「iPhoneの会社」JDIがBtoCに参入するワケ

文●盛田 諒(Ryo Morita)

2018年08月01日 19時00分

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 ディスプレーメーカーのジャパンディスプレイ(JDI)が8月1日に戦略発表会を開催。同社では初となる個人向け製品(BtoC)の参入を発表した。市場参入後、3〜5年以内の収益化をめざす。ねらいは既存ドメインの活性化だ。「モノづくりからコトづくり」「ディスプレイからインターフェース」を掲げ、「定期課金ビジネスの導入」「社会的課題の解決」を謳い、「新生JDI」に意気込みを見せる。

●「ただの部品メーカー」脱却めざす

 個人向け製品の例として、ヘルメットにオートバイの速度や位置情報を投影できるスマートヘルメット、鏡がディスプレーに切り替わり「数秒前の映像」を投影できるデジタルミラー、映像がわずかに浮きあがっているように見える半立体5.5型ディスプレーなどをコンセプトモデルとして発表した。発売日などは未定。

 いずれも同社の技術をデモンストレーションするような製品だ。たとえばスマートヘルメットは車載用ヘッドアップディスプレー技術、デジタルミラーには液晶スイッチを備えたディスプレー技術、半立体5.5型ディスプレーには同社が17型8Kディスプレー向けに開発した「ライトフィールドディスプレー」技術を応用した。

 製品はいずれもただ消費者にモノを売るだけではなく「コト」を意識する。たとえばスマートヘルメットは2020年に東京五輪の警護に応用するなど、社会的課題の解決につなげたいとする。半立体5.5型ディスプレーは、好きなキャラクターを有料でダウンロードするような定額課金ビジネスの導入を考えているという。

 同社常務執行役員の伊藤嘉明CMOはBtoC参入について、同社が今後進んでいく新たな方向には「部品だけではない部分もやはり必要」と話した。

 同社はソニー、東芝、日立製作所など国内大手のディスプレー事業を統合した企業。国内大手が相次いでBtoCから撤退する中、未来はあるのかと問われると、「撤退したのはちゃんとしたイノベーションを推進したものが出ていないからじゃないか。一消費者から見ると、やれるべきことをやってないんじゃないか。やれていれば、もっとわくわくできるはずだ」(伊藤CMO)と強気の姿勢も見せた。

 参入の背景にはモバイル向けディスプレー市場の不安定さもある。

●技術の方向性決めるアイデアに

 JDIは小型〜中型ディスプレーが主力だ。スマートフォン向けディスプレーでは世界トップシェア、中でもアップルiPhoneへの液晶ディスプレー供給は同社の業績に大きく貢献した。業界外では「iPhoneの会社」と思われているところもある。今年9月にアップルが発表するとみられる新iPhoneにもJDI製のフルアクティブディスプレーが採用されるのではないかとする観測がある。JDIでは縦型蒸着有機ELの量産化を2019年度めどに進めているが、サムスン電子が採用する方式などとは異なっており、まだまだ遠い道のりである可能性は考えられる。報道ではアップルからの大型受注を量産化までの「時間的猶予」という形で伝えている。

 しかしモバイル向けはアップルのような大企業の動向次第で業績が大きく上下してしまう不安定な市場だ。アップルがiPhoneに有機ELディスプレーを採用したこと、中国スマートフォン市場が減速したことなどが同社を大きく苦しめた。

 同社では長年続いた赤字体質を脱却すべく事業構造改革を進めている。経営資源の見直し・グローバル競争への対応と並んで挙げているのが事業ポートフォリオの再編だ。同社では事業の多角化を進めており、モバイル向け以外にも、車載向け、ウェアラブル向けなどで世界トップシェアを獲得した。VR向けでもトップシェア獲得をうかがっており、多角化の足場は確実にかたまりはじめている。

 一方、今回の個人向け事業は他の事業ドメインとはやや毛色が異なる。既存ドメインがもっている技術を応用して製品のコンセプトに落とし込む「社内起業部門」をつくった形だ。自社で個人向け製品を作り、市場からフィードバックを受けて、既存の事業ドメインに「この技術をこういう方向に変えたらいいのではないか」という意見として戻すという流れを想定する。自社で看板製品を出して一発ドカンと当てるというのではなく、パートナー企業やスタートアップとも協同し、技術を市場に出していくための足がかりにするという意味合いが強そうだ。

 ただ、気になったのは発表された製品のコンセプトに既視感があったことだ。

●3ヵ月でコンセプト作れた速度に注目

 同社の技術を使えば同ジャンルの競合製品を駆逐できるほど価格や品質にインパクトがあると思わせられるだろうか。たとえば伊藤CMOはミラーを指して「9〜10年前のテクノロジーが使える。なんで出してこなかったと思う」と自社への不満をぶつけていた。「(アイデアが)既存ドメインからは出てこない。『お客さんからこれを作れと言われたわけじゃないから』という社内のカルチャーを変えたかった」ともぼやいた。BtoCには技術力だけではなく、顕在化していない需要を読む力、価格や販路を設計する力など、総合的な力が必要だ。サブスクリプションモデルを考えるなら、ウェブを通じたビジネスノウハウも不可欠だ。マスプロモデルでは参入しづらいニッチ市場に踏みこみ反応を見るのはいいが、「お客さんからこれを作れと言われたわけじゃない」というのはそれなりの理由もあるように思う。

 とはいえ、動きそのものはおもしろい。コンセプトモデルはわずか3ヵ月で作られたらしく、スピード感はとても刺激的だ。課題は多そうだが、いずれにしても「新生ジャパンディスプレイ」の象徴的な動きとして注目を集めるだろう。



書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、家事が趣味。赤ちゃんの父をやっています。育児コラム「男子育休に入る」連載。Facebookでおたより募集中

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