山谷剛史の「アジアIT小話」

日本で売られたiPhoneがベトナムに大量輸出されている!? その実態とは?

文●山谷剛史 編集● ASCII

2023年03月21日 12時00分

外国人向けの中古スマホショップが国内で見かけるように
なにはともあれスマホは必要 ニーズに対応している

 日本国内でも、ベトナム人は身近になった。全国にベトナム料理屋やベトナム食材屋ができ、大都市のコンビニではベトナム人スタッフをよく見る。そして最近では、ベトナム人による中古スマートフォンショップを見かけるようになっている。

ベトナムでの風景。ベトナムでももちろん、デリバリーなど日々の生活にスマートフォンは欠かせない

 筆者が確認しただけでも、東京では秋葉原や高田馬場や新小岩、埼玉では西川口といった外国人の多いエリアで確認でき、関東以外でも同様に外国人の多いエリアで見られる。Facebookで販売をしたり、自前でサイトを立ち上げて販売している例もある。

 中古スマートフォンショップである以上、外国人でなくてももちろん購入できる。売られている商品はスマートフォンだけでなく、タブレットやノートパソコンもある。価格は、筆者が店内で見かけた例では、箱が山積みされたiPhone 8 64GBモデルが1万7000円、iPhone 13 128GBモデルが8万5000円と、最安値ではないものの高すぎでもない金額だ。

 ほかにも多数の商品を扱っていて、「予算はこれくらい」とか「スペックはこの程度のAndroidスマートフォンが欲しい」「iPhoneが欲しい」などと言えば対応してくれるはずだ。筆者が訪問した店では応じてくれたが、言葉が通じなければ翻訳アプリで話してもいい。ベトナムでのスマートフォン購入の疑似体験ができるだろう。

 また買取も行なっている。筆者は国内のベトナム系中古スマートフォンショップ前で様子を見ていたら、店員から声がかかり「iPhone 14 Pro Maxを持っていたら買い取らせてください、高いですよ」と言われたことがある。その背景には技能実習生や留学生などで来日したベトナム人の増加がある。スマートフォンさえあれば、異国の日本でも楽しくなり不安はだいぶ和らぐ。そのスマートフォンを日本語が不自由なベトナム人でも購入できて、相談に対応してくれると言うことで、ニーズもあって増えているという一面はあるのだろう。

ベトナムでのアップルのシェアは4位
でも実利用ではトップ 正規ではないルートで入っている?

 ここで統計を見てみる。調査会社のIDCによれば、2022年のベトナムのスマートフォン市場では、アップル製品、つまりiPhoneは13.1%のシェアで4位。1位はサムスンで36.6%、そしてOPPO、Xiaomiと続く。ところが現在使っている製品のシェアがわかるStatcounterでベトナムの状況を見てみると、iPhoneの割合は30%近い29.61%もあり、ベトナムでの出荷台数で首位のサムスン(26.48%)も上回る。つまりiPhoneはそこまでは売れていないはずなのに、実際には一番使われているという奇妙な状況となっている。

IDCのデータより、ベトナムのスマートフォンシェア

一方、こちらはStatcounterによるベトナムのスマートフォン利用実態

 そう言えば、今月初めにベトナムを訪問したときは、スマートフォンショップでiPhoneを扱ってない店はほとんどなかった。これはコロナ禍前のベトナムのショップを思い出しても、iPhoneを扱う割合はずっと高くなっている。そして多くの店が中古を扱っていた。やはりiPhoneは突出した人気があるようだ。

 「iPhoneがなぜ人気なのか」というのはベトナムにも多数の記事がある。「ベトナム人は西洋人より形式的要素を重視します。多くの人がモバイルを宝飾品や品位を示すためのツールと見なしています。これはiPhoneが非常に人気になった理由の1つです」「多くのユーザーは、iPhoneを手に持っているときは、未知のブランドの製品や“中国製”のスマートフォンを持っているよりも自信を持っていることが多いと述べています」といった内容を見ることができ、つまりは持つことでメンツを満たし、また見た目や品質がよく、さらにはiOSが更新されて最新環境で使える、といった意見がよくネットにあがっている。

日本向けのiPhoneは品質が高いと見られている?
日本から流れたiPhoneがベトナムで売られている可能性

 一方で日本のキャリアショップから販売されたiPhoneが、ベトナムで流通しているというベトナムの報道も数多く確認できる。

 「現在、多くの日本製スマートフォンがベトナムの携帯電話市場を席巻しており、多くの店舗で人気を博し、たくさんユーザーから求められています。日本国内で通信事業者を通じて流通・販売されているモデルです。同じモデル、バージョン、メーカーで、最大数百万ドン(200ドンで1円。つまり円換算は200分の1)安くなる可能性があります。評判の良い配送会社による配送が一般的な形式で、料金がかかりますが3日~1週間はかかります。知人や家族を使うのが最も安全で、最短数時間で家まで届き安いのが特徴です」。

 「iPhone 12シリーズの後、日本市場からのiPhone 13モデルがラップトップディーラーによってベトナムに輸入され、低価格で販売されました。22年4月初旬にベトナムに送られたiPhone 12と同様に、最近登場したiPhone 13シリーズはすべて“国際製品”で日本市場のJ/Aコードを持っています。製品バージョンはすべて128GBの内部メモリを搭載したモデルです。日本のキャリアは、サービスを使用するために別のユニットから切り替える顧客に、わずか1円の象徴的な価格でiPhoneを喜んで提供します。日本からのiPhone 12または13は、日本のキャリアが消費者の需要を刺激し顧客を引き付けていて、それらが最近ベトナムに多く持ち込まれています」。

iPhoneの特定機種が積まれているベトナムのショップ

もちろん正規品もあり、量販店ではiPhoneは人気だ

 「現在、iPhoneの価格は約1800~1900万ドンです(約10万~10万6000円)。正規店では、ベトナム市場で流通しているiPhone 13 128GB版が約2100万ドン(約11万8000円)、最安値でも2000万ドン(約11万2000円)となっています。国際版と正規品には100~200万ドンの差はありますが、国際版にはアップルのベトナムでの保証はありません。これは1250万ドンから提供された以前のiPhone 12よりも、競争力の低い販売価格です」といった具合だ(https://thanhnien.vn/xuat-hien-iphone-13-gia-re-tu-nhat-ban-do-bo-viet-nam-1851452623.htm)。

人気のiPhone 14 Pro MAXは2899万ドンもする(約16万円)

 もうわかるだろう。日本のキャリア向けのiPhoneがベトナム向けに送られ、ベトナムでの正規価格よりも安く販売されているのだ。こうしたベトナムメディアの記事が「国際版iPhone(iphone quoc te)」か、もしくは日本版を示す「J/A」で検索するとゴマンと出てくる。記事では日本版の欠点として、ベトナムで故障したときに面倒なことになるほか、写真を撮るときシャッター音が鳴ることを挙げ、逆に日本版の長所としては、日本向けだから品質が高いに違いない(?)という点も紹介されている。このあたりは中国と対日本の認識がよく似ている。

 日本はキャリアによって、本体を割引販売している少数派の国で、かつ2021年以降SIMロックが廃止され、iPhoneを安価にあまり真っ当ではない方法での入手もできる国になってしまった。それがすべてではないにしろ、日本にベトナム系スマートフォンショップができたのもそれが一因とはいえよう。先ほどの調査結果のようにベトナムの販売シェアと利用シェアが著しく異なり、おそらく数百万台単位の外国のiPhoneがベトナムに流れ、特に日本向け製品が人気となっているというわけだ。

 ベトナム人だろうとどんな属性だろうといい人もいれば悪い人もいる。不良ベトナム人を追ったルポ「北関東「移民」アンダーグラウンド(文藝春秋)」著者の安田峰俊氏はこう語る。

 「法令遵守意識が低い『ダメなベトナム人』の“割合”は高くない。ただ、2022年6月末時点で在日ベトナム人は48万人いるので、絶対人数はそれなりに多いです。在日ベトナム人は留学を含め、多くが就労目的で日本にいる。このうち職場を逃亡して不法滞在化した技能実習生の一部や、留学生の一部、さらに不法滞在者のうちでコロナ禍による帰国困難からなし崩しで在留を認められた特定活動者の一部が不良化している。彼らは仲間同士で集住することもあり、仲間を通じてギャンブルや軽犯罪などの泥沼に絡め取られることが多い」。

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 今回ベトナムを挙げたが、ベトナムほどではないがほかにもさまざまな国籍のモバイルショップを国内で見るようになった。移民社会になる中で、こうした問題とも向き合う必要があろう。

 

山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク

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