週替わりギークス

食事の写真を撮ることは、約50年前には「奇行」だった

文●吉永龍樹 編集● 上代瑠偉/ASCII

2019年07月02日 17時00分

1.スーツ以外の私服を捨ててしまったため、常にスーツを着ている(2007年~)

・引っ越しを機に、試しに私服を捨ててみたところ、案外生活できた。そのまま12年暮らしている。スーツなので、冠婚葬祭も対応可能。

・キャンプやバーベキューなどで困ることはあるが、海や山、カヌーやマラソンなど、意外になんとかなる。

・『フランス人は10着しか服を持たない』(大和書房)が発売されたとき、「ついにみんな服を捨てる時代が来るかも!」と興奮したが、まったくそんなことはなかった。

 現代では、まだ奇異の目で見られることの多い習慣だが、将来的に「ものを持たない暮らし」「幸福を物品に求めない」「決断コストを減らす」「バーチャルの普及による現実の重要性の低下」などで、一般化しないだろうか……。

2.持ち物にテープライターを貼る(2008年頃~)

・2008年ころ、初めて触ったテープライターの「アナログなシールがその場で生成される」という機能に感激し、シールを大量印刷したくなる。印刷したい衝動が先にあり、とくに書くこともないので、財布、携帯、アダプタ、パソコンなど、持ち物すべてに物体の名前を貼ることにした。

・テレビを含むさまざまなメディアで、「ヨシナガさんはこんなことをしています」と、面白おかしく紹介されてしまった。今さらやめられない状況に。

・最近のiPhoneは15万円もするので、正直変なテプラを貼りたくない気持ちはある。心を鬼にして貼り続けている。

 意識したことはなかったが、服やアクセサリーで個性の差別化がまったく出せない僕も、こういう部分で自分なりに他人と違う個性を出そうとしているのだろうか? ただ、この行動は未来が来ても、おそらく一般には普及しないだろうとは思う(一般化したら、あまのじゃくな自分は貼ること自体を止めてしまう気がする)。

3.食事にほとんど興味を持たない

・物心ついたときから食事にあまり興味を持っていない。何かに集中していると食べること自体を忘れることもある。

・インスタント食品も外食もほとんどない恵まれた家庭環境だったため、味がわからないわけではない。本当に繊細な味を追求している高級料理は「すごくおいしい」と感じる。些細な味の違いもわかる。

・だが、おいしいものを食べた時の「脳の快感」が、ほかの娯楽を上回っていない感じがする。食事は口も汚れるし準備片付けなどもコストがかかる。

・食べた後の消化に関しても、脳に使うはずのエネルギーを胃に使ってしまう感じがある。それなら、もっと「脳の快感」のコストパフォーマンスが良いものがたくさんある気がする。

・食事は本来生命活動を維持するためにするので、疎かにすることは「マズローの5段階欲求」的に言ってもおかしい気がする。飽食の時代に育ったからだろうか。

 「食事に興味がなくて食べるのを忘れる」というと、現代ではまだ驚かれることが多いが、「ゲームに夢中になっていて食事を忘れた」という表現に変えると理解されることがある。僕はゲームに夢中になっているわけではない。それ以外のたくさんのことに夢中になり、食事が疎かになっているのだと思う。「飢えてどうしても何か食べたい」という経験をしていないのも関係あるだろう。

 今後、スマホを中心としたコストパフォーマンスの非常に良い娯楽が増えていくことで、「コストのかかる食事にはあまり興味がない」や「完全栄養食があれば、一生それだけを食べていてもいい」という人が増えないだろうか?

年賀状を出さなかったり、ノートパソコンを持ち歩いたりは普通になった

 以上、よく人に指摘される3つの奇行を挙げてみた。

 僕の奇行はまれに一般化することもあり、以前は奇異の目で見られた。

・年賀状をまったく出さない(2000年頃~)
・ノートパソコンを持ち歩いて電車でも使う(1998年~)
・大企業に入っても、会社に人生を預けすぎない(2004年~)

 などはだいぶ一般的になり、もはや普通になりつつある気もする。これらはどれも始めた当時は「ヨシナガ、正気か!?」と心配された行動である。

 はたして、数10年後の未来に再び今日のコラムを読んだとき、これら3つの行動がどう見えるのか? 個人的には、服と食事は一般化し、「全然普通ですね」と見える可能性も大いにあると思っている。答え合わせをするのが楽しみである。

吉永龍樹(よしながたつき)

 1979年生まれ。静岡出身。サラリーマンクリエイター。NTTレゾナント勤務。同時に、個人クリエイターとして個人ブログ「僕の見た秩序。」が開設4年で1億アクセスを記録するヒットに。以後、ネット知識を活用した作品を多数発表。「特ダネ!投稿DO画(NHK)」キャラクターデザイン、「ゆかいなエヅプトくんLINEスタンプ」などの作品で会社員兼クリエイターとして二足のわらじの働き方をしている。主な著書に『ハイブリッドワーカー(講談社)』『ゆかいな誤変換。(イースト・プレス)』など。Yahoo! WEB of the YEAR話題賞、Webクリエーションアウォード WEB人賞、アルファブロガー・アワードなど受賞多数。

協力:QREATOR AGENT

 起業家、デザイナー、研究者など、職業・業界にかかわらず、クリエイターの才能を最大化することを目的に結成されたPR会社。江渡浩一郎(メディアアーティスト)、落合陽一(メディアアーティスト/筑波大助教)、きゅんくん(メカエンジニア)、坂巻匡彦(プロダクトデザイナー)など、約170名のクリエイターが所属している(2016年8月上旬時点)。

http://qreators.jp/qreator/ichiran

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