◆Xperiaみたいなプロ向けデータ転送機材
◆ソニー「ポータブルデータトランスミッター PDT-FP1」
ソニーから、報道写真や放送映像の撮影現場で安定した高速通信とシンプルなワークフローを実現するためのデバイスとして、「ポータブルデータトランスミッター PDT-FP1」が登場しました。発売は3月22日で、価格は15万9500円。
どう見てもスマートフォンにしか見えない「PDT-FP1」は、カメラ用のアクセサリーというカテゴリーになります。何に使うものかというと、ソニーのデジタル一眼カメラαシリーズと接続して、モバイル通信を使って映像や静止画などを伝送するためのものです。
業務用途で、報道の現場からただちに写真を送る必要があるといった場合に使う、もしくはライブストリーミングのようなクリエイターに向けたものとなります。
そう聞くと、なんだか小難しくて自分とは無関係と思ってしまいがちですが、全世界のガジェッターに刺さる究極のスマホかもしれないポテンシャルを秘めているのです。
◆基本的な仕様は「Xperia 5 V」に近い
ソニーがAndroidの端末を出したとなると、Xperiaシリーズと何らかのかかわりがあるんじゃないか? と思っていたら、最初の起動からしてXperiaっぽい……。ホーム画面はもちろん設定画面も、細かなディスプレーの仕様などいたるところまで、Xperiaですよ、これは!
もともと、プロ向けに出していた「Xperia PRO」がありましたけど、なぜコレを「Xperia PRO II」と命名しなかったのかはわかりません。
基本的な仕様を確認すると、SoCにSnapdragon 8 Gen 2、メモリー8GB、ストレージ256GB。1TBまでのmicroSDカードに対応。6.1型の有機ELディスプレーを備えて、OSはAndroid 13。 Xperiaシリーズで言えば、現行モデルの「Xperia 5 V」と同等のスペックになります。では、どうしてこんなにボディーが大きいのか? それには理由があります。
国内外の5Gミリ波帯やSub 6通信、スタンドアローン方式の5G通信、ローカル5Gといった幅広いバンドに対応するだけではなく、大きくなっているぶん独自のアンテナ構造や配置ができ、通信特性を高めてより高速で低遅延な通信ができる内部構造になっているのです。物理SIMとeSIMのデュアルSIM対応で、SIMを切り替えて使うこともできます。
データ通信が途切れていないか、通信状況を確認できる「Network Visualizer」アプリも、もともとは「Xperia PRO」にプリインストールされていたもの。
SoCに高い負荷がかかると熱くなりがちな昨今のスマホにあって、外部機器に頼らず自力で冷却することで高いパフォーマンスを維持できるのも特徴です。最大40度の環境でも熱遮断を防ぐ仕様で、夏場の屋外ではかなりの威力を発揮してくれることは間違いありません。
スペックを見て、これなら重いスマホゲームでも快適に遊べるじゃないか! と思った人も多いハズ。実際「原神」をインストールして遊んでみましたが、かなり安定してプレイできました。そりゃXperia 5 Vと同等なら問題ないですよね。
◆有線LANやHDMIなど豊富な端子が魅力!
そして、なんといっても魅力的なのが豊富な端子類。LAN端子、HDMI Type A入力端子、USB Type-C端子は2つ装備。USB端子はデータ転送用に加えて、充電用もあってモバイルバッテリーなどを利用すれば長時間使い続けることができます。落下防止用のストラップホールや、三脚ネジ穴も備えて、機材との連携も容易です。
最近のスマホはUSB Type-Cから変換すればLANもHDMIも使えますが、そのために別途アダプターやハブを用意する必要があります。そんなオプションパーツも不要で、確実につなげられるということが「PDT-FP1」の最大のメリットとも言えます。
スマホと比べてあえて困ることといえば、当然こうした端子類が多いことや通気口があいているがゆえに、防水機能がない事です。また、背面にあるカメラは2Dコードスキャナー(二次元コード読み取り用)に用途を限定しているため、エモい写真を撮るといった使い方には向いていません。そして、音声通話には対応しないので、電話としても使えません(LINEアプリを介しての通話は可能)。
◆専用アプリで安定して高速にデータをアップできる
ついスマホ的な視点でばかり見てしまいがちなので、改めてカメラと連携してどういったところに特化しているのか? 実機で試してみました。
これは便利だと思ったのは「PDT-FP1」とスマートフォンを有線LANケーブルで接続して、FTPサーバーに画像をアップロードできる「Transfer&Tagging」アプリとの連携です。これは仕事場にあるサーバー(もしくはレンタルサーバーなど)に、自動的に写真を送り込める効率をさらに上げてくれるアプリです。
現実問題として、データ転送には上りの通信速度に大きく影響されます。そのために、5Gミリ波や電波を受信しやすくなったボディーがより優位にはなるのですが、良質な通信環境ばかりではありません。モバイル通信の上りの速度が遅いと、データの大きい画像を何枚もアップするのは非常に時間がかかってしまいます。
その場合「Transfer&Tagging」アプリの機能から、転送する画像のデータ量やサイズを細かく変更して、必要最低限のデータにすることでアップロードのレスポンスを上げることもできます。
また、アプリの機能は便利だけど、撮影しているとカメラの横から有線のケーブルがいつもつながっているというのがどうしても煩わしいと思ってしまいます。使っていてわかったことですが、ケーブルはつなぎっぱなしの必要はありませんでした。
結論を言えば、何も接続せずに思う存分今までどおりカメラで撮影すればいいのです。撮影が一通り終わったときに「PDT-FP1」と有線LANケーブルでつなぎます。すると、「Transfer&Tagging」アプリが自動的に立ち上がって、カメラから「PDT-FP1」に画像が転送され、そして先程設定した適切なデータ量にリサイズされた画像データを、FTPサーバーにアップロードするという一連の作業が、すべて自動化できてしまいました。
しかも、アップロード中は転送状態を視認できるので、進捗状況も把握しやすいのです。おそろしく便利すぎて、今すぐにでも自分の撮影環境に導入したくなりました。
◆HDMI Type Aのおかげで安定感が大幅に向上
そして、もう1つのキモとなるHDMI入力端子。「Xperia PRO」にもHDMI入力端子は備えていたものの、Micro HDMI(HDMI Type D)だったので接続には一抹の不安がありました。けれど「PDT-FP1」は、標準のHDMI Type A端子になってくれたおかげで、ケーブルの選択肢も、接続部の強度の安心感も格段に上がりました。
入力できるHDMIの規格は、最大4K 60pまで対応(YCbCr 4:4:4/4:2:2/RGB)。やろうと思えば(上り速度が担保できれば)、4K60pでのライブストリーミングもできてしまいます。
もちろん普通のスマートフォンでも、USBケーブルを利用(USBストリーミング)して映像を映し出すことはできますが、これだと動画モードでしか利用できません。「PDT-FP1」のHDMIでの接続であれば静止画撮影時のモニターとしても利用できるのです。
ただ1つ気になったのは「外部アプリ」に本来なら備わっているバックアップ録画が省かれてしまっているということ。この点については、カメラ系イベント「CP+2024」のソニーブースで開発者に確認したところ、搭載されていないのは確かなようでした。ですが、バックアップ録画の機能が欲しいという声が多くあって、検討したいとの解答を得られたので、今後アップデートで実装される可能性に期待しましょう。
【まとめ】万人向けではないが、ガジェット好きをくすぐるモデル
「PDT-FP1」は、ソニーのカメラを使っているプロ向けのアイテムで、万人に向いたものではありません。ですが、カメラを撮影していてスマホと連携しようにも、どうにも不便だった接続や発熱といっった課題を「PDT-FP1」が解決してくれることも事実。
筆者的には実際に取材中にどうにかしたかった画像転送の答えがここに見つかったような気がします。そして、あくまでもカメラアクセサリーという立ち位置だとわかってはいても、中身はれっきとしたAndroidスマホ。いや、Xperiaの生まれ変わりです。かつて、Xperiaをゲーミングで快適に使えるように登場した「Xperia Stream」を内包した改良型に近く、自前で冷却機構をもったゲーミングスマホとしての使い道もあるんじゃないでしょうか。
ポータブルデータトランスミッター「PDT-FP1」というネーミングがどうにも覚えにくいので、筆者としては「Xperia PRO II」で良かったんじゃないかという気持ちが最後まで拭えませんでしたが。
変態ガジェットの代表モデルとして、買い増ししてみても良いかもしれません。