。この2つのミッドレンジモデルは「ソリョンフォン」という呼び名が自然とつけられ、SKテレコムの人気商品となっていきます。

 Galaxy SシリーズやGalaxy Note、iPhoneはプロモーションをしなくとも固定客も多く黙っても売れていきます。一方ミッドレンジフォンは広告展開が売れ行きを大きく左右します。SKテレコムはLUNAに先駆けアルカテルのスマートフォンを「パリ生まれ」として売り出し成功していましたが、立て続けに低価格な端末がここまで売れるとは予想もしていなかったことでしょう。そして2016年10月には後継機「LUNA S」を発売します。

1年後に登場したLUNA S

ブームは2年で過ぎ去り、新興国で新たな展開

 LUNA SはCPUがSnapdragon 652となり、ディスプレーは5.7型2560x1440ドットと大型&高精細化。そしてカメラも1600万画素+フロント1300万画素とスペックはかなり強化されました。しかし価格はLUNAより約1万円高く、56万8700ウォンなっています。SKテレコムは一連の「プレミアム・ミッドレンジフォン」がさらに消費者に受けるだろうと、スペックアップと同時に価格アップを図ったのです。

 しかし初代ほどのヒットは生み出せなかったようです。12月には49万9940ウォンに値下げされ、翌2017年2月にはさらに39万9930ウォンと引き下げられ実質無料で販売される結果となりました。やはり当初の設定価格が高かったことで、消費者の目を引き付けることができなかったのでしょう。しかも広告にはソリョンを使わず新しい女性を採用しましたが、知名度がないことからソリョンフォンほどの注目を集められませんでした。さらにはサムスンとLGがミッドレンジフォンを強化した結果、キャリアブランド品への注目度も下がっていったのです。

 なおLUNA Sは何かと日本のキャラクターとの関連性が騒がれている韓国オリジナルと言われる「テコンV」の限定バージョンも投入されましたが、人気回復にはつながりませんでした。結局LUNAシリーズのブームは2年ちょっとで終了。韓国でLUNAが人気を集めていたのは一瞬だけだったのです。

 しかしアジアでのK-POPブームに合わせるように、LUNAの韓国での人気は海外にも発信され、東南アジアでは並行輸入品が販売され人気になる国も出てきました。フィリピンなどではLUNAの正規販売もされていました。フォックスコンとしてはこのLUNA人気をとどめておくのはもったいないと考えたのか、東南アジア最大市場でもあるインドネシアに「LUNAインドネシア」を設立し、LUNAシリーズは今も同国で販売されています。

 インドネシアにはまず初代LUNAが「LUNA V」として投入されました。2機種目のLUNA Sはスペックを高めたことからインドネシアには適さずと判断されたのか販売されず。なおフォックスコンはLUNA Sのベースモデルをシャープブランドの「Sharp Z3」として台湾などに投入しました。

インドネシア独自展開されるLUNAシリーズ、LUNA V Lite

 インドネシアでは低価格モデルが好まれることから、2機種目の「LUNA G」はLUNAをスペックダウンしたモデルとして投入されました。しかし地元メーカーとの競争が厳しいこともあり、その後は一転してミッドハイレンジモデルに転換。2018年にはメディアテックHelio P25、メモリ4GB、ストレージ64GB、6型1440x720ドットディスプレー、メインカメラ2000万+800万画素、フロントカメラ1300万+500万画素の「LUNA G8」が投入されます。

 一方、Vシリーズの新モデル「LUNA V Lite」も発売されましたが、こちらはスペックをやや下げ5.5型1440x720ドットディスプレー、1600万画素+フロント800万画素カメラ、メモリ2GB+ストレージ16GBで、背面は光沢ある流行の仕上げとしています。

 なおLUNAインドネシアのWEBページにはインドネシアの通信キャリア、XLと提携しYouTubeサービス特典などが利用できる「Xtream Ultima X」「Xtream Ultima X-Prime」の情報もありますが詳細は不明。2018年に発売されたものの、その後このシリーズの後継モデルは出てこないのかもしれません。

LUNAシリーズだがブランドは異なるXtream Ultima X

 韓国での大人気の話題も今や昔のこととなり、大手メーカーから次々とコストパフォーマンスに優れた端末が出てきている今、LUNAのこれからの道のりは難しいかもしれません。フォックスコンも自社ブランドスマートフォンをシャープブランドとして展開していますから、インドネシアへLUNAを投入する意義も薄れてきているでしょう。韓国では3Gスマートウォッチも出したことのあるLUNAだけに、IoT製品のブランドとして生き残る道もあるかもしれません。

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