ロスレスオーディオと低遅延伝送のメリット
USBオーディオは、最高48kHz/24bitのロスレス再生に対応します。AirPods MaxのBluetoothオーディオ再生も、一般的なAACコーデックの範疇でベストチューニングに練られているため十分に高音質です。48kHz/24bitロスレスのサウンドに対する甲乙は付けがたく、実際に有線・無線の違いによる音質差はあまりないと感じました。
ただ、ワイヤレス再生時に起こりがちな、通信速度の低下や干渉に起因する音質の劣化が、有線リスニング時には起こらない「安心感」は格別です。腰を落ち着けながら、AirPods Maxでじっくりと音楽や映画・ドラマなどを楽しみたい時にはUSBオーディオがオススメです。
AirPods MaxをiPhoneにMacなどのデバイスにケーブルでつなぐと、Bluetooth伝送に起因するレイテンシ(遅延)が大幅に解消されます。アップルは「デバイスの内蔵スピーカーと同等レベルの超低レイテンシーを実現する」とその差を表現しています。わかりやすく言えばモバイルゲームのコントロールパッドの操作に連動する効果音、あるいは楽器アプリのソフトウェアキーボードによる演奏音が一歩遅れて聞こえてくるストレスから解放されます。
音楽制作や楽器演奏のモニターヘッドホンになる
今回のAirPods Maxのソフトウェアアップデートに合わせて、アップルはオーディオ出力と入力のどちらにも対応する双方向のUSB-C/3.5mmオーディオケーブルを発売しました。このケーブルがあると音楽制作や楽器の演奏にもAirPods Maxを活用できる幅が広がります。
筆者はヤマハのサイレントギター、SGL200シリーズを仕事の合間に爪弾く時間を心の支えにしています。本機には低遅延のBluetoothオーディオ出力機能はないので、普段は3.5mmヘッドホン出力に有線タイプのヘッドホンを接続して練習しています。
今までも、Bluetoothトランスミッターを使えばAirPods Maxを接続することはできたものの、弦をかき鳴らした直後にヘッドホンから聞こえてくる演奏音がワンテンポ遅れる不快感がありました。USB-C/3.5mmオーディオケーブルでつなぐと、弦にピックを当てた瞬間に演奏音が耳に飛び込んでくるような低遅延伝送が実現します。
アップルによると、macOSとiPadOSに対応するアップルの音楽制作ソフトウェア「Logic Pro」も、AirPods Maxの有線接続に対する最適化が図られたそうです。伝送遅延の問題が解決されるだけでなく、空間オーディオやダイナミックヘッドトラッキングの効果がリアルタイムにモニタリングできる制作環境は他に類を見ないものです。イマーシブな音楽コンテンツの作曲、ミキシングの作業などが容易になります。
その結果、プロのミュージシャンがAirPods Maxでモニタリングしながら作った音楽や映画のサウンドトラックなどの音源を、AirPods Maxのユーザーは「クリエイターの意図どおり」に楽しむことができます。
アップルではサードパーティのソフトウェアデベロッパ向けに、空間オーディオやダイナミックヘッドトラッキングに対応するためのAPIを提供しています。Logic Pro以外の音楽制作プラットフォームでも、AirPods Maxをイマーシブコンテンツ制作のリファレンスとして使える環境が今後も広がることが期待できます。
Apple純正品以外のアクセサリーも使える
そのほか、AirPods Maxの有線接続アップデートに関して、実機を取材しながらわかったことをまとめて紹介します。
USBケーブル(Type-C)、ならびにUSB-C/3.5mmケーブルはアップル純正品ではないサードパーティーのアクセサリーも使用できました。Beatsの「Beats Studio Pro」も同じロスレス対応のUSBオーディオと、USB-C/3.5mmケーブルによるリスニングが楽しめるワイヤレスヘッドホンです。本機に付属するケーブルもふつうに使えました。
アップル純正品のUSB-C/3.5mmケーブルは価格が6480円です。出力ポートと入力ポートのどちらにも対応する双方向ケーブルなので、USB-Cの側をiPhoneにつなぎ、3.5mmコネクタを搭載するBluetooth非対応の有線ヘッドホンをiPhoneで活用する楽しみが広がるので、1本持っておいて損はないアクセサリーです。
iPhoneやiPadをAirPods MaxにUSBケーブルで接続するとヘッドホンにバッテリーが供給されます。Bluetooth接続とダブルでバッテリーを消費している状態に見えますが、Apple Musicで約1時間のアルバムをストリーミング再生してみても、iPhone 16 Proのバッテリーゲージは2%ほど減った程度で、Bluetooth単体でリスニングした場合と大きく変わる様子はありません。
今回のUSBオーディオのアップデートには、まだApple Musicなどで配信されているハイレゾロスレス楽曲への対応が含まれていません。ロスレスオーディオの上限は48kHz/24bitです。おそらくアップルはクリエイターとリスナー、双方からのニーズを把握しているはずです。こちらもすでに対応を検討していることを期待しましょう。

筆者紹介――山本 敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。