6月にはSIMフリー機としてMEDIAS「NEC-102」を販売します。大手キャリアと組んで製品を展開していたNECとしては珍しい製品ですが、MVNOユーザーが年々増加していることを考えると、少しでも販売チャンスのあるマーケットに製品を投入することは当然の考えでしょう。2012年末には日本のMVNOユーザー数は1000万人を突破しています。
年末には海外からも注目されるスマートフォンが登場しました。ひとつはMEDIAS U「N-02E」。シリーズ初のMILスペック対応機で、防水対応ながらキャップレスの3.5ミリヘッドフォンジャックを備えるなど使い勝手も高まっています。ですがこの製品が注目を浴びたのは本体の性能ではなく、バリエーションモデルとして漫画「ONE PIECE(ワンピース)」とコラボレーションしたモデルも投入されたからです。
「N-02E ONE PIECE」は漫画の世界をモチーフにした本体カラーリングに仕上げられているほか、壁紙や専用アプリが内蔵されONE PIECEの世界を思う存分楽しめる製品になっています。注目すべきは付属品で、漫画に出てくるサウザンドサニー号の船の形をした充電台が付属します。さらには麦わら一味のキャラクターピンも同梱されるなど、 ONE PIECEファンにはたまらない製品になっています。限定販売台数は5万台でした。ただし販売価格が高すぎて売れ行きはいまひとつだったとも。これは3月に発売したヱヴァンゲリヲンとコラボしたシャープ製の「SH-06D NERV」が大人気となったことから、その夢を再びと考えた値付け設定をしたからと考えられます。
そしてもう1製品、ドコモが展開するディズニーモバイルからはDisney Mobile on docomo 「N-03E」が発売になりました。2012年冬モデルのディズニーモバイル製品はこれが唯一の製品で、ワイヤレススクリーンボックスが同梱されN-03Eの画面表示をワイヤレスで簡単にTVに投影することもできました。
なおN-02E ONE PIECEとN-03Eはそれぞれキャラクタータイアップ品ということからか、MEDIASのブランド名はつけられていません。
2画面スマホやキーボード機を出すも、事業撤退を発表
バリエーションに富んだ製品を次々に送り出したNECは、2013年についに奥の手を出してきました。それは横に折りたたむ形状のスマートフォンで、2つの画面をヒンジで接続した2画面スマートフォンでした。2013年3月発売のMEDIAS W「N-05E」は4.3型ディスプレー2枚を開くと5.6型になる変形端末。2枚のディスプレーは外に開くので、折りたたむと片面を普通のスマートフォンスタイルとして使うことができました。
実は2画面スマートフォンはN-05Eが最初ではなく、2011年に京セラがアメリカで「Echo」を発売しています。しかしEchoのディスプレーは3.5型が2枚で、開いても4.7型と2画面を生かすには画面サイズが少々小さいと感じられたものです。それに対してN-05Eは開けばタブレットクラスの大きさとなり、使い勝手も十分な製品でした。UIに若干癖があるものの、閉じて開けるギミックだけでも楽しめるスマートフォンだったのです。
N-05Eで世間をあっと言わせ、注目を一気に集めたことでNECのスマートフォンのブランド力は大きく高まりました。しかし、2013年5月のドコモによる夏モデルの発表会は、日本のほぼすべてのメーカーを地獄に落とすものとなったのです。ドコモは「ツートップ戦略」をとり、Xperia(Xperia A SO-04E)とGalaxy(GALAXY S4 SC-04E)の2つのモデルを他社よりも重点的に販売することを発表しました。つまりこの2製品の販売が優遇され、他のメーカーは2軍扱いとなったのです。
2018年の今なら各メーカーがSIMフリースマートフォンを自社ブランドで自由に販売していますし、量販店でもSIMフリーコーナーは活況を帯びています。しかし2013年のスマートフォン市場はキャリア販売が主流であり、SIMフリー端末も数えるほどしか登場していませんでした。日本のSIMフリー市場を活発化させたASUSの初代「ZenFone 5」が登場したのは翌2014年です。
スマートフォンの販売チャネルを広げてきたNECとはいえ、事業の中心はドコモ向け製品の開発にありました。4月に投入したばかりの2画面スマートフォンも、夏以降はツートップ端末が優先されるため販売数の増加が見込めなくなったのです。夏モデルとして投入されたMEDIAS X「N-06E」は世界初のヒートパイプ冷却機能を搭載しましたが、それも大きな話題にはなりませんでした。
その結果、NECは大きな決断をします。2013年7月にNECカシオモバイルコミュニケーションズはスマートフォン事業の撤退を発表しました。自動車電話時代から携帯電話市場に関わってきた同社のこの発表は、キャリアと共存してきた日本の携帯電話ビジネスの終焉を意味するものでもありました。すでにドコモが9月からiPhoneを発売することはリークされており、ここでの撤退はそれを見越したものでもあったのでしょう。
実はNECは2011年にレノボとパソコン事業を合併しており、スマートフォン事業も同社との提携・合併の道を模索していたと言われています。しかし最終的には折り合いがつかず事業撤退となったとのこと。2013年のレノボと言えば、金属ボディーの「K900」を出すなどスマートフォン事業が好調なころ。NEC合併のメリットはなかったのでしょう。
そして2013年9月にアップルが「iPhone 5s」「iPhone 5c」を発表すると、ドコモも取り扱うことをアナウンスしました。1機種だけならばまだしも、ハイエンドとミッドレンジという2つのモデルを出されては、NECとして勝負は無かったに違いありません。
なおNECブランドのスマートフォンとして、海外では6月にアメリカのAT&T向けとなる「Terrain」が発売されています。QWERTYキーボードを備えた縦型端末で、一般消費者向けではなくB2B、業務用の製品です。企業での一括導入が見込めるため一定数が生産されましたが、本家のスマートフォン事業撤退を受けてかこの1機種で終わってしまいました。なお一部は海外のスマートフォン販売業者にも流れ、キーボード付き端末を好む日本のマニア層にも売れたようです。
日本の携帯電話市場の成長を技術面からも支えてきたNEC。しかしスマートフォンという海外の流れに乗り遅れたのは、国内事業だけを重視していたからかもしれません。2014年にはNECカシオモバイルコミュニケーションズからNECモバイルコミュニケーションズとなり、2016年には親会社に吸収され、元のNECの一部門となりました。フィーチャーフォンも2014年の「N-01G」が最後となっています。「N」のスマートフォンが再び復活する日はくるのでしょうか? 日本人としてはぜひとも願いたいところです。