iTunesで映画のレンタルを開始
3つ目の発表は、iTunesを中心としたムービーの話題だ。ジョブズCEOは、「この2週間で、iTunes Storeで40億の曲が売れました。クリスマスシーズンは、たった1日で2000万曲の売り上げです。さらに1億2500万本のテレビ番組と、700万本の映画が売れました。そこで私たちは、映画コンテンツを配信するのにもっといい方法があるのではないかと考えたのです」──と、iTunesを使った映画のオンラインレンタル「iTunes Movie Rentals」の開始を発表した。
「音楽のレンタルはしません。なぜなら、音楽は何度も繰り返して聞くため、所有したいものだからです。一方映画の場合は、1つの作品を何千回も観ることはまれでしょう。それならレンタルのほうが、ハードディスクを圧迫しないし、価格も安く済みます」
ジョブズCEOは、iTunes Movie Rentalsに参加する映画の配給元を発表したが、最初はわざとマイナーな5社から紹介。続いて、20世紀フォックスやディズニー、パラマウント、ワーナーブラザーズ、ソニーピクチャーズ、ユニバーサルという6つのメジャー配給元が提携したことを明らかにすると、会場からは拍手がわき起こった。
米国では2月末までに1000以上のムービーがレンタル可能になるという。映画がDVD化されたら30日以内にレンタルを開始する方針で、レンタル料金は新作映画が3.99ドル、旧作が2.99ドルとお手軽な価格だ。レンタル期間は30日で、視聴開始から24時間を過ぎると再生できなくなる。ただし、視聴開始後24時間以内なら再生するハードウェアを選ばないので、MacのやPCのデスクトップで見るのも、iPodやiPhoneで見るのも自由だ。後述するApple TVにも対応しているため、リビングの大画面テレビでも映画を楽しめる。
ダウンロード途中から視聴を開始できるのも特徴のひとつで、会場のデモではレンタルボタンを押してから30秒ほどで再生が始まった。再生機器を変える方法は、iTunesを使って項目を移動するだけ。ムービーの画質はDVDクオリティーのものと、HDクオリティーのものがあり、HD画質の映画のレンタル料金は1ドル高い設定だ。このHD画質の映画は、2月末までに100以上のタイトルを準備するという。
iTunes Movie Rentalsは米国では基調講演当日よりサービスを開始するが、「それ以外の国では、年内にはサービスを開始したい」という。かつてiTunes Storeで音楽を購入できるのは米国在住者だけだったが、徐々に対応国が増えていった。音楽のときのように、iTunes Storeで映画のレンタルが日本でも開始されることを期待したい。
初代は失敗だった!? Apple TVの機能強化
ムービーレンタルの開始に伴い、セットトップボックス「Apple TV」もアップデートを果たした。ジョブズCEOは、「Apple TVで人々が何を求めるか、それは映画、映画、映画なのです!」と、3回も「映画」という単語を繰り返した。
そして、初代Apple TVを失敗と認め、「Take 2(=2回目撮り直し)」として、新しいApple TVを紹介。今まではパソコンと接続して使うのが前提だったが、今回のアップデートにより、Apple TV単体でさまざまな機能が使えるようになる。
まず、iTunes Storeを通じた映画のレンタルをApple TVから直接行える点だ。映画によってはレンタルするかダウンロード購入するかの選択肢が現れる。また、HDクオリティーのムービーを再生可能になったほか、.MacやFlickrに保存したインターネット上の写真をスライドショーで再生したり、ポッドキャスト/ビデオキャストにも対応。もちろん、iTunes Storeでの曲や番組の購入もApple TVだけでできる。YouTubeで再生できる動画の数も増えており、5000万本の動画をストリーミング再生可能だ。
実は、Apple TVによるFlickrの写真の全画面再生をするデモで、画面が真っ暗になって失敗するハプニングが起きたものの、ジョブズCEOは巧みなトークですぐに会場の雰囲気を持ち直した。
なお既存のApple TVユーザーは、ソフトウェアをアップデートすれば無償で新機能を活用できる。また販売価格も見直されており、従来は299ドルだった40GBモデルが229ドルに、399ドルだった160GBモデルが329ドルに、それぞれ70ドルずつ値下げされている(日本では価格据え置き)。新バージョンのApple TVは、米国では2週間以内に出荷される予定だ。
iTunesへの取り込みが可能なDVDタイトルが登場
Apple TVのデモに続いて、壇上にはアップルとオンラインによるムービーレンタルの契約を最初に結んだという20世紀フォックスの社長兼CEOのジム・ジアノプロス氏が現れた。
「映画のビジネスで成功する2つの秘訣は、『いい映画を作る』『できるだけ多くの人に見てもらう』ことです。簡単にアクセスできて、便利で、見る場所や時間を選ばず、持ち歩ける──その答えがこれです」
ジアノプロス氏がそう語ると、背景のスクリーンには同社が配給するマンガの主人公、シンプソンがiPodのコマーシャルのように黒いシルエットで踊るパロディームービーが流れ、会場は笑いに包まれた。
ジアノプロス氏は、「スティーブからオンラインでの映画レンタルの話が来たとき、興奮しました。iTunes Movie Rentalsは、映画のレンタルビジネスを一新する革新的なことです」と語り、続けて「iTunes Movie Rentalsで映画をダウンロードするだけでなく、DVDをパッケージで買うのを好むユーザーもいます。そういう人にもiPodで映画を楽しめるように、デジタル機器にコピーする権利を含んだDVDパッケージを販売することにしました」と、「スターウォーズ」のパロディー「Family Guy - Blue Harvest」のDVDパッケージを手にして見せ、拍手喝采を浴びた。
このDVDは通常のDVDプレーヤーで再生できるほか、「iTunes Digital Copy」というiTunesに転送可能なデータが含まれている。そのため、iTunes Storeで購入した場合と同じく、Apple TVやiPodでDVDコンテンツを楽しめるというものだ。
余談だが、デジタルコピーが含まれたこのDVDパッケージは基調講演と同日に発売される予定だったが、一部の予約購入者に1月15日より前に届いてしまい、それによって、iTunesを使った映画レンタルの情報が基調講演より事前に漏れたいきさつがあった。
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