前田知洋の“マジックとスペックのある人生”

USB充電器を選ぶときのポイント、使うときのコツ

文●前田知洋 編集●ASCII

2022年06月21日 16時00分

ACアダプターが付属しないデジタルガジェットが増えてきた

 最近、デジタル機器を買ってもACアダプターが付属していない……。そんなことがフツーになってきました。

 たとえば、筆者は先日、Apple Watchを購入。やはり、同梱されているのは充電ケーブルだけ。ステンレスのバンド(ベルト)とAppleCareで、10万円以上の価格でしたので、ちょっと寂しい気がしないでもありません。

 ACアダプターを同梱しなくなった歴史を調べてみると、各社の独自プラグから、USB接続の充電に偏移した頃が始まりのようです。

 おそらく、メーカーの言い分としては「PCに直接繋いでもいいし、USBで充電するアダプターぐらい、家にあるでしょ?」ということなのかもしれません。なお、アップルは、ACアダプターを付属させない理由として「環境向上への目標を掲げ、その達成に向けての取り組み」としています(Apple USB 電源アダプタについて - Apple サポート)。

 しかし、USB充電ができるようになった当初とは違い、現在ではUSB PD(Power Delivery)など、規格が多種多様に。スマホなどをより早く充電できるということで、「USB(急速)充電器」と呼ばれる製品も増えています。どれを選んでいいかが、簡単にはわかりにくくなってきました。

ピンからキリまであるUSB充電器、どれ選んだらいいの?

 そんな理由から、電子機器を買うときはUSB充電器も一緒に買うのが習慣になってきました。しかし、USB AやUSB Type-C、差込口の数や出力ワット数などもさまざま。100円ショップでも売っているので、まさにピンからキリまで……。高価格帯では、「GaN(窒化ガリウム)」を使った新しいタイプもあります。

筆者がApple Watch用に新たに購入したGaN(窒化ガリウム)チップ採用の「ANKER Nano II(45W)」(直販価格3990円)。アンカー独自技術の「PowerIQ 3.0」も搭載

USB充電器を選ぶポイント

 「コンセントにつなぐから心配……」と、つい高いものを選んでしまいがちですが、選ぶポイントがいくつかあります。そのポイントを下に挙げてみました。

○充電する機器が必要とする電力(ワット数)より30%ほど高いものを選ぶと長持ちする
○GaN(窒化ガリウム)とSi(シリコン)チップの違いは効率と熱の強さ
○急速充電はメーカーや機器によって独自規格がある

 ACアダプターの役割は、コンセントの100V(日本)〜240V(海外)の交流(AC)を直流(DC)に替え、その機器に合った電圧に変換すること。しかし、その変換効率は100%にはならず、ノイズや熱になって失われます。給電中のACアダプターに触れると温かく(場合によっては熱く)感じるのは、そんな理由からです。

 USB充電器の内部には電子回路が入っていて、コンセントの電圧と機器にあわせて電圧などを調整をしながら給電しています。ところが、電子部品、とくにシリコンチップは熱に弱い。新たに普及し始めた窒化ガリウムチップの製品は価格が高めですが、シリコンより高効率で熱くなりづらく、高寿命とされています。

 とくにスマホやノートPCを使いながら充電すると、作業によっては内蔵バッテリーだけでなく、USB充電器に負担をかけることになりかねません。そんなことから、筆者がUSB充電器を選ぶときは、機器の電力スペックより3割ほど大きめのものを選ぶようにしています。

PPS? EPR? 規格と機能の違い

 USB充電器の規格やスペックが分かりにくい理由は、その歴史にあります。給電だけをピックアップすると、USB 1.0〜2.0は、5V/0.5A(2.5W)。USB 3.0は5V/0.9A(4.5W)ですが、給電企画として2007年にUSB Battery Charging (USB BC)が加えられ、それを含めると7.5Wまで給電できるようになりました。

 そして、新しい端子規格としてUSB-Cが登場すると、大容量の電源供給に対応する規格が登場。USB Type-C Currentなら5V/3A(15W)、USB PD(Power Delivery)なら最大100Wまで給電できます。さらに、次世代のUSB PD(EPR)は240Wまで給電できることが、2021年に発表されました。

 さらに状況を複雑にしているのが、USB充電器の機能。その1つ「PPS(Programmable Power Supply)」は、USB PDのバージョン3.0のオプションとして用意される高速充電規格。スマホやタブレット端末に20mV/50mA刻みで電圧と電流を調整しながら給電する機能です。

 似た機能に「PowerIQ」があります。これはアンカー社独自の機能で、アップルやサムスンなど、接続先の機器のメーカーをアダプター側が判別し、それぞれの急速充電やバッテリー保護機能に対応するとしています。

 USBの規格の変遷とUSB充電器の機能の違い。それを知っておくと、USB充電器選びがスムーズになるかもしれません。

USB充電器を上手に使うポイント

 USB充電器、ACアダプターは「熱を発生させやすい」にも関わらず、「熱に弱い」という矛盾した機器でもあります。スマホなどに比べ、脇役と思われがちですが、できるだけ長く使いたいのは他の電化製品と同様です。機器の消耗を避けるためのポイントがいくつかあります。

 ○テーブルタップに連続して差さず、1つおきにする
 ○風通しのよい場所に設置する
 ○普通のプラグより熱を持ちやすく、重みで接触不良になりやすいので、たまに点検や掃除をする

隣接して温度が上がらないようにコンセントに差すときは1つおきに

密集させず便利な短い延長コード

 「急速充電が遅い気がする……」など、機器の不調だけでなく、接触不良が火災などの原因になりかねないUSB充電器。新しい機器を導入するときだけでなく、いま一度注目してみてはいかがでしょうか。

 余談ですが、マジックのタネを明かそうと一生懸命にマジシャンを見ていても、脇役のアシスタントが意外に大事な役割をしている……というケースがあります。そういったことは、マジックや推理小説だけでなく、デジタル機器を含めて、大事な視点だと筆者は思っています。

マジックはアシスタントが肝心!?マジックのタネを読者に妄想させる古書から。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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