アップルiPhoneデュアルSIM化の理由

文●松村太郎 @taromatsumura

2018年10月09日 09時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 アップルは2018年モデルのiPhoneで、Androidスマートフォンに遅れながらもデュアルSIMへの対応を実現しました。デュアルSIMとは1台のスマートフォンに2枚のSIMカードを差し込める仕様のこと。個人的にはとてもうれしい機能です。

 筆者は米国と日本を行き来して過ごしていますが、日本では国内の電話番号とデータプランを使った方が快適だし、米国で日本のSIMを差していると電話を受けるだけで100円以上の通話料がかかってしまい、現実的ではありません。渡航先のSIMを飛行機の中で差し替えなければなりませんでした。

 ところが暗くて狭い飛行機内で、おまけに眠い長時間のフライト……よくここまでSIMをなくさずにこなしてきたものです。

 しかしこれでもまだ不完全でした。iPhoneに差し込んでいないSIMは待ち受けができず「圏外」状態になってしまうわけです。それがイヤなら2台のiPhoneを用意するという非経済的な方法を採るしかありませんでした。

 デュアルSIMなら、渡航先のプランも、SIMの差し替えなしに1つのiPhoneで管理できるようになります。もう飛行機の中で、眠い目をこすりながら、小指のつめほどの小さなチップに神経をとぎすませる必要はないのです。

eSIMをサブ回線に設定して便利に使う

 ただし物理的なSIMスロット2つでデュアルSIMを実現するのは中国向けに販売されるiPhone XS MaxとiPhone XRのみ。そのほか国向けのiPhoneは1つの物理的なSIMと内蔵されたeSIMを活用したデュアルSIM対応となります。

eSIMが規制される中国では、通常のSIMトレイの上下に2枚のnano-SIMを装着できるようにし、デュアルSIMを実現する。対応モデルはiPhone XRとiPhone XS Maxだ

 eSIMはApple Watchにも用いられている、SIMカードを差し替えずに書き換えられるSIM。iPadでは「Apple SIM」として同様の仕組みを用意しましたが、今回は「eSIM」と業界標準的な呼び方をしたことから独自規格ではないようです。

 eSIMには複数の国のモバイル回線を登録できますが、有効化できるのは1度に1つ。eSIMで選んだ回線と物理的なSIMの回線でデュアルSIMを実現するということです。eSIM側をサブに設定するのが自然な使い方かな、と想定しています。

 アップルの発表会で日本の通信会社名はありませんでしたが、米国ではVerizon、AT&T、そして筆者が使っているT-MobileがeSIMサポートを表明していました。

eSIMをサポートする携帯電話ネットワーク。日本の企業名は9月12日のiPhone発表イベント時には見られなかった

 しかしSIMロックがかかったiPhoneの場合、eSIMに書き込める回線もロックをかけた通信会社の回線のみになってしまいます。たとえばAT&TにロックされたiPhone XSのeSIMには、AT&Tの別の回線しか書き込めないということです。

 幸い、筆者が利用するT-MobileはすべてのデバイスをSIMフリーで販売していますので、あまり心配する必要はなさそうですが。

海外でも日本の電話番号が使える

 さらに2018年モデルのiPhoneには、DSDS(Dual SIM Dual Standby)への対応もありました。

 DSDSは差し込んでいるSIMの両方を同時に待ち受けられる仕組み。日本にいるときも米国の回線の電話が待ち受け可能で、米国にいるときも日本の電話番号の電話を受けられるというわけです。

 特にデータプランはローミングが不利なことから渡航先の回線を使用することになりますが、どちらのSIMのデータプランを使うかも選べます。

 アップルはユーザーに対して、2つのSIMにラベルを付け、どちらをデフォルト回線にするかを決めさせます。その上で、音声通話を同時に待ち受けながら、データ回線やiMessage/FaceTimeを有効化する回線を選択するのです。

回線にラベルを付けてわかりやすく区別できるようにする仕組みも備わる
2つのSIMカードのモバイル回線の音声通話・SMSを同時に待ち受けられるようになる

 疑問に感じるのは、「iMessage/FaceTimeはiCloudに電話番号を関連づけておけば、SIMに関係なく送受信できるはず」ということ。

 たとえば、同じiCloudアカウントにログインしているT-MobileとNTTドコモのSIMを差し込んでいるiPhoneを1台ずつ用意している場合、T-Mobile側のiPhoneでも、ドコモの番号のiMessageの送受信に対応できるからです。

 おそらくですが、iCloudにログインせずにiMessageやFaceTimeを電話番号で利用する際の話をしているのではないかと思います。実際にデュアルSIM環境を使ってみないと分かりませんが。

SIMカードがなくなる未来へ

 iPhoneのSIMトレイを観察すると、防水機能を実現するため非常に小さいゴムが仕込まれていることが分かります。

iPhone XのSIMトレイには小さなゴムが仕込まれている 編集部撮影

 頻繁に開閉される可能性があるSIMトレイの防水には気を使いますし、入れ替える側も、水が浸入する可能性が最も高い場所だと心配になってきます。

 しかしアップルがeSIM内蔵のデュアルSIMに対応したことで、将来的にSIMカードスロットをiPhoneから排除することができるようになる、そんな可能性が開けてきます。もちろんアップルの都合だけで廃止できるヘッドフォンジャックやホームボタンとは違いますから、そうすぐに、というわけではないでしょうが。

 アップルによると、eSIMへの書き込みは、

(1)キャリアから提供されるQRコードを読み取る
(2)キャリアアプリから書き込む
(3)手動で情報を入力する

 という3種類の方法があるといいます。2つ目のアプリからの書き込みはすでにiPhoneがアクティベートされている前提ということになりますから、サブ回線をeSIMに書き込む場合の方法となりそうですね。

 ただ、iPhoneのアクティベート前にモバイル回線を書き込めるなら、キャリアからSIMの発行を受ける必要がなくなるかもしれません。現在米国ではスーパーやコンビニでSIMカードが棚に陳列されて販売されていますが、これもそのうちQRコードに置き換えられるのかもしれません。

 現在、携帯電話ショップで多くのiPhoneが販売されていますが、モバイル回線の契約とデバイス購入の優遇は長年セットとなってきました。モバイル回線とiPhoneがeSIMによって分離されるようなことがあれば、ビジネスモデルや携帯電話の買い方も変わる可能性があります。

 ただ、現在のアップルにとってそれが得策かどうかは分かりません。なんらかの形でiPhoneの購入代金が割り引かれなければ、ユーザーはなかなかiPhoneの価格に手が出なくなっていくからです。


筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

mobileASCII.jp TOPページへ

mobile ASCII

for Biginnersスマホ入門

スマホからスマホへ機種変更する前に読む! 各種アプリ&サービスのデータ移行・引き継ぎ方法

「Xperia A」「GALAXY S4」へ機種変更したらチェック! ケータイとの違い&スマホの使い方をマスターしよう

「Xperia A」ほか夏スマホ購入前にチェック! スマホへの機種変更&乗り換えQ&A

スマホのトラブル解決ガイド2013

スマホ定番アプリ活用術!

連載:スルッとわかる! 高速通信規格「LTE」

おサイフケータイ乗換案内!

Linkリンク