iOSやmacOSの進化が見えた! 「WWDC21」特集

iPhoneを選ぶ理由が「アップル製品を使っていれば安心」という時代が来るか

文●石川 温 編集●飯島 恵里子/ASCII

2021年06月09日 09時00分

 ここ最近、アップルの新機能を取材していると、「ユーザーの個人情報って、そんな風に抜き取られていたのか」と驚かされることが多い。

 例えば、iOS 14.5ではアプリを起動すると「●●が他社のAppやWebを横断して、あなたのアクティビティを追跡することを許可しますか」と聞かれる。その際、ユーザーは「許可」もしくは「Appにトラッキングされないように要求」を選ぶことができる。

 これまでアプリは、他のアプリやウェブサイトを横断しユーザーのネットでの行動履歴を結びつけ、個人の興味のある分野の広告がオークションによって売買されるようになっていた。

 そのビジネスモデル自体はもちろん否定されるものではないが、アップルとしては「ユーザーにあらかじめ告知すべき」というスタンスで、透明性を確保するような取り組みをしてきている。

 今回、WWDC21で発表となったiOS 15やiPadOS 15、MacOS Montereyでは、「Mail Privacy Protection」という機能が追加される。

 ほとんどの人が宣伝的な内容のメールを毎日のように受け取っているだろう。そうしたメールの中には、開封した瞬間にいつメールを開いたか、さらにユーザーのIPアドレスを送り主に送り返すものが存在するという。つまり、メールでもユーザーのIPアドレスが特定されてしまうのだ。メールの内容から判断し、興味のありそうな広告を、そのユーザーが閲覧しているウェブに表示するという連携も可能になるのだ。

 IPアドレスによってはある程度の位置情報も特定することもできる。その場所にあった情報を、これまたWeb広告に出すこともできるだろう。Webを見ていて「なんとなく似たような広告ばかりが表示されるな」「さっき、メールで見たような内容の広告がサイトで表示されるな」とちょっと気持ち悪く感じることがあるが、実はこうした仕組みによって、我々ユーザーが特定されているのであった。

 そこでMail Privacy Protectionでは、IPアドレスや開封情報、位置情報などを隠すことが可能になる。これにより送り主にユーザーを特定されないようにすることができるというわけだ。

 アップルではiCloud+というiCloudの拡張版に「Private Relay」という機能を搭載する。これはユーザーがネットにアクセスする際、ウェブサイトにユーザーのIPアドレスなどを渡さないことで、個人を特定させないというものだ。仕組み的にはユーザーとウェブサイトの間にアップルと第3者の2つの経由地を設置。途中で一時的なIPアドレスを生成し、ウェブサイトにアクセスすることで、誰がどのウェブサイトにアクセスしたかわからない状態で通信を行うようにしている。

 また「Hide my email」という機能では、ユーザーがランダムなメールアドレスを作成することができる。メルマガの登録など、普段、使っているメールアドレスを登録したくないときに、ランダムなメールアドレスを利用でき、そこで受信したものがちゃんと自分のメールアドレスに転送されるというものだ。

 個人を特定して欲しくないときには便利に使えそうだ。

 アプリやメールがいかに普段から自分のことを追跡してきているのか、というのを改め知ってしまうと、ネットを使うのがちょっと怖くなってくる。このご時世にマスクをつけずに外出し、人混みのなかに飛び込んでいく感覚に近いのかもしれない。数年前まではそれが日常だったのが、いまでは見えない恐怖におびえなくてはいけないようになってしまった。

 そう考えると、アップルのプライバシー保護に関する新機能は、難しいことは考えずに我々のことを守ってくれるような気がしてならない。まさに発症しても重症化しないワクチン的な存在といえそうだ。

 今後、「とりあえず、アップル製品を使っていれば安心」という認識でiPhoneやiPadが選ばれる時代が来るかもしれない。

 

筆者紹介――石川 温

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)、『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

 

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